仮想現実

VR(仮想現実)は次のプラットフォームに!? スマホゲームの雄・コロプラはなぜ専門ファンドを仕掛けたのか

Intel Japan Writer

VR 元年と呼ばれる 2016 年。各種 VR 端末が一斉にリリースをひかえ、2020 年までに VR 市場規模は 300 億ドルへ達するとの予測もされています(Digi-Capital 調べ)。新たなプラットフォームとしての期待を抱き、その準備期間としてまさに今、VR 領域へ注力するスマホゲームの雄・コロプラ社。VR 専門の開発チームや投資ファンドを立ち上げたキーマンたちに、その開発背景や展望を聞いてきました(ライター:土橋克寿)。

 

VR 専門ファンドへの反響の大きさに、マーケットの期待値を見る

株式会社コロプラネクスト 代表取締役社長 山上愼太郎氏
株式会社コロプラネクスト 代表取締役社長 山上愼太郎氏

――2015 年 12 月に「Colopl VR Fund」を設立されましたね。このタイミングに世界最大級の5000 万ドルという規模で始められたことについて、どのような思いがあるのでしょうか?

山上愼太郎氏(以下、山上氏): VR 事業には多額の資金が必要です。コロプラが VR ゲームを自ら開発してきたことで、この肌感覚を得ました。3 人くらいでチームを組み、少しずつ進めていっても成果を出すのはなかなか難しい。最初からもっと大きなチーム・スタジオ・体制を組み、スタート時点から何千万円、何億円と投入する必要があります。

「Colopl VR Fund」への問い合わせに対応する中で気づいたのは、VR にお金を出すファンドがほとんどないということ。我々としては、この規模のファンドを作れたこと自体が、まずは良かったと思っています。いろいろな VR 事業会社が、この資金で研究や商品開発を進め、市場の拡大スピードが少しでも速くなることを期待しています。

今年いくつもの優れたヘッド・マウント・ディスプレイ(頭部装着ディスプレイ 以下HMD)が世に出るので、タイミングとしても良い時期だと捉えています。金融系 VC の場合、マーケットが未成熟で手を出しにくい部分があるかと思いますが、コロプラには VR ゲームを開発してきたノウハウがあります。我々だからこそ、このタイミングでスタートできたと考えています。

 

インターネット勃興期を彷彿させる、プラットフォーム転換フェーズへ

――リリース後の手ごたえは如何でしたか?

山上氏:予想以上の反響でした。問い合わせは既に 100 件以上来ています。問い合わせの 8~9 割は海外からで、その内の半分以上がアメリカ、残りはヨーロッパ諸国という状況です。日本からの問い合わせがもう少し多いかなと期待していたのですが、その点は少し残念ですね。

――問い合わせの比率として、コンテンツとハードウェアとではどちらが多いですか?

山上氏:コンテンツの件数が圧倒的に多いです。中でもゲームが一番多く、次に映像が多い状況です。ジャーナリズム領域も何件か来ています。ハードウェア系の企業ともいくつか話をしていますが、コンテンツ系の企業よりも問い合わせが少ないですね。VR の価値判断については「体験・体感してみなければ分からない」という面が強いため、具体的な問い合わせには至っていないのかもしれません。

日本勢からの問い合わせは、ゲームの開発会社や、VR コンテンツの制作受託会社が多いですね。今はマーケットの初期段階なので、制作受託系の会社が多いのは自然な流れだと思います。インターネット勃興期の 90 年代後半にも、ウェブ制作会社が大勢出てきました。ウェブを作れること自体に付加価値があったのと同様、今は VR コンテンツを作れるということに付加価値があるフェーズです。

ただ、日本の VR コミュニティに参加していて感じるのは、なかなか企業規模で動いているケースが少ないという点です。アメリカを初めとした欧米では、既に資金を集めたチームが、整った環境下でコンテンツ制作に注力しています。日本はノウハウ蓄積において圧倒的に後れを取っているのが残念です。

 

VRは次のプラットフォームだと信じている

株式会社コロプラ Kuma the Bear開発本部 マネージャー 小林傑氏
株式会社コロプラ Kuma the Bear開発本部 マネージャー 小林傑氏

――VR(仮想現実)の代名詞となった Oculus VR 社の初代開発キット「DK1」が世に出てから、3 年が経過しました。コロプラの開発チームはいつ、どのような経緯で、どんなメンバーによって編成されたのでしょうか?

小林傑氏(以下、小林氏):DK1 を購入した馬場(コロプラ社・代表)が主導する形で、VR の基礎研究をスタートしたのがこのチームです。2014 年の夏、立ち上げ当初はスマートフォンアプリの焼き直しを行い、「どうやって VR コンテンツを作るのか?」というノウハウを貯めていきました。現在は製品版「Oculus Rift」の発送開始に向け、VR ゲームを鋭意開発中で、今春には 2 本のタイトルを公開予定です。

ビジネスとしての立ち上がりは 3 年後、もしかしたら 5 年後かもしれません。我々は、「VR は今後のプラットフォームになる」と信じて、着々と準備を進めています。

――開発チームには、どのようなバックグラウンドを持つ方が集まっているのですか?

小林氏:チームのメンバーは今や数十名規模になりました。そこには、家庭用ゲームや PC・モバイルゲームの開発を何十年も手掛けてきた、ベテランのエンジニアたちが参加しています。そんなバックグラウンドを持つ彼らにとっても、VR は次のプラットフォームになるという共通認識があって、自ずと集まってきてくれたのだと思っています。

――VR ゲームの開発にあたって、どのようなマインドチェンジが求められますか?

小林氏:これまでゲームを開発する上で、カメラワークは最初に決めるものでした。これは PC・モバイルでも、家庭用ゲームでも変わりません。オープニング動画が流れて、カメラが自動的に動いていく――。カメラワークは基本的に開発者が決められるものでしたが、VR に関してはユーザー様が決めます。そこが最大の違いです。

 

VR 元年」と呼ばれる今、各製品についてどう考える?

――SuperData によると、2016 年における VR 端末の総販売数は 3810 万台と予測されていますね。各製品の印象についてお聞かせください。

小林:「Oculus Rift」は、複数の開発エンジンに対応していて、エンジニアにとって最も開発しやすい環境を提供していると感じます。ソニーの「PlayStation VR」は、世界で約 3000 万台売れている「PlayStation4」で作動するため、初期段階での成長スピードが最も早くなると期待できます。HTC の「Vive」は、広いトラックエリアが特徴的なため、コンシューマー向けよりもアミューズメント施設などで活躍していくのではないかという印象を持っています。

――全身や空間を活かした VR デバイスも数多く登場しています。手持ちコントローラーに限らず、様々な入力インターフェースを意識したコンテンツ作りも視野に入れていますか?

小林:広いトラックエリアで全身を使った VR 体験は楽しそうですし、そういったコンテンツも作ってみたいです。でも、より多くの方々に遊んでもらうという点では、まずデフォルトのコントローラーに対応させ、オプションとして他のコントローラーにも対応させていくという方向性が正しいと感じています。個人的には「Oculus Touch」あたりが、統一された入力デバイスとして普及することに期待したいですね。VR の世界でも手の感覚は非常に重要で、手を使うことで酔いづらくなるので、相性の良いデバイスだと感じています。

――「Samsung Gear VR」や「Google Cardboard」などのモバイル VR については、どのようにお考えですか?

小林:2015 年 5 月、Oculus Rift 版の VR アプリ「白猫VRプロジェクト」を、Gear VR 向けに焼き直しました。その時にコンテンツをかなりダウングレードさせています。本来なら、もっとコンテンツを品質改良して世の中へ提供していきたいのに、逆にコンテンツ容量を削らなければいけないという作業に、少し違和感が残りました。

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我々としては、モバイル VR は担う部分が異なると思っています。モバイル VR の場合、多くの人がスマートフォンを持っているので、VR を体験するきっかけとしては良いのではないでしょうか。一方、ハイスペック HMD だからこそできる VR 体験があるので、ユーザー様にはそういった高品質な VR コンテンツを体験していただきたいと考えています。

――製品版 Oculus Rift については、価格帯も話題を集めましたね(日本から注文した場合には送料込で 9 万 4600 円)。

小林:最初の製品版なので、高いのは仕方がないと思います。今後生産量が増えてくればスマートフォン同様、値段が下がってくると思います。開発者目線で言えば、ハードはそういうものと考えており、端末価格が VR 普及の妨げになるとは考えていません。

 

キラーコンテンツのリリースと、ワイヤレス化・小型化が普及の鍵に

――現状、まだまだ日本の VR コミュニティでは、企業規模で動いているケースは少ないというお話がありましたね。コミュニティやユーザー層に広がりを持たせ、一般普及のスピードを早めるには、どういった取り組みが求められるとお考えですか?

小林:「やってみたい!」と思ってもらえるコンテンツが世に出てくることが一番ですね。VR 業界の発展という意味では、どこかのデベロッパーがキラーコンテンツを出すことに期待したいです。もちろん、コロプラからそういったキラーコンテンツを提供したいと考えていますが、我々が一番手でなくても、その大きな波に続くことはできますし、間違いなくコミュニティ拡大の皮切りになると思います。エンターテインメントにとどまらず、医療、介護福祉、ジャーナリズムなど、社会的意義の高いコンテンツも、今後増えていくと思います。

ハード面では、解像度とフレームレート(1 秒あたりに処理する静止画像数)の向上が必要です。人間は片目 16k 片目 16k の解像度でフレームレート 180fps の映像を見れば、現実との境目がなくなると言われているので、そこにいかに近づけていけるかが重要です。また、端末のワイヤレス化や小型化が実現できれば、VR の将来はさらに明るくなるでしょう。

 

「冬の布団」のように「ずっとここにいたい」と思えるコンテンツを作りたい

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――VR の文化や未来について、コロプラ社内ではどのような議論が交わされていますか?

小林:今はまだ文化と呼べる状況ではありませんが、そこは月日が解決してくれるでしょう。社内では「もはや、現実は要らなくなるよね」といった話をしています。例えば、家で HMD をかけて、横を見たら会社のチームメンバーがいるような VR オフィスを作ってしまえばいいのではないか、という妄想をよくしています。オフィスが必要なくなれば、土地代も安くなりますし、大雪の日も通常通り始業できます(編集部注:取材日は積雪により、公共交通機関のダイヤが大幅に乱れていた)。

我々は、「冬の布団」のようなコンテンツを作りたいと思っています。寒いし、もう少し布団の中にいたいな、と思うのと同様に、もう少し VR の世界にいたいな、と思わせるようなコンテンツを目指していきたいです。HMD を極力長く付けていただけるような、魅力あるコンテンツ作りに引き続き注力していきます。


<インタビュイープロフィール>
山上 愼太郎 (株式会社コロプラネクスト 代表取締役社長)
大学卒業後、国内系銀行に入行。その後、資産運用会社にて、上場日本企業、特にインターネットを中心とした新興企業のリサーチと投資運用業務を担当。また、米国拠点ではメディア・サービス・通信等の米国企業への投資業務に従事。2014年コロプラへ入社、M&Aや投資、財務戦略等に携わる。

小林 傑 (株式会社コロプラ Kuma the Bear開発本部 マネージャー)
大学卒業後、2012年に新卒で株式会社コロプラへ入社。複数のスマートフォン向けカジュアルゲームの開発担当を経て、プロジェクトマネージャーとして「ほしの島のにゃんこ」の開発・運営に携わる。現在はVRHMD向けコンテンツ開発グループのマネージャーとして、日々研究や新しいコンテンツ開発に励んでいる。

<ライタープロフィール>
テックジャーナリスト 土橋克寿
1986年生まれ。大手証券会社、ビジネス誌副編集長を経て、2013年3月に独立。欧米中のスタートアップを中心に取材を行い、Forbes JAPANやThe Huffington Post Japanなど複数媒体へ寄稿。2015年8月、エストニア政府による20代ジャーナリスト招待プログラム”100 Friends”(25人の25カ国出身者で構成)の日本人枠に選ばれ、現地で同国首相らと会談。その間、ハード/ソフトを問わず、自ら開発も続ける。好きな言語はPython。

 

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