テクノロジー・イノベーション

触覚テクノロジーで豊かな体験を

Hal Foster iQ Contributor

ハプティクス (触覚技術) の活用に取り組む日本の先駆者たちがいます。その用途はビデオゲーム以外の分野にも広がりつつあります。

誰もが知る偉大なサックス奏者、チャーリー・パーカー。彼の曲をいくつかサックスで演奏してみた人もいることでしょう。しかし、とても同じようにはいきません。それは練習不足のせいかもしれませんし、ちょっとしたタイミングのずれなのかもしれません。

こうした壁を解消しようと考えているのが、東京に拠点を置くベンチャー企業 H2L 株式会社の CEO、岩崎健一郎氏です。

岩崎氏によると、近い将来、腕に巻いた装置でサックスに置いた指を動かし、チャーリー・パーカーと全く同じように演奏できるようになるというのです。

同社が開発した試作品はセンサーとソフトウェアで構成され、そこには、一流のサックス奏者の指の動きが記録されています。この装置を前腕に固定すると電気的な刺激が発せられ、世界の巨匠と全く同じように指が動くというわけです。数回もセッションすれば、タイミングのコツをつかむことができるでしょう。

さまざまな産業分野に広がるハプティクス技術

日本では H2L のように、ハプティクス (触覚技術) と呼ばれる電子技術や触覚を活用した新しい試みで最先端をいく組織が増えています。

業界でこのような製品の開発が始まったのは 20 年ほど前ですが、その用途はここ数年で急速に広がりました。これは H2L の岩崎氏や慶応大学准教授の南澤孝太氏のように、熱意を持った若い才能が現れてきたおかげです。

現在、数百もの企業が、ビデオゲームヘルスケア、自動車、災害対応業務など、全く異なるさまざまな分野でハプティクス製品を開発しています。

米市場調査会社 ReportsnReports 社によると、世界のハプティクス技術市場の 2016 年から 2022 年にかけての年間複合成長率は 16% で推移し、ハプティクスの市場規模は 2022 年までに 196 億ドル (約 2 兆 2,500 億円) に達する見込みです。

これに対し、世界のゲーム市場は 1,186 億ドル (約 13 兆 6,500 億円) に達する見込みだと、オランダのアムステルダムに拠点を置く市場調査会社 Newzoo 社が予測しています。

障害者の支援にも大きな期待

ハプティクスの活用が大きく期待される分野がもう 1 つあります。それは障害者支援です。

例えば、障害のある方が、ほかの人に頼らずに家事が行えるようにサポートする装置への応用が考えられます。

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H2L が開発したゲーム・コントローラー「UnlimitedHand」。VR 環境での直感的な操作が可能で、擬似的な触覚を感じることができる。
写真提供: H2L株式会社

「腕をひねると、ロボットがそのとおりに動きます」と岩崎氏が説明するように、このシステムでは、腕に取り付けた装置とロボットアームがワイヤレスで接続されているかのように動作します。

皿を積み重ねるには、手で皿を積む動作をすると、ロボットがそれを真似して動きます。このようにして家事をこなせる仕組みです。

「家の中で障害のある方とロボットをつなぐのと同様に、遠く離れた場所にいる人同士をリモート接続でつなぐことも可能です」と慶応大学の南澤氏は語ります。

人々はすでにインターネットを利用して、互いの顔を見たり声を聞いたりしながらつながっています。南澤氏をはじめとするハプティクスの推進者たちは、これに触覚を加えたいと考えています。

2015 年 10 月。南澤氏のチームは、入院中の年配の女性が孫娘の結婚式に出席できるよう支援しました。

結婚式場にカメラとマイクを仕込んだロボットを配置。このロボットを通じて式の様子を見たり、孫娘やほかの出席者たちとの会話を楽しめるようにしたのです。

祖母としておめでたい席への参加をあきらめずに済み、女性はとても感謝していました。しかし、体験できなかったこともあります。それは、花嫁やほかの出席者たちと触れ合ったり、抱きしめ合ったりすることです。

南澤氏は、いつかハプティクス・アプリケーションによって、離れたところにいる人々が触れ合えるようになる日が来ると確信しています。しかもそれは、単に触れることに留まりません。「ハプティクス技術で感情も伝えられるようになるでしょう」 (南澤氏)

緊急時や災害時に役立つハプティクス技術

さらに南澤氏は、ハプティクスのリモート接続の機能は、災害時における業務の安全性向上にも役立つとしています。

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ハプティクス技術によるリモート接続で災害業務への対応を支援。
写真提供: H2L株式会社

例えばパワーショベルのオペレーターは、有害な化学物質にさらされたり、破片が落下したりといった危険性のある現場に直接出向かなくても、災害後の復興を支援できます。オペレーターは自分の体の動きを通じて機械を制御できるからです。

ハプティクスは、オペレーターから機械へ、そして機械からオペレーターへ、2 方向に触感を伝えます。パワーショベルが障害物に当たるとオペレーターにそれが伝わるため、進路を変更して障害を回避する必要があると判断できるわけです。

南澤氏のチームはすでに建設会社と協力し、重機のリモート操作の実地試験を実施しています。「次の課題は、このような機械を操作するオペレーターの養成です」と南澤氏。

ハプティクスについて目を輝かせながら語ってくれた岩崎氏と南澤氏。両氏とも、より良い生活を実現する大きな可能性を秘めたこの分野で、自身が先駆者であるとの自覚を持っています。実際、この技術の可能性は、まだ入口の段階にすぎないのです。

 

※文中に記載の金額は、日本語原稿執筆時の為替レートで計算しています。

 

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