イノベーションを生み出す母たち

反応するウェアラブルに自然な動きを!

Ken Kaplan Executive Editor, iQ by Intel

オープンソース・コーディングからバイオミミクリー・カクテル・ドレス※まで、インテルのイノベーション・エンジニアであるカロリナ・チャンジアが手がける作品を見れば、新世代の女性たちがいかにして従来の知識と独学で得たスキルを融合し、ウェアラブル・テクノロジーの新たな世界を切り拓いているかが分かるでしょう。彼女の作品の数々は、ニューヨーク・ファッション・ウィークのランウェイと国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショーを彩りました。 ※バイオミミクリーとは、自然界の生物が有する構造や機能を模倣し、新しい技術を開発すること。「バイオミメティクス」、日本語では「生物模倣」とも呼ばれます。

幼いころからキャリアパスをスタートする女性もいますが、12 歳の頃のカロリナ (カーリー) には将来の夢などありませんでした。コンピューターとオープンソース・ソフトウェアのコーディングに夢中だった彼女ですが、90 年代半ばのこうした関心が、ウェアラブル・テクノロジー開発の最先端に彼女をいざなうとは誰も想像しませんでした。

現在、彼女はインテルのイノベーション・エンジニアとして、ファッションデザイナーのもと、着用者の変化する心身状態に合わせて形や色が変わるアダプティブな衣服の製作をサポートしています。

2015 年ニューヨーク・ファッション・ウィークで、アドレナリン・ドレスの準備をする Chromat のデザイナー、ベッカ・マシャレン氏とインテルのイノベーション・エンジニア、カロリナ・チャンジア。

イノベーションにバイオミミクリーのアプローチを取り入れているチャンジアは、テクノロジーと素材を駆使して衣服に新たな機能をもたらしています。ただし重要なのは、テクノロジーを自然な形で衣服に取り込み、機能させることです。

「私は、デザイナーを機械的な要素から開放し、ぎこちない動きではなくスムーズで有機的な動きになるようにサポートしたいと考えています。自然の中で目にするような動きを衣服で表現したいのです」とチャンジア。

彼女は先日、ファッション・ブランド Chromat (クロマ) を手がける先進的なファッションデザイナー、ベッカ・マシャレン氏による羽付きのアドレナリン・ドレスと、着用者に反応するエアロ・スポーツ・ブラの製作をサポート。2016 年春夏ニューヨーク・ファッション・ウィークで発表しました。 コンピューター技術とセンサーを駆使したこの作品は、着用者の心拍数と発汗レベルに自律的に反応します。

アドレナリン・ドレスは、着用者に合わせて背中の羽を広げたり縮めたりすることで感情を表現。一方のエアロ・スポーツ・ブラは、わずかに開いて体温を逃がし、快適性を保ちます。

このブラは、発汗、呼吸、体温の変化を感知し、コンピューターのコマンドに応じて通気孔を開閉する特殊な素材で作られているのです。

「形状記憶合金を採用することで、より有機的に変形させることができました」と説明するチャンジアは、折り紙教室がヒントになったと言います。

また、これらの作品は販売が目的ではなく、ウェアラブル・テクノロジーで実現できることを明らかにするための実験だと強調。

「動物の生態から多くの影響を受けました。日常的に接している植物や木々、自然もヒントにしています」とチャンジア。

インテル CEO のブライアン・クルザニッチが 2016 年国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー CES で行った基調講演のステージ上では、アドレナリン・ドレスとエアロ・スポーツ・ブラを着用したモデルたちとデザイナーのマシャレン氏が紹介されました。

2015 年ニューヨーク・ファッション・ウィークで、アドレナリン・ドレスの準備をする Chromat のデザイナー、ベッカ・マシャレン氏とインテルのイノベーション・エンジニア、カロリナ・チャンジア。

婦人服の試作品にバイオミミクリーを組み込んだチャンジアの出発点は、2013 年のプロジェクトだったと言えるでしょう。前衛的デザイナーのアヌック・ウィップレヒト氏とともに周囲に反応するシナプスドレスを製作したのです。

ウィップレヒト氏は、心拍数、脳の活動、精神状態などの生体信号を読み取るシナプスドレスを、「自分より自分をよく知るドレス」と評しています。

「私はソフトウェアを開発しただけ」とチャンジアは謙遜するものの、その作品を見れば、彼女が現代のメーカーであり、イノベーターであることは疑いようもありません。

2010 年にインテルに入社するまでコンピューター開発に携わっていた彼女は、おもちゃやロボットを動かすための演算システムや動作機構にあたるマイクロコントローラーやサーボ (指示した位置や速度になるよう制御する装置) を扱ったことはありませんでした。 インテルに入社後、ヘッドマウント型脳波センサーを iRobot およびワイヤレス・テクノロジーと統合し、感情で制御するロボットを製作。このときの経験が、着用者の感情に反応するシナプスドレスの製作に役立ったようです。 着用者が興奮するとライトが点滅し、衣服に埋め込まれたカメラが作動して大切な瞬間を記録します。着用者は指 1 本動かす必要はありません。

ボスニア生まれのチャンジアは、Linux オープンソース・ソフトウェア・コミュニティーで早くからコーディングの才能を発揮。言語学と哲学を学んだ彼女は、紆余曲折を経て、IoT、Web デザイン、ロボット工学、生物学、ファッションが複雑に絡み合った現在のコンピューター・サイエンスの世界にたどり着きました。

「何か新しいものに触れ、好奇心を持ち、調査を進め、そこから学び、これまで蓄積してきたものと結び付けること。それがイノベーションという作業です」とチャンジア。

使いやすくプログラミングしやすい電子機器で、ファッションとテクノロジーをつなげるという彼女のアイデアの実現に役立っています。例えば、インテル® Edison コンピュート・モジュールおよびインテル® Curie™ コンピュート・モジュールは、着用者の呼吸数、発汗量、体温を測定する身体センサーに接続されます。 これらのコンピュート・モジュールは、アルゴリズムを処理し、マイクロコントローラーや反応する素材を動作させます。

チャンジアは、最近手がけた Chromat とのプロジェクトを振り返り、「アドレナリン・ドレスは、人間の気まぐれな感情に反応するインテリジェントな衣服が実現する未来を示唆しています」とコメントしています。

今後の展望

チャンジアは、引き続きバイオミミクリーの開発を進める考えです。

「反応する衣服だけでなく、住環境において反応するオブジェクトにも関心があります。室内の状態や、周囲の環境にある物質に合わせて変化するモノです」

また、彼女は生物発光にも興味を抱いています。生物が光を使ってどのようにコミュニケーションしているかを明らかにしたいという彼女は、

「行き先に合わせて着るものを選べるようになり、その環境が自分をどのような気分にさせてくれるか、その環境でどんなコミュニケーションがしたいかを把握できれば、すごいことですよね」と目を輝かせます。

観衆の声援が大きいスポーツイベントなどでは、最初のガッツポーズや歓声で光るモノを身に着けることもできるでしょう。カクテルドレスも揺らめいたり変形したりすることで、パーティーで存在感を発揮するでしょう。その後はシンプルなブラックドレスに戻ります。あるいは、病院の予約がある場合は、心を落ち着かせてくれるアンダーシャツを着用し、触覚テクノロジーを使って着用者に冷静さを保つように促すこともできます。彼女の頭の中には、肌寒くなってきたら半袖のブラウスやベストが長袖になるような、反応する衣服の構想もあるようです。

「人々は意識的かどうかにかかわらず、衣服を通じて毎日コミュニケーションするわけです」と語るチャンジアは、テクノロジーとは、別次元への飛躍を可能にする存在だと考えています。

また、反応する衣服を応答性に優れた Web サイトと関連付けて、デバイスが感知するあらゆるものに対処できるようにすることも思案中です。

イノベーションを促す影響力

チャンジアは、インテルで、数学者、ハードウェアおよびソフトウェア・エンジニア、科学者、人類学者など、多種多様なチームメンバーと作業を進めています。彼らは、機械工学、情報科学、計算および神経システム、ナノテクノロジー、電気工学、宇宙物理学といったさまざまなバックグラウンドを持つ多彩なメンバーです。

従来の学問や学派の境界を越えて作業を進めることがイノベーションにとって非常に重要だと考えるチャンジアは、

それぞれ異なる得意分野があるからこそ、彼らから多くのことを学べるのだと語ります。

また、チャンジアが影響を受けた人物には、歌手のエリアーヌ・ラディーグ氏やイモージェン・ヒープ氏、ファッションデザイナーのイリス・ヴァン・ヘルペン氏フセイン・チャラヤン氏、建築家のフィリップ・ビーズリー氏、ノーベル賞を 2 度受賞したマリー・キュリー氏、Linux カーネル開発者のリーナス・トーバルズ氏などがいます。

歌手のビョーク氏もその 1 人です。チャンジアは、このアイスランド出身のアーティストの多種多様で総体的なアプローチを、ファッション・テクノロジーやソフトウェア開発、IoT、システム関連の作業に適用したいと考えています。

「ビョークの好奇心旺盛で、探究心が強く、子どものようになんでも不思議に思う性格が、仕事に対する真剣な姿勢と結び付く感じが刺激的なのです」とチャンジア。

彼女は、若いイノベーターたちには、どんなときも自分自身の関心事に任せて進んでほしいと願っており、「自宅で楽しむために取り組んでいる個人的なプロジェクトが世界を変えることもあるのです」と語っています。

また彼女がやってきたこと、彼女が使用しているツールやテクノロジーは誰でも利用できるものだとして、こう指摘します。

「誰もがイノベーターや空想家になれる可能性を秘めています。解決しなければならない問題は誰にでもあるからです。イノベーションは偶然の産物です。創造的なプロセスであり、発見のプロセスでもありますが、解決すべき問題がなければ成立しません」

さらに、「問題解決のプロセスは頻繁に変化します」と彼女。問題を解決している間にも、新たな発見があり、実験願望が生まれてくるからです。人はさまざまな場面で壁にぶつかりますが、プロセスに影響を与え、結果へと導いてくれる人々のコミュニティーはどんどん広がっていきます。

「私は、問題解決のプロセスを自力で切り開き、コアとなるスキルを自分で磨きたいと考えていますが、ほかの人とのつながりが作れるようになると、こうした作業がスムーズに進むようになります。今では、コードライブラリーの作成者のコミュニティーもあり、誰でも使える開発キットも用意されています。以前より発明に恵まれた環境と言えますね」(チャンジア)

2016 年 国際コンシューマー・エレクトロニクス・ショー (CES) にて

 

この記事をシェア

関連トピック

ファッション

次の記事

Read Full Story