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「コンテキスト」と「素材」に着目したクリエイティブ・スペース

Intel Japan Writer

数多くの寺社、城址などの歴史的建造物を抱える京都。その中心から少し外れた一画に位置するのが注目のクリエイティブ・スペース「MTRL KYOTO(マテリアル京都)」です。

2015 年 12 月に誕生したこのコワーキングスペースは国内外から集めたユニークな「素材(マテリアル)」と、3D プリンターやレーザーカッターといったデジタル・ファブリケーション・マシンを常設し、クリエイターから観光客まで、さまざまな来訪者を惹きつけています。多くの人々が足を運ぶこの空間の特徴から、これからのクリエイティブ空間の在り方まで、MTRL KYOTO を運営する株式会社ロフトワーク京都オフィスにて責任者を務める森内章氏にお話を伺いました。

「MTRL KYOTO」が目指すもの

「京都には長い文化と歴史があり、街そのものが豊富なコンテキスト(文脈)を持っているといえます。最先端テクノロジーを活用した IoT の制作物でも、そこにコンテキストを持つ素材が掛け合わさることで、クリエイティビティーの度合いが高まるのでは、と考えました。京都という街と素材の背景、そこに『コンテキスト』という共通点を見いだし、『マテリアル』をこのスペースのコンセプトとしたのです。」と、森内氏は MTRL KYOTO のコンセプトの成り立ちを説明します。

写真提供:MTRL KYOTO 撮影:OMOTE Nobutada
写真提供:MTRL KYOTO 撮影:OMOTE Nobutada

MTRL KYOTO では、モノづくりに利用するための多様な素材(=マテリアル)が用意されています。「西陣織」や「丹後ちりめん」、「くみひも」など京都の地で生まれた伝統素材と、新しい技術から誕生した新素材・部材として、導電性インク「AgIC」や剝がせる塗料「masking color」、いろいろな機能を組み合わせることができる電子タグ「MESH」、オムロン株式会社の人の状態を認識できる画像センシングデバイス「HVC-C」など。バラエティーに富んだ、伝統と革新の素材を組み合わせることで無限の可能性が生まれます。

ここ MTRL KYOTO ではコミュニケーションによって伝統と革新のマテリアルが交差することで新たなアイデアが実際のプロジェクトとしてスタートする素地が整っており、実際に数々のプロジェクトが登場してきています。

素材にフォーカスすることで明るい展望が開けた丹後ちりめんの職人たち

写真提供:MTRL KYOTO 撮影:OMOTE Nobutada
写真提供:MTRL KYOTO

さまざまなクリエイターの「コミュニケーション」×「伝統素材」で発足したプロジェクトが「YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT」です。絹織物の”丹後ちりめん”の生産地である京都府与謝野町との取り組みで、慶應大学環境情報学部准教授、デザインリサーチャーでもある水野大二郎氏をディレクターに迎えたプロジェクト。MTRL KYOTO で選出したクリエイターが与謝野町を訪問し、地元の絹織物職人たちと合宿によるコミュニケーションを重ねながら、絹織物の新しい使い方についてディスカッションし、最終的に織りのプロトタイプの製作までおこないました。

「このプロジェクトの目的は、観光で町に来てほしいとか、外部のデザイナーやクリエイターとコラボして、丹後ちりめんを使った何か新しい売れる商品をつくろう、というものではありません。丹後ちりめんの可能性を見いだすことで、与謝野町の将来を担う若手の職人、特に 30 代、40 代の職人に対して将来の希望を持ってもらい、伝統的な仕事へのモチベーションを向上することなのです。」(森内氏)

確かに、現状のように和服の素材としてのみに丹後ちりめんをつくっていても、将来訪れるだろう需要の減少など、ポジティブな未来を想像することは難しい時代です。

「与謝野町は、和服をつくっているのでなく、絹織物という”素材”をつくっている点がポイントです。素材という大きな可能性を有するという前提に立つと、ビジネスの未来も明るい展望が描ける。そういうことを若い職人たちに感じさせたいというのが、与謝野町からの要望でした」と森内氏は説明してくれました。

コワーキングスペースという枠組みを超え、相互にコミュニケーションすることで新たな価値を創造したいという MTRL KYOTO のコンセプトが実現した取り組みです。実際、異なる種類の人たちが一堂に会し、相互にコミュニケーションすることで新たな可能性を探ることができたプロジェクトとなり、現在進行形で新たな活動も進められています。

YOSANO OPEN TEXTILE PROJECT
https://mtrl.net/projects/yosano/

京都在住外国人がコンテンツを仕掛ける「Kyoto VR」

写真提供:MTRL KYOTO
写真提供:MTRL KYOTO

MTRL KYOTOは「コワーキングスペース」としてだけではなく、来訪者同士のコラボレーションを誘発するバーも兼ね備えた「イベントスペース」、そして京都市内ではまだまだ珍しい、最新のレーザーカッターや3Dプリンターなどが用意された「メーカーズスペース」と、複数の顔を持っています。

そんなMTRL KYOTOでは、誕生から1年で140本のイベントを開催。それらのイベントやコミュニケーションスペースとしてのバータイムなどに、多くの人々が訪れます。森内氏が言う「毎日同じ人が200人来るより、さまざまな人が月に1回でも1000人来る方が可能性につながる」という言葉を体現するように、行政の地域産業振興の担当者、日本に長期滞在する女性ファッションデザイナー、大手メーカーの新規ビジネス担当者など、実に多様なバックグラウンドを持つ人々がこの場所を訪れています。

「いろんな人たちがつながることで何かが生まれる。MTRL KYOTOは何かを生み出す後押しをする、『触媒』のような役割を担っていきたい。」(森内氏)

そうした「つながり」から生まれたプロジェクトの1つが「Kyoto VR」。MTRL KYOTOでおこなわれる外国人ゲームクリエイターが集うミートアップから生まれた「Kyoto VR」は、京都在住の外国人で構成されるVRプロダクションチームです。

MTRL KYOTOの 2 階和室スペースで開催した、VRコンソール「HTC Vive」を用いたVR体験展示イベント「VR Lab」には10日間で約 300 人が来場するなど、大盛況を収めました。彼らはVRを活用して京都の魅力を世界に発信するべく、今では日本国内にとどまらずマレーシアでもデモンストレーションを実施するなど、京都を中心に世界へ飛び回る日々を送っています。

「Kyoto VR」に見られるように、このスペースの特徴は外国人利用者の多さです。口コミを聞いた短期滞在の外国人も多く訪れます。この場所は、外国人から見て、「日本らしさ」と「新しいテクノロジー」が併存するクールな空間と映っているようです。それはMTRL KYOTOというスペースのみの力ではなく、多くの歴史的建造物とコンテキストを有する京都という場所でなければなし得なかった、と森内氏は京都の地だからこそ成立した点を強調しました。

MTRL KYOTOは「東京以外」における試金石となる

「MTRL KYOTOの存在がクリエイティブシーンにおける京都の価値をどれだけ上げていけるか、という部分が重要です。関西は東京よりも2〜3年遅れてムーブメントが来ると言われており、実感する部分も多々あります。例えば、オープン当初はほとんど予約が入らなかった3Dプリンターなども利用者や関心を持つ人が日に日に増えてきています。」と、森内氏はオープンから1年間での状況の変化に手応えを強く感じているようです。

「立ち上がったプロジェクトを通じ、新旧のメーカーズ(ものづくりの担い手)同士がもっとお互いを知る機会をつくれれば、それだけいろいろなコラボレーションが生まれることをMTRL KYOTOは実証できました。新たなテクノロジーが可能にした小規模でのモノづくりは、さらに今後より広がっていくのではないでしょうか。そして、そのような動きが京都以外の地方都市にも波及していくはずです。」と、森内氏は国内におけるメーカーズの広がりへの期待を語りました。

「コワーキングスペース」、「イベントスペース」、「メーカーズスペース」という3つのファンクションを融合し、京都で独自のポジションを築きつつあるMTRL KYOTO。ここから発信されるプロジェクトは、日本におけるメーカーズムーブメントが「ムーブメント」から「カルチャー」へと変遷し、浸透していく試金石といえるのかもしれません。今後このMTRL KYOTOがどのような発信でこのムーブメントを引っ張っていくのか、その動向に注目が集まります。

 

トップの画像:写真提供:MTRL KYOTO 撮影:OMOTE Nobutada

 

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