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実店舗の存在価値を持続させるデジタル体験

Deb Miller Landau iQ Managing Editor

小売業界の最先端では、実店舗とデジタルをシームレスにつなぐパーソナライズされた顧客体験を実現することが最も重要です。これにより、買物客は必要なものを必要なときに希望する場所で見つけることができるようになります。

現代は、靴からステレオまであらゆるものをオンラインで購入できるうえに、荷物をドローンで配達してもらうことも可能です。一方で、私たちは依然として、セブンイレブンでバナナを買ったり、ウォルマートでアスパラガスを買ったりもしています。このような時代に、あらゆる小売企業は、創造性を発揮して自らの存在価値をアピールし続けなければなりません。

子どものころから、欲しいものを今すぐ購入できる Amazon プライムの即時性を当たり前に体験してきた若い世代は、より高度な利便性を求めています。こうした世代に対応するため、小売企業はテクノロジーを導入して、目の肥えた買物客の獲得や、商品やサービスへの容易な導線、在庫の管理、リピーターを増やすための買い物体験の実現に取り組んでいます。

「今まさに新しい経済の物語が始まろうとしています」と語るのは、米国で小売、接客、コンシューマー製品販売を担当するインテルのジェネラル・マネージャー、レイチェル・ムシャワーです。

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ムシャワーによると、現在は商品やサービスの購入方法にあまりにも多くの選択肢があるため、小売企業はかつてないほど混乱していると言います。いつでもどこからでもアクセスできるスマートフォンやコンピューターの普及に、コミュニケーション技術の革命が組み合わさって、人々の購買行動に影響を与えているのです。

「小売店への買物客の出足は、前年比で少なくとも 7% 低下しています。しかも 2008 年の上位 100 の小売企業のうち、20% 以上がすでに存在しません。小売企業は自らの存在価値を維持する方法を本気で考え出す必要があります」とムシャワー。

しかし幸いにも、ムシャワーには、「即座に得られる満足感に勝るものはない」という強い信念があります。実店舗への買物客の出足が鈍っていることや、スマートフォンで買い物をする人々が増えていることを懸念する従来型の小売企業向けにとっては勇気づけられる言葉でしょう。ムシャワーの言う「即座に得られる満足感」とは、レジ前に魅力的に配置されたイヤリングや、会計時にちょうど視線に入るように配置されたお菓子だけを意味するのではありません。

人々が依然として小売店に足を運び、買い物をしているのは、今までとは違う買い物体験を求めているからなのです。即時性、パーソナライズ、効率性ばかりを追求したデジタル生活から離れたところで何かを期待しているのであり、その期待に沿うものを求めて来店するのです。

「オンラインでの売上が占める割合は世界の小売販売の約 7% に過ぎません。小売企業がデジタルと実店舗を統合する方法はたくさんあります」とムシャワー。それは、ムシャワーが「フィジタル (phygital = physical + digital)」と呼ぶ世界です。

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実店舗での買い物体験を変える

ムシャワーによると、大規模小売企業の多くが新しい店舗を作るよりもデジタルサービスに投資するようになっています。これによりオンライン・ショッピングが容易になるだけでなく、店舗での買い物がよりスピーディーになり、リアルタイムの在庫管理も実現できるからです。

対面販売を特長とする典型的な巨大小売チェーンの Home Depot 社は、市場での生き残りをかけ、デジタル化への大きな一歩を踏み出したと言われています。

同社の最高財務責任者であるキャロル・トメ氏は Wall Street Journal のインタビューで、相互接続の小売体験を推進するテクノロジーに投資したことを語っています。同社では、新店舗をオープンする代わりにウェブサイトを再構築 (2017 年を予定)。サプライチェーンを整備してオンライン注文に素早く対応できるようにするとともに、既存の輸送ネットワークを活用することで生産性を確保しています。

ムシャワーによると、従来の実店舗を「フィジタル (phygital)」の機能で強化することにより、小売企業は消費者と関わる新しい方法を切り開くことができると言います。

例えば、フランスの家電小売企業の Boulanger 社では、顧客に対して在庫を仮想的に見せる方法を探していました。このような方法が見つかれば、例えばパリ店で、大量の冷蔵庫を収容するのに必要な広大なスペースを確保する必要がなくなります。また、すでにオンライン・ショッピングに慣れている若い層に対応する方法も求めていました。

そこで技術コンサルタントのグローバル企業 Capgemini 社は、インテルと連携し、Boulanger 社のパリ・オペラ店に 24 台のショッピング・キオスクを設置。このショッピング・キオスクで、顧客は商品の検索、レビューの閲覧、モデルの比較などが行えます。インテル® プロセッサー搭載の臨場感あふれるキオスク体験により、買物客は冷蔵庫の引き出しにどれだけ果物が入るか、ドア棚にどのくらいのスペースがあるか、冷凍庫の広さは十分かどうかを確認できます。

店頭ではタブレットを携帯した販売員が、製品情報の詳細を表示し、配送オプションを調整して、その場で販売を行うこともできます。

また、Capgemini 社とインテルの別のコラボレーションでは、インテル® RealSense™ カメラを使用して、リビングの 3D バーチャル表示を作成。顧客は家具をさまざまな場所に移動させて、配置によってリビングのイメージがどのように変わるかを確認できます。言わば、子ども向けの人形の家が画面に接続されているようなものです。顧客がおもちゃの配置を変えると、すぐに部屋の様子が画面に映し出されます。

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米国の Levi’s 社の一部の店舗では、インテル® リテール・センサー・プラットフォームを基盤とする新しい在庫管理システムを使用しています。このシステムでは販売スタッフがジーンズの在庫を確認できるだけでなく、店内のすべてのジーンズに取り付けられたセンサーによって、それが店内のどこにあるかを正確に把握できます。

「世界における小売市場規模は約 4.4 兆ドル(約 500 兆円)ですが、過剰在庫および在庫切れのコストは年間で約 1.1 兆ドル(約 125 兆円)にも及びます。店内で可視化できている在庫は商品全体の約 40% に過ぎず、しかも、その精度は約 65%。顧客が最もフラストレーションを感じる小売体験の 1 つが、店内で購入しようとしたときに『申し訳ありません。在庫がありません』と言われることだそうです。一方で、肯定的な体験をした買物客は再度来店する確率が高くなります」とムシャワー。

在庫切れによって、買物客がほかの場所で商品を探し、購入する可能性は非常に高まるため、「店内の在庫リストと在庫精度を 3% でも向上できれば、売上は約 1% 増加します」(ムシャワー)。

顧客を店舗に呼び込むには顧客体験がカギを握りますが、その顧客をリピーターに変えるためのソリューションによって、店舗での顧客体験を向上できます。

買物客がいるところで買物客を確保する

実店舗の持つ力は、巨大小売企業に限らず、消費者がどこにいても対応できることを目指す小規模小売企業にも新たな可能性をもたらします。

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30 分で設営できる 6 x 6 のポップアップ・ショップ「ByReveal」。

ByReveal 社と XRC Labs 社は、ニューヨーク・コレクション 2017 において、6 x 6 フィート (約 1.8 x 1.8 m) のポップアップ・ショップをお披露目しました。「使い捨て」を意味するポップアップ・ショップは、消費者のいるところへお店を移動させることができます。ByReveal 社は、ハーバード大学デザイン大学院の論文の一環として、ミーガン・ベリー氏が設立した会社です。俊敏な判断力でウェブサイトやビジネスを一晩でセットアップし、必要に応じて反復できる人がいるのなら、同じことを実世界で実行できないだろうかとベリー氏は考えたのです。

ByReveal は 30 分で設営できるマイクロブティックです。歩道、ホテルのロビー、音楽祭など、どこにでも設営できます」とベリー氏が説明するポップアップ・ショップは、木とアルミニウムでできており、10 の部品に分解してどこへでも運ぶことができます。

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衣類に取り付けられた RFID センサーによって、買物客は試着室の画面で詳細情報を確認。

ポップアップ・ショップには、人気のブランドを展示できるスペースと 2 つの試着室が完備され、さらにインテル® プロセッサーが搭載されています。消費者の視線を追跡するセンサーによって、小売企業にはすぐにフィードバックが提供され、顧客が特定の商品の前にどのくらいの時間立ち止まっていたかが分かります。

買物客がセンサータグの付いた商品を試着室に持ち込むと、商品の説明、購入できる色とサイズ、その商品に合うアクセサリーなどが画面に表示されます。そして買物客はその場で購入手続きを済ませ、商品が翌日自宅に配送されるよう手配することが可能です。

「小売業にとっては、顧客体験をコントロールできる一方で、在庫をコントロールする必要がない点がメリットです。現在、設置面積の最適化を行っているところです。ポップアップ・ショップは顧客にとって完全に買い物に夢中になれる空間であり、非常にパーソナライズされた購入方法と言えるでしょう」

パーソナライズで収益をアップ

最近は、食品の購入でさえ変化しています。今や、農産物をコンビニで買うことも、食料品をオンラインで購入することもできる時代です。

Wall Street Journal の最近の報告によると、長い食料品リストを書き出していた親の世代とは異なり、2000 年代の食料品の買物客は食品をあまり購入しなくなっています。1 カ所だけで食品を購入するのではなく、オンラインサービスを利用したり、近くのコンビニに出かけたりしているのがその理由です。

「結局、人々は必要なものを求めているのであって、どこで手に入れるかはあまり気にしていないのです」とムシャワーは説明します。

ムシャワーが父親の食料品店で働いていたとき、父は顧客の名前、好みを覚えていて、どの商品が手元にあり、どの商品を手配中かを完全に把握していました。例えば、スカフ夫人の好きなスカッシュが入ると、直接電話で連絡したり、料理の仕方についてもアイデアを提供したりしていました。

ムシャワーは、かつての小売業界を振り返り、「昔はこのようなパーソナライズしたサービスを提供することによって、顧客ロイヤルティーが向上し、リピーターが増えていました。顧客サービスこそが最も重要な時代だったのです」と語ります。

しかし、企業の統合が始まり、大規模チェーンが家族経営の店に取って代わると、店内で受ける特別な体験や、シームレスでパーソナライズされた買い物体験が、大手が提示する価格と大量生産の効率性に押され始めたのです。

「オンライン・ショッピングの出現は、こうした状況をさらに悪化させたに過ぎません」とムシャワー。

価格は依然として重要な要素ではあるものの、成功している小売企業は、よりパーソナライズしたシームレスな体験へと回帰する傾向にあります。

「これは未来に向けた回帰です。現在の効率的な流通システムを最新のデータ収集技術とを結び付けることによって、個々の買物客に合わせてパーソナライズされたスマートな顧客体験を再び提供できるようになります」

ムシャワーによると、パーソナライズされたメールを配信するブランドが増えていると言います。また、マシンラーニングの採用により、コンピューター自身が学習し、個人の好みをより深く理解して適切に対応できるようにするケースもあります。

小売企業の進化が進むにつれ、インターネット上での体験を通じて、従来の店頭ではできなかったような商品の見せ方が可能になったり、1 時間以内に配送するサービスを追加したり、新しいサービスの導入によって新しい価値が生み出されていくことでしょう。

「 25 年前、父の小売店ではテクノロジーがこれほど普及するとは想像もしなかったでしょう。しかし、現在の消費者はより優れた顧客体験を強く求めるようになっており、極めて高い利便性を享受できなければ満足しないようになっています」

小売企業は今、変革の最前線にいます。これは最新式の郊外型ショッピング・モールが出現して以来の変革です。ムシャワーはこう語っています。「小売という形態が消滅に向かっているのではありません。実際は、生まれ変わることで従来型の実店舗の寿命をより強固なものにするとともに、デジタル志向の人々のニーズにも対応しつつあるのです」

 

※文中に記載の金額は、日本語原稿執筆時の為替レートで計算しています。

 

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