サイエンス

AI による密漁の防止

自然保護活動家たちは、非合法の商業漁業と闘うため、船に人工知能 (AI) を導入したいと考えています。

ほとんどの漁業監視員は、数百マイルも沖合の太平洋に出て、1 回につき数週間もマグロ延縄漁船などの船に乗り、ほぼ休みなく働きます。 それにもかかわらず、あまり感謝されることのない仕事です。特に、せっかく捕まえた魚を毎回のように確認するとなると、漁師たちから厄介がられることも少なくありません。 この確認作業では、「混獲」と呼ばれる意図しない漁獲も対象になります。混獲は違法となる場合があり、当局への報告が必要だからです。

実は、世界中で提供される魚介類のうち約 20% は違法な捕獲にあたると推定され、 この違法な捕獲のほとんどが、認可を受けた船で行われています。つまり、不法操業の船ではないのです。

AI を活用した新しい監視システムは、いわば魚用の顔認識システムであり、近い将来、漁業監視員の業務をサポートし、世界中の魚類の健全な繁栄に役立つようになるはずです。

[Read related story about AI: Does Whale Snot Hold the Secret to Ocean Health?]

公海上の AI

The Nature Conservancy (TNC) のハイテクに精通した自然保護活動家たちは、商業漁船において AI を搭載したビデオ監視装置の使用を推進しています。 この装置に搭載されたマシンラーニング・ソフトウェアは、大きさ、形、色で魚の種類を識別できます。

人間の監視員を漁船に割り当てる代わりに、漁業規制当局はデジタルカメラとソフトウェアによって、船上の漁獲の様子を捉え、その内容の合法性を判断しようというわけです。

TNC のインド太平洋マグロプログラムを指揮するマーク・ジムリング氏は、「当初、このアイデアはかなり懐疑的に受け止められました」と振り返ります。 無理もないでしょう。AI 画像認識テクノロジーは、まだまだ進化の途上にあるからです。 白いスクリーンを背景にした静的な制御環境や、ベルトコンベアーで移動する一貫した物体の流れを監視する場合であっても、高い信頼性を確保するのは容易ではありません。

「[But]しかも、レンズに塩水が吹きかかり、明るさが昼夜で変化し、魚がそこら中で動いているような極めて動的な環境に[lighting]、あえてそれを導入しようとしているのです」とジムリング氏。

それでも、船上で懸命に働く少数の監視員に報告を頼っている現在の監視モデルからすると、これは大きな進歩です。

Western and Central Pacific Fisheries Commission によると、報告されていない違法な漁業による推定損失は毎年 15 億ドル (約 1,700 億円) にも上るそうです

電子モニター (EM: Electronic Monitor) とも呼ばれる搭載ビデオカメラなら、人間の監視員に代わることができます。 この電子モニターは船の通信システムに接続され、 誰かがレンズをいじったり、覆ったりすると、地域の漁業規制当局に警告が送信されます。

しかし、出漁から戻ったあと、1 回の漁で収集した映像の確認に数百時間もかかる場合があります。そこで、TNC では、まるで魚用の顔認識システムのような動作をする AI アルゴリズムの開発を開始したのです。

機械に魚の識別方法を教える

TNC は Kaggle でコンテストを開始。Kaggle は、競い合うことでデータ科学の進歩を促進するクラウドソーシング・サイトです。TNC では、100 チームがコードを提出してくれれば、このコンテストは成功だろうと考えていました。 ところが、実際には約 2,300 チームが参加。これまで Kaggle 社が主催した中で最も人気のあるコンテストの 1 つになりました。 TNC は 15 万ドル (約 1,700 万円) の賞金を上位 5 チームに分配。 さらに、電子モニターメーカーの Satlink 社と連携して、上位入賞者が開発したコードの有効性をテストしました。

船上で違法な漁獲を記録する漁業監視員
ミクロネシアのパラオの沖合で延縄漁船の漁獲を確認する漁業監視員 (右)。 写真提供: メアリー・キャサリン・オコーナー氏。

TNC のジオグラフィック・インフォメーション・システム (GIS) グループを率いるマット・メリフィールド氏は、こう語ります。
「目標は、有効な実例を獲得し、現在の電子モニターベンダーが既存のワークフローに接続することのできるウェブサービスのセットを用意することです。 つまり、電子モニター用のワークフローを新たに考案するのではなく、それを拡張するツールを作成したいのです」

一方で、「このソフトウェアは、誤った識別から学習し、時間とともに精度を上げることができます」と説明するのは、 Snap Information Technologies 社の CEO、クリス・ロドリー氏です。ニュージーランドに本社を置く同社は、TNC の AI アルゴリズム改良を支援した企業です。

このマシンラーニングのアルゴリズムでは、電子モニターが捉えた映像のアーカイブを使用して、それぞれの魚がさまざまなアングルや幅広い照明条件下でどのように見えるかを学習します。 その後、人間の監視員の力を借りて、学習したプログラムがビデオの中の魚をどの程度識別できているかを確認し、修正します。

ロドリー氏らは、このシステムのおかげで、電子モニターの確認時間を 40 時間から数時間に削減できると考えています。 これにより、監視員は確認作業から解放され、ほかの業務に注力できるようになります。

AI の使用による持続可能な漁業

ジムリング氏によると、TNC の目標は、漁業における透明性の向上と、法律に違反した船に説明責任を負わせることだといいます。 AI ソフトウェアが、人件費の削減および高精度の漁獲の識別に効果的であると分かれば、その利用は広がるでしょう。

船上の漁業監視員
船上の漁業監視員が手作業で行ってきた仕事が、AI 搭載の電子モニターによって楽になる可能性があるというわけです。 写真提供: メアリー・キャサリン・オコーナー氏。

大手の商業漁業企業が、競争優位を獲得するために透明性を向上したいと考えるなら、積極的に利用する可能性もあります。 あるいは、大手小売企業が、合法的な漁業の実施を検証するため、その供給元のすべての船でこの新しい電子モニターシステムの使用を要求し始める可能性もあります。

しかし一方で、フランシスコ・ブラハ氏が言うように、「実用上、重大な障害に直面している」という指摘もあります。 元漁師であり、現在は行政や規制局のコンサルタントをしているブラハ氏によると、テクノロジー・プロバイダーは規制当局と緊密に連携し、AI が生成するビデオの正当性を裏付ける法的なフレームワークについて合意する必要があるといいます。 その内容は、電子的証拠の有効性から、許容可能な誤差の範囲まで、広範囲に及びます。

「正当性を確保するために、開発者はかなりのリソースを費やして AI に磨きをかけなければなりません。特に、漁船上での照明条件や動きは極めて予測が困難です。つまり、ソフトウェアの分析対象が絶えず変化することになるため、開発は容易ではないでしょう」とブラハ氏。

さらに、AI の活用を推奨しているのは TNC や 電子モニターベンダーで、政府の規制当局ではないという問題もあり、導入にふさわしい時期までは (たとえあったとしても) 設定されていません。 それでもブラハ氏は、魚介類が世界中で極めて重要なタンパク質源であることから、努力するだけの価値があると信じています。また、業界に対しては透明性の向上とさらなる説明責任が必要であるとも考えています。

「人間の監視員を船に乗せるという対策そのものは、拡張できません」と TNC のジムリング氏。 その意味でも、魚用の顔認識ソフトウェアは、決して船に酔うことのない敏腕のロボコップとなり、最終的には密漁の阻止に役立つでしょう。

※文中に記載の金額は、日本語原稿執筆時の為替レートで計算しています。

メイン画像の写真提供: メアリー・キャサリン・オコーナー氏。

 

 

この記事をシェア

関連トピック

サイエンス テクノロジー・イノベーション

次の記事

Read Full Story