サイエンス

海底二万里に眠る?鉱物資源の未来

Julian Smith Writer

世界初の深海採掘プロジェクトで新たな鉱物資源の発見が期待されています。しかし、現代のテクノロジーや規制によって環境へのリスクは軽減できるのでしょうか?

作家のジュール・ヴェルヌ氏は、1870 年に出版した著書『海底二万里 (Twenty Thousand Leagues Under the Sea)』で海底採掘を目指す男たちを描きました。それから 150 年。ようやく海底採掘が現実になろうとしています。

あまりに広大で、人類がほとんど足を踏み入れたことのない深海は、金属資源や鉱物の宝庫です。ヴェルヌ氏の作品に登場する潜水艦ノーチラス号を社名に冠したカナダの Nautilus Minerals 社は、2018 年初頭にかけて、世界初の民間深海採掘プロジェクトをパプアニューギニア沖で進めています。

深海採掘は、専門家が無人探査機を遠隔操作し、金、亜鉛、銀などの有用な地下資源が濃集した堆積鉱床を海底から採掘するプロジェクトです。

「海底には、銅、ニッケル、コバルトなどの資源が大量に眠っており、その品質は陸上にある資源よりもはるかに高いのです」と Nautilus Minerals 社 CEO のマイク・ジョンソン氏。しかも、高濃度の鉱物を含んでいるため、露天掘り (採掘法の 1 つで、地表から渦を巻くように地下をめがけて掘り進める方法) よりも合理的に採掘できるというのです。

ジョンソン氏をはじめとする擁護派は、深海採掘こそ、従来の露天掘りでは避けられなかった環境への有害な影響を、低コストで回避する方法だと主張しています。

生産コストが上昇し質の高い巨大な鉱床の発見が困難になる中、露天掘りの規模はますます拡大し、費用がかさむ傾向にあります。収益を上げるためには、さらに巨大な鉱山に頼らざるを得ないのだとジョンソン氏は指摘します。

一方で、スマートフォンの充電式バッテリーに使用されるニッケルから、航空宇宙や代替エネルギー業界で使用されるレアアースまで、あらゆる資源の需要は急増しています。深海採掘に期待が寄せられる理由がここにあるのです。

しかし、海洋科学者の中には、深海採掘によって、いまだ解明中のデリケートな深海の生態系を破壊してしまうのではないかと危惧する者もいます。

深海採掘による打開

一部の地域では、ノジュール※状の貴重な鉱物が海底に転がっており、すぐにでも採掘できる状態にあります。時間をかけて形成されるこうした「多金属ノジュール」は、ゴルフボールやジャガイモほどの大きさで、マンガン、ニッケル、コバルト、リチウム、モリブデン、鉄、レアアース元素などの鉱物を豊富に含み、水深約 4,000m から約 6,000m の海底に散在しています。

※ノジュールとは、堆積岩中に見られる塊のこと。化石や砂粒などを核として、堆積岩中の珪酸や炭酸塩が凝集して形成される。

ジョンソン氏は、「テクノロジーのさらなる進化に期待できる部分もあるが、海底を這うように進む遠隔操作機を使うことで、ノジュールを比較的容易に採掘できる」としています。

CM Nautilus

Nautilus Minerals 社が進める Solwara 1 プロジェクトの当面のターゲットは、さまざまな堆積物です。現在は豊富な鉱物を含む水深約 1,500m の熱水噴出口、いわゆる海底熱水鉱床における堆積物の採掘に取り組んでいます。

熱水噴出口地点は、全世界で約 300 カ所確認されています。これらは言わば、海底から湧き出る温泉です。371℃ 以上に熱された海水が地殻から噴出し、浮遊鉱物が蓄積してチムニー (海底熱水鉱床の活動により形成される柱状の構造物) をはじめとする構造物を形成します。この熱と化学反応の絶妙な組み合わせが、奇妙で珍しい深海生物の生態系を支えているのです。

チムニーは長いもので高さ 15m にもなりますが、その多くは形成途中で倒れてしまいます。

Nautilus Minerals 社は、Solwara 1 プロジェクトがターゲットとする海底熱水鉱床の不活性な噴出口において、13 万 8,000 トンの銅と 350 トンの金を採掘できると見込んでいます。しかも、ジョンソン氏は、この鉱床は非常に質が高く、銅の平均含有率は約 8% に達するだろうと試算しています。ちなみに、陸上鉱床における 2015 年の含有率は平均 0.6% でした。

鉱物を採掘するために、Nautilus Minerals 社は、Seafloor Production Tool という巨大なリモート制御ロボット採掘機を 3 台製造しました。まるで戦車のようなトレッド (左右のタイヤの中心間距離) と巨大な掘削工具を備えたこの採掘機は、世紀末的な建設機材のように見えます。

Nautilus 社の採掘機

高さ 6m 以上に達する 275 トンの補助カッターは、起伏のある海底を平らにならし、340 トンの巨大カッターを操作するための作業スペースを作り出します。カッターが取りこぼした砂、砂利、泥は 220 トンの回収機が集めます。

操作には、1 台の採掘機につき常に最低 2 人のオペレーターが必要で、オペレーターは複数のビデオ画面の前に座り、ライブストリーム・ビデオを含む複数の視覚化テクノロジーを使ってジョイスティックで操作します。また、GPS、ソナー (音波によって物体を探知する装置)、無人探索機が動作を常に監視し、事故を防ぐようになっています。

「ビデオゲームを 8 時間から 10 時間続けてプレイするような過酷な作業です」とジョンソン氏。

生産支援船に接続されたパイプで海面まで引き揚げられたスラリー (鉱物や汚泥などが混ざった泥状の混合物)から海水を取り除き、ろ過して海底に再びポンプで戻すと、固体状の鉱石を処理するために輸送できる状態になります。

ジョンソン氏によれば、リモート制御採掘ロボットが進化したことで、古い海中鉱脈の再開発を目指すヨーロッパ各国が早くも関心を示していると言います。

環境への影

「深海採掘は目視できないような遠隔地で行われますが、だからといって環境に優しいとは言えません」と指摘する環境保護生物学者のリチャード・スタイナー氏は、「結局は非破壊的に作業することなどできないのです。環境に多大な影響を与えることは疑いようもありません」と主張しています。

さらに、「深海は地球で最も広大で最も謎が多い生物の生息地です」とスタイナー氏。だからこそ、採掘の影響を予測するのは困難であり、堆積物が噴出したり、漏れたり、あふれたり、深度の異なる水柱が混合されることで、海洋生物に壊滅的な打撃を与える可能性があるのです。

熱水噴出口の周囲の生態系は特に貴重かつ珍しく、その大半はいまだに解明されていません。1970 年代までは、その存在すら知られていなかったほどです。

「いまだ特定できていないこうした種を保護することで、製薬分野に大きなメリットをもたらすことも考えられます」と語るスタイナー氏は、科学的な根拠が十分に解明されないまま、人間のおごりや欲を優先することによる危険な結果を回避したいと願っています。

Nautilus Minerals 社は、スクリップス海洋研究所ウッズホール海洋研究所など、数多くのエキスパートとも協議を重ねてきました。Solwara 1 プロジェクトの環境評価に関する調査では、採掘による堆積物の混乱は局地的なものにとどまり、万全な対策によって尾鉱 (鉱石から有用鉱物を採取したあとに残る低品位な鉱物) や廃棄物も一切残らないという結果が出ています。すべての鉱石は中国国内で処理され、残余物もすべて活用されます。

「影響を最小限に抑えるためにシステム全体を設計しています。これは持続可能な採掘プロジェクトに最も近い試みなのです」とジョンソン氏は強調します。

トランスポーター・ブリッジ・ティーズサイド

しかし、スタイナー氏は、この環境評価の結果に懐疑的です。彼は、深海採掘に GO サインを出す前に、少なくともあと 10 年は科学的な調査を続けることを提案しています。

また、国際環境 NGO グリーンピースなどの環境団体も、潜在的なリスクに対して警告を発しています。

そんななか、海底二万里の現場では、すでにプロジェクトがスタートしています。国連の国際海底機構は、世界中の政府や企業に対して、少なくとも 19 件の深海鉱床探査ライセンスを承認済みです。

 

すべての画像提供:Nautilus Minerals 社。

 

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