テクノロジー・イノベーション

バーニングマンの通信環境を支える女性リーダー

Julian Smith Writer

まるで別世界に迷い込んだかのようなアート、音楽、自己表現の祭典バーニングマン。砂漠の過酷な状況下で、この大規模イベントをどのようにスムーズに運営しているのか。イベントを支えるテクノロジーの構築 、管理を担当する女性リーダーを取材しました。

ヘザー・ギャラガー氏がスーツを脱ぎ捨て、髪をドレッドヘアにしたのは 20 年前のことです。彼女はテクノロジーに関する知識や経験を、迷うことなくバーニングマンに捧げました。バーニングマンとは、年に一度、ネバダ州のブラックロック砂漠で開催されるイベントです。

毎年夏の終わりに、数万人もの人々が人里離れたネバダ州北東部に集まり、1 週間にわたって、アートや音楽、急進的な自己表現を楽しみます。

提供:John Curley

火を吐く乗り物や、高層ビルを使ったアート・インスタレーション、華やかなスチームパンク風の一団 (スチームパンクとは、19 世紀の産業革命時代に SF を融合させたような世界観)。ブラック・ロック・シティーと呼ばれる仮設都市には、空港、警察、運転免許試験場、IT や通信のサービスなど、あらゆるものが整備されます。

そのなかで、バーニングマンのテクノロジー・ディレクターであるカメラガールことヘザー・ギャラガー氏が担当するのが、IT と通信サービスです。

プラーヤと呼ばれる荒涼たる平原で、ギャラガー氏と彼女のチームは、雑多なイベントを構成するさまざまな要素を相互に結び付け、その一部を外の世界ともつなぎます。

「ブラック・ロック・シティーに来る人たちは、そんなテクノロジーが存在することすら知りません。でも、それでいいのです。テクノロジーが参加者の体験を豊かにしてくれさえすればね。逆に気が散るようでは失敗です」とギャラガー氏。

彼女は、北米屈指の過酷な環境で、毎秒 80 Mb のインターネット接続を維持することがどれほど困難かを承知しています。砂漠では、焼けつくような日差しも豪雨も砂じんの嵐も、日常的に発生します。しかも、バーニングマンに持ち込んだものはすべて、持ち帰らなくてはなりません。このイベントは、理念の 1 つに「痕跡を残さないこと」を掲げているからです。

しかしギャラガー氏は、こうした課題も、仕事の一部と考えています。プラーヤで継続的にハードウェアを動作させるためのルールは、どのオフィスでも通用するはずです。それは、「冷却すること、電源を維持すること、開放しないこと、外の環境にさらさないこと、バックアップを取ること」です。

バーニングマンの世界に出会うまで

ギャラガー氏は、故郷のバージニア州でコンピューター情報システムとコンピューター・サイエンスの学位を取りました。その後 10 年間は、歴史ある米国企業で、電気通信とインテグレーションに関わるコンサルタントを務め、十数種類のプログラミング言語を習得しました。

「こう見えても、スーツにストッキングで働いていた時期もあるんですよ」と、ギャラガー氏は笑います。カラフルなドレッドヘアにたどり着くまでには、長い道のりがあったのです。

バーニングマンの参加者を意味する「バーナー」の世界を知ったのは、1999 年にサンフランシスコに移り住んだ後でした。

「友人が、それは熱心にバーニングマンの話をしていたのです。異様な感じがしましたね。でも、翌年に参加してみたら、大いに気に入りました。輝かしい幸福な社会を実現するための新しいルールに出会えたような感じでした」

それからしばらくして、ギャラガー氏はバーニングマンの写真チームのリーダーとなり、カレンダーの作成を担当。そのときついたニックネームがカメラガールでした。さらに 2003 年には IT スタッフとなり、2004 年にはテクノロジー部門の管理者に就任しました。

「テクノロジーとテクノロジーの接点ではなく、テクノロジーとユーザーや人間の接点で仕事がしたいと思ったのです」とギャラガー氏が語るように、彼女はテクノロジーを使って、とりわけ人に関わることに携わりたいと考えました。

充実した通信環境

バーニングマンは、この 10 年間で参加者が急増。年間を通じて世界各地でイベントを行うグローバル・ネットワークへと進化しました。フルタイムの従業員約 80 名に加え、数百名のボランティア、イベントシーズン中に海外からやってくる短期の労働者と請負業者など、実にたくさんの人たちがこのイベントに関わっています。おかげで、主にネットワーク・エンジニアリングと Web 開発に携わるギャラガー氏は一年中大忙しです。

ここ 2 年間は、バーニングマンの Web サイトの整備と、非営利団体となるにあたっての .org ドメインへの移行を指揮してきました。最近はこれ以外にも、ブラック・ロック・シティーで作品を披露したいアーティストに向け、申請の許可から、運搬、フォローアップ・レポートまで、あらゆることに対応できる管理プラットフォームを開発しています。

イベントのひと月ほど前になると、ギャラガー氏は、30 ~ 40 名のチームに非常勤の請負業者やボランティアを加えたメンバーで砂漠へと向かいます。そして、数 km に及ぶイーサネット・ケーブルを接続した通信タワーに、小型のマイクロ波ディッシュ (パラボラアンテナのような形をしたマイクロ波用の反射板) を何十個も設置します。

ギャラガー氏は、20m 近い鉄塔を上ることもあれば、土中にケーブルを埋めることもあります。それでも、大抵は建設作業というよりは、むしろレイブ (音楽とダンスの大規模な屋外イベント) にふさわしいいでたちです。

ちなみに、この仕事にご興味のある方は、現在ネットワーク・エンジニアを募集中 (原稿執筆時点) です。

米国連邦通信委員会 (FCC) の認可を受けたブラック・ロック・シティーのマイクロ波インターネット回線は、バーニングマンの運営スタッフが設置し、近隣のガーラック地区で管理されている高さ 30m 以上の通信タワーを利用。このネットワーク回線は、ゲート操作から緊急サービスに至るまでさまざまな部門をつなぎ、その帯域幅はほぼフル活用されています。ただし、バーニングマンの期間外は、地元住民に無料でこのインターネット接続を提供しています。

参加者たちのインターネット接続には制限が設けられているため、移動体通信ネットワークのプロバイダー各社に、暫定的なサービスノードを提供してもらっています。それでも、イベントの準備や運営にはインターネット接続が欠かせないため、ギャラガー氏は参加者たちに、イベント期間中はむやみに接続しないように伝えたと言います。

ネットワークの使用は、現場体験を重視するバーニングマンの趣旨に反するため、「参加者がネットワークを使えないようにしたらどうかと考えた時期もありました。ネットに接続できる時間が少ないほうが、より豊かな体験が得られることが多い、というのが私の持論です」とギャラガー氏。

バーニングマンの開催間際になると、チームの仕事のほとんどをトラブルシューティングが占めるようになります。例えば 2015 年には、ロサンゼルスのデータセンターでデータ量が爆発的に増えたため、ベンダー・チケット・システムとのデータのやり取りに障害が発生しました。

「イベント開始前の土曜日に、インターネットに大穴が開いてしまったのです。成すすべはなく、自然に復旧するのを待つばかりでした。自然治癒のようなものです」

2016 年の今年、テクノロジー・チームは、ガーラック地区に通信タワーを新設。ブラック・ロック・シティーに第 2 のインターネット接続を確立して万一に備えようとしています。あとは、すべてを稼動させれば成功したも同然です。

「もちろん、1 週間のお祭り騒ぎにも参加しないとね。一族の再会みたいで、ものすごく楽しいですよ。私は、遊びと仕事を一度に楽しみます」、とギャラガー氏は語っています。

 

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