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日本の過労死文化を考える

日本の労働環境は非常にストレスが多く、労働者の健康に悪影響を与えると考えられています。過労から死に至ることを意味する「過労死」という言葉があるほどです。しかし、ストレスレベルを測定する新しいテクノロジーが登場し、この状況が改善されるのではないかと大きな期待が寄せられています。

日本の長時間労働文化は、年々悪化しています。政府が発表した数字では、2015 年に過労死の損害賠償を求めた訴訟は史上最高の 1,456 件に達しています。

平均的な日本の労働者の労働時間は週におよそ 53 時間ですが、驚くことに、労働者の 15〜20% が週 60 時間以上働いているのです。60 時間以上というのは、法律上、過労死の損害賠償請求を起こすのに十分な数字です。しかし、賠償請求を求めた件数は実際の過労死数の 10 分の 1 程度にとどまると推定されています。

日本人労働者の窮状

大阪大学の社会学准教授であるスコット・ノース氏は、日本の過酷な労働文化には、労働市場の問題や絶えず変化する職場環境など、複数の要因があると見ています。

「正規雇用数の減少により、労働者は会社の要求には何でも従わなければならないという重圧にさらされています。加えて、業務の自動化、IT 化、グローバル化が一定時間内の労働量を増やしてしまっているのです」とノース氏。

また、労働に対する日本の伝統的な考え方にも責任の一端があるとして、ノース氏はさらにこう続けます。「ハラスメントは頻繁に起きています。日本の文化は協調性を非常に重視し、会社への帰属意識が労働者のアイデンティティーの核になっているため、労働者は自分の意見を言うことができません。さらに、労働市場は中途退職者に厳しいという現状もあります」とノース氏は指摘します。

労働者を救うテクノロジー

こうした状況のなか、いくつかの企業では、雇用側が労働者のストレスレベルをモニターできるツールを提供し始めています。これらツールを使えば、手遅れになる前に、雇用者として適切な選択ができるというわけです。

東京に拠点を置くアイウェア企業の J!NS が発売した「J!NS MEME」は、同社が特許出願中の 3 点式眼電位センサーを備えたスマートグラスです。眼球運動、視線やまばたきの変化を追跡することで、このメガネをかけている人の疲労度やストレスレベルを読み取ることができます。

眼球運動をモニターする J!NS MEME グラス。

メガネの利用者として期待されるのは、主に、職場や個人で、特に、画面を見たり運転する時間が長い労働者です。しかし、誰もがメガネをかけるわけにはいかないため、このようなシステムを職場の従業員すべてに大規模に導入するのは難しい気もします。

2016 年 4 月、コンピューター部品企業のアルプス電気は MEDTEC Japan で、アルプス・ジーニアル・ライト生体センサー (AGV) テクノロジーを搭載したコンピューター・マウスの試作品を出展しました。従業員がマウスに触れると、AGV センサーが、脈、ヘモグロビン、血液酸素飽和度を測定します。

アルプス電気の広報担当者、ロバート・ネスタート氏は、「このセンサーは非常に小型で軽量なため、リストバンドからマウス、ヘルメットまで、何にでも組み込めます。しかも、体を傷つけることなく、常に同時に発生しているデータを取得することが可能です。このデータを使用すれば、雇用者は従業員の健康に関して客観的かつ根拠のある判断ができます」

アルプス電気は、開発が完了する 2017 年には、このテクノロジーが看護やスポーツの現場、屋内および屋外の職場で導入されることを目指しています。

もう 1 つ紹介したいのが、音声分析ツールです。音声による感情解析分野のリーディング・カンパニーであるイスラエルの Nemesysco 社は、Layered Voice Analysis (LVA) テクノロジーを開発。これは、人間の音声を独自に測定し、対象者のストレスレベル、認知処理、情動反応を特定するものです。

人間の音声を測定してストレスレベル、認知処理、情動反応を特定する Nemesysco 社の LVA テクノロジー。

現在は、コールセンターのスクリーニングやセキュリティー・チェックなどに使用されていますが、同社の設立者であるアミア・リーバーマン氏は、これを労働者が利用するようになれば「いますぐにでも日本の人命救助に役立つでしょう」と語っています。

過労死文化の終焉に向けた政府の対応

労働者の 15〜20% が週 60 時間以上働いているのです。60 時間以上というのは、法律上、過労死の損害賠償請求を起こすのに十分な数字です。
労働者の 15〜20% が週 60 時間以上働いているのです。60 時間以上というのは、法律上、過労死の損害賠償請求を起こすのに十分な数字です。

ここでご紹介したような追跡および監視テクノロジーは良い解決策のように見えますが、一方で、労働者のプライバシーに関する課題も抱えています。実際、従業員に携帯電話を持たせて、社内外で位置情報を追跡していた企業が訴訟を起こされています。

こうしたテクノロジーは、雇用者が労働者を管理する目的で使用する懸念もあるとして、ノース氏はこう指摘します。「労働時間は、日本の上司が労働者を評価するための最も客観的な基準となっています。テクノロジーを使用して労働者を細かく監視できるということは、従業員の労働負荷を高めたり、時間外労働を奨励することにもつながりかねません。実際、こうしたことは珍しくないのです」

大阪で営業職に就いている 29 歳のカナエさんは、週におよそ 60 時間働いています。新しいテクノロジーで、仕事量と日本人の「残業したい!」という気持ちを変えることは難しいだろうと主張する彼女は、こんな風に語っています。「ストレスを測定したところで、仕事量は変わりません。日本の労働者はもっとお金を稼ぎたいと思っているのです。労働時間が規制されたら十分な収入が得られなくなるので、別の仕事と掛け持ちしなければなりません」

日本の労働基準法は 1 日の労働時間を 8 時間に制限していますが、雇用者が「企業の円滑な運営に必要」と判断した場合は追加労働を命令できることになっています。

こうした現状に対し、「日本の過労死文化を本気で変えようと思うなら、労働時間を適切に規制するための第 1 歩として、日本の法律をもっと厳格に施行する必要があります」とノース氏。

2016 年の初めに、日本政府は労働者の残業時間の上限を引き下げ、月間 45 時間までとすることを検討していると報じられました。また、法改正により、有給休暇の取得が義務化される方向で調整が進んでいます。2013 年のデータを見ると、日本人労働者は与えられた有給の半分も消化していないのです。

結局のところ、残業したところで、必ずしも生産性が上がるわけではありません。高度なテクノロジーと法律面での改善、日本の労働市場の変化が促進され、近い将来、過労死文化がなくなることを期待します。

 

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