仮想現実

VR でスミソニアン美術館巡り

Jason Johnson Freelance writer and editor

スミソニアン・アメリカ美術館 (SAAM: Smithsonian American Art Museum) の仮想現実 (VR) の制作者は、美術品にあふれたスミソニアン美術館の展示室を細部にわたりキャプチャーし、レンダリングするため、最先端のコンピューター・テクノロジーを利用しました。

SAAM に収蔵されている、フレデリック・エドウィン・チャーチの有名な絵画「オーロラ」には、光を放つ赤みがかった空が描かれています。キャンバスのサイズは 5 x 7 フィート (約 1.5 x 2.1 メートル) ですが、同サイズの他の絵画とは異なり、訪れた人を神々しいシーンの中へと惹き込みます。

VR ヘッドセットを使用すると、壮大で色鮮やかな環境の中を動き回って見ることができ、まるでそこにいるかのような感覚を味わえます。

この臨場感あふれる絵画は、SAAM で体験できる数多くの芸術的 VR の 1 つです。 ワシントン D.C. にあるこの美術館では、 東棟全体を VR で体験して、予想外の展開や驚きを味わうことができます。

「VR ヘッドセットを装着してバーチャル美術館に行くと、実際にいる場所がクリーブランドであってもカトマンズであっても、SAAM の所蔵品の世界に浸ることができます。

SAAM VR は、美術館の体験を仮想化する概念実証です」と、VALIS Studios 社でプロジェクトの主任クリエイティブ・ディレクター兼プロデューサーを務めるピーター・マーティン氏は語ります。

VR について考えるとき、ほとんどの人が最初に思い浮かべるのはゲームでしょう。

しかし、インテルのクライアント・コンピューティング・グループ、商用 VR 担当ディレクターであるクマー・チナズワミーによると、VR の商用利用は今後 5 年間で市場の半分を占めるようになるだろうといいます。

チナズワミーは、特に、教育、小売、輸送などの分野で VR の商用アプリケーションの数が増大すると考えています。 また、Goldman Sachs 社では、VR および拡張現実 (AR) の市場が 2025 年までに 1,280 億ドル (約 14 兆円) に成長する可能性があると推定しています。

「VR や AR などのテクノロジーによって、製品設計のリスクを低減し、お客様を魅了する新たな方法を提供し、臨場感あふれるトレーニング方法を実現することができます」とチナズワミー。

SAAM では貴重な所蔵品を VR にすることにメリットがあると考えており、マーティン氏のチームの支援を得て、デジタル領域で新分野を切り拓いています。

現在、極めて規模の大きい美術館では、所蔵品のうち約 5% しか展示されておらず、世界中の美術品の大半は一般には公開されていません。

2016 年の主要な美術館についての調査によると、パブロ・ピカソの絵画のうちほぼ半数が壁にかけられておらず、美術館の保管庫に収納されているそうです。 公開されていないのは、カラヴァッジオの「聖マタイと天使」に代表されるように、戦争や災害で完全に消失し、ただ数に含まれているだけの美術品ではありません。

SAAM には 47,000 点以上の美術品がありますが、約 90% が収蔵庫に入ったままで公開されていないのです。 これらの貴重な所蔵品を極めて高解像度でレンダリングできるようにすると、世界中のどこからでも、その美術品を体験できるようになります。

SAAM VR の取り組みは 2016 年に始まり、マーティン氏のチームは特別に 5 日間連続で美術館に通い詰めました。 高速カメラ、超高解像度カメラ、ビルの正確な寸法を測定するレーザースキャナー一式など、さまざまな機材が持ち込まれ、「まるで科学捜査班の犯罪調査のようでした」とマーティン氏。

オーロラ
画像提供: SAAM。

また、「すべての壁について 1 平方インチ (約 2.5平方センチメートル) ごとに スキャンと写真撮影を行う必要があるため、 極めて細かい作業でした」と振り返ります。

チームは、美術館の厳選したエリアといくつかの美術品を最高の精度でキャプチャーしました。 最初に行ったのは、各展示室の写真を約 2,000 枚撮影することです。

これらの写真をパズルのようにつなぎ合わせて、VR 体験の中に美術館の複製を構築します。 VR 体験がどこまでも本物そっくりになるように、VR 内に構築するものはすべて現実のものと同じ姿、形、テクスチャーにする必要がありました。

インテルで商用 VR/AR 体験を管理するラージ・プランは、

「これは口で言うほど簡単なことではありません。 実現するには、極めて多くの努力とコンピューティング能力が必要なのです」と強調します。

プロジェクトは、美術館の現場では計画どおりに進みましたが、撮影後の作業段階になって、マーティン氏はすぐに困った状況に直面しました。

Framestore 社の VR でシニア・クリエイティブ・デベロッパーを務めるジョハネス・サーム氏によると、この VR プロセスでは桁違いの量のデータが生成されたといいます。 そのため、チームが使用していた業界水準の PC では、負荷がかかり過ぎて処理に苦労することとなりました。 そのままジョブを実行し続けていたら、耐えられないほど長い時間がかかっていたことでしょう。おそらく約 3 カ月は要することになったのではとサーム氏は推測します。

スミソニアン美術館の塑像
画像提供: SAAM。

しかも厄介なことに、 このVR は 2017 年 1 月初旬にラスベガスで開催されるコンシューマー・エレクトロニクス・ショー (CES) での発表が予定されており、それまでにプロジェクトを完了させる必要がありました。

期限までわずか 1 カ月となったとき、マーティン氏は応援を要請しました。支援を求めた相手は、SAAM VR プロジェクトのスポンサーであるインテルです。

そのとき、「強力なコンピューティング能力が必要なんです」と伝えたことを

マーティン氏は覚えています。 こうしてマーティン氏は、市販のチップの中で最高クラスの速度を持つ 10 コアのインテル® Core™ i7-6950X プロセッサー (開発コード名: Broadwell-E) を搭載した特注の PC を入手しました。 この PC に備わるインテル® Optane™ メモリーは、当時はまだ市場に出ていなかった極めて高速のストレージ・テクノロジーです。

最新のデスクトップ PC のおかげで、画像を順序付ける面倒な作業が、24 時間からたった 6 時間にまで短縮されました。

美術館の数千もの写真をインタラクティブな体験に変えるこのプロジェクト。責任者を務めた xRez Studio 社の社長、グレッグ・ダウニング氏は、「新しいシステムによって処理速度が 3 倍に向上し、厳しい期限を守ることができました」と振り返ります。

マーティン氏によると、コンピューティング能力の高速化は VR に幅広い影響をもたらすといいます。 しかし、現状では膨大な時間を取られるため、VR 制作者は、現実空間を VR に保存する試みに対しては慎重です。

美術館の中の VR の経路
画像提供: SAAM。

「VR が成功するには、制作環境が高速になり、コストが低下する必要があります。 そうすれば、さまざまな体験ができるようになるでしょう」とマーティン氏。

展示室をそのまま再現した、今までに類を見ない VR 体験の 1 つとなった SAAM VR 。美術館を訪れる人は、臨場感にあふれたリアルな疑似体験を通して、美術や歴史の中にどっぷりと浸ることができます。 それは、未来の世界を垣間見ることのできる、わくわくする体験です。

コンピューティングや VR のテクノロジーが進歩するにつれ、こうした没入型の美術館体験は当たり前のものとなっていくでしょう。

編集者注: このストーリーにはロブ・ケルトン氏に協力いただきました。

 

 

この記事をシェア

関連トピック

エンターテインメント 教育

次の記事

Read Full Story