サイエンス

クジラを救うのは誰?膨らむ民間サイエンティストへの期待

Jason Lopez Writer

環境保護推進派は、データ収集技術と人工知能 (AI) を駆使してホエール・ウォッチングを科学的な調査に変えるとともに、民間サイエンティストからクジラに遭遇したときの写真を集めて、クジラの保護に役立てています。

数世紀にわたり捕鯨や生息地の破壊が行われてきた結果、今ではクジラの保護は近代科学の大きな野望の 1 つとなっています。この壮大で神秘的な生物をきちんと理解して保護するために、研究者たちは人工知能 (AI)、クラウド・コンピューティング、クラウドソーシング・データなどのテクロジーを活用するようになりました。

調査を行う生物学者は、クジラの個体群とその回遊の追跡、記録、分析に役立てるために、ますますデジタル・テクノロジーを利用するようになっています。絶滅の恐れがあるクジラの群れを見守っているのは彼らだけではありません。テクノロジーのおかげで、週末のホエール・ウォッチングを楽しむ民間サイエンティストになることもできます。

「クジラの多くはまだ十分に解明されていません。海洋を泳ぎ回っているところを発見されていても、まだ学名が付けられていないクジラもいます」と、海洋哺乳類および鳥類の生態学を研究するカスカディア研究集団のシニア研究生物学者、ジョン・カランボキディス氏は 説明します。

カランボキディス氏が初めてクジラ目の動物を研究し始めた 1980 年代は、デジタル・テクノロジーが導入されるかなり前のことでした。現在、彼は Wildbook 社のソフトウェア・エンジニアと一緒に研究を進めています。同社は、AI を使用してクジラを調査し、クジラが生存のために奮闘する様子を記録している組織です。

カランボキディス氏によれば、サンフアン諸島周辺のシャチは、おそらく世界で最も研究が進んでいるクジラ個体群であるものの、現在絶滅の危機に瀕していると言います。事実、ワシントン州のピュージェット湾で泳ぐこの白と黒のシャチは、2005 年から絶滅危惧種に指定されています。「サザンレジデント」と呼ばれるこのクジラの群れは、近年その個体数がわずか 78 頭にまで落ち込みました。その理由の 1 つは、サケの捕食が減少したことです。

「今私たちは危機的な状況にあります。海洋の状態も、非常に多くの種の生存も危機に瀕しています。クジラについての理解を深め、クジラを保護していくために、私たちはテクノロジーを活用して新たな世界を切り開いていきます」とカランボキディス氏は語っています。

AI によるクジラの識別

AI の発展により、コンピューター・ビジョンと写真を使って、クジラの識別が容易にできるようになりました。Happywhale などのクラウドソーシング・ウェブサイトでは、民間サイエンティストが提供した写真をクジラの識別と追跡に役立てています。

アルゴリズムで写真を解析でき、水面上に見えるクジラのひれや一部の画像をベースに個体を識別することができるのです。これによって、研究者は個々のクジラを識別し、その動き、個体数、動向について特定することができます。

「これらのアルゴリズムでは、尾の裏側にある模様と、尾びれの後縁の輪郭のパターン認識を使用します。この組み合わせが非常に効果的なのです」とカランボキディス氏は説明。彼の所属するカスカディア研究集団は、Happywhale のスポンサーでもあります。

クジラの話
パターン認識を使用して、数年おきに撮影された 3 枚の写真から、尾びれによって個々のクジラを認識。写真提供: カスカディア研究集団。

Happywhale では、クジラの写真をシェアすることで、保護活動に有意義な貢献ができるようにしていますが、カランボキディス氏はクジラのパパラッチが増加していることに対し、こう警告しています。

「1 隻のボートが近づくのはたいした問題ではないのですが、サンフアン諸島の近くでは、50 から 100 隻ものボートがレジデントシャチを追っているのを目撃しています。

これはよい状況とは言えません。昔はホエール・ウォッチングに行くとき、望遠レンズの付いた一眼レフを持っていたものですが、今は、スマートフォンでは倍率が足りないからと、ボートでクジラにどんどん近づいていってしまうのです」

そこで、Wildbook プロジェクトの最新アルゴリズムを使って低画質の写真をより有益なものにすることで、人々にクジラの写真をもっと遠くから撮るように促しています。

民間サイエンティストの役割の変化

そもそも海洋動物に害を及ぼすべきではないという考え方は、Wildbook 社の着想でした。このタスクに徹底的に取り組んでいる同社は、ディープ畳み込みニューラル・ネットワークに基づく画像解析サーバーを用いたプラットフォームを提供しています。これは、ソーシャルメディアのプロフィールのように、クジラがいつどこで見られたか、その時のクジラの行動に関する情報源となる写真を収集することで、個々のクジラの個体情報を管理する仕組みです。

「このシステムは、写真に写っている動物を検出し、個々の動物を識別するように構築されています」と、Wildbook プロジェクトの情報アーキテクトであるジェイソン・ホルムバーグ氏が語るように、協力してくれる民間サイエンティストの写真に頼るだけでなく、ボットの役割も果たし、クジラに関するユーザー生成コンテンツをインターネットで検索するのです。

例えば、ホルムバーグ氏がテクノロジーを開発したときの最初のテーマだったジンベイザメを例にとると、Wildbook の AI エージェントが、「ジンベイザメ」というタイトルやタグが付いたすべての動画を YouTube からダウンロードします。次に自然言語処理によって、ジンベイザメがいつどこで見られたかなどの情報を特定します。

「エージェントはジンベイザメの高品質なキーフレームを抽出し、画像解析サーバーに送信します。これは本当に素晴らしい機能です」とホルムバーグ氏。

サザンレジデント・キラーホエールズ
プージェット湾のヘンリー島付近で水面上に飛び出す、絶滅危機種のサザンレジデント・キラーホエールズ。

AI は、投稿者による投稿よりもはるかに多くの画像とデータを収集し、画像の管理、個体群のサイズの推定、さらに多くのデータ収集などのタスクから研究者を解放してくれます。おかげで、生物学者たちはクジラに関する学習を通して、より多くの人々と関わることができます。

「誰かがモルディブでジンベイザメと一緒に泳いだり潜っている YouTube の投稿を AI が取り込むと、『ジンベイザメ XM-1195 を動画で見ました』と投稿者への返信コメントを自動的に作成します。自然言語処理が失敗した場合、Wildbook はさらに多くのデータを人々に求めることもできます。もはや民間サイエンティストという概念が変わりつつあります」とホルムバーグ氏は付け加えています。

海岸からのホエールウォッチャーのための Whale Trail

Wildbook は動物版 Facebook とも言えるものですが、ビーチから見るクジラのデジタル・ガイドツアーとして開発中なのが、The Whale Trail です。The Whale Trailを開発する組織は、北米の西海岸沿いにホエール・ウォッチングのための看板を立て、それぞれの看板に合わせて教育体験を提供するアプリを開発しています。

このアプリは、Wildbook と同様、野生生物の研究データを収集する団体 Conserve.iO と情報を共有します。

「看板はスタート地点にすぎません」と語る The Whale Trail の創設者であるドナ・サンドストロム氏は、こう続けます。「電話やタブレットを使って、今眺めている海についての話を聞いたり、最近そこでどんなクジラが見られたかを知ったり、自分が撮った写真や自分の話を投稿したりできます。普通の人にとっては、海岸から見えるものはたくさんありますからね。ここアルカイ・ビーチ (シアトル南西部) にずっと立っていたら、突然シャチの群れが現れて泳いでいきましたよ」

レジデントシャチは魚を捕食する動物で、母親を中心に組織された絆の強い家族集団の中で生活します。サザンレジデントのシャチが生息する領域は、バンクーバー島の南端から北カリフォルニアにまで及び、10 月から 2 月までの間は移動するサケの群れを追って、シアトルの近くのプージェット湾に戻ってきます。

Whale Trail の看板を読む少女
太平洋沿岸に教育的な看板を立てている The Whale Trail。写真提供: ジェイソン・ロペス氏。

「サンフアン諸島にあるライム・キルン・ポイント州立公園は、世界で最もホエール・ウォッチングに適した場所の 1 つです」とサンドストロム氏。この事実こそが、元 Adobe 社のソフトウェア・プロジェクト・マネージャーが The Whale Trail に着手するきっかけの 1 つになったのです。

The Whale Trailを開発する組織は、NOAA Fisheries やシアトル水族館などの科学組織と提携。ワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州、ブリティッシュ・コロンビア州の海岸に、ホエール・ウォッチングについて説明する看板を 90 以上設置しました。

看板には有益な情報が記載され、ピュージェット湾に生息するシャチの未来に関する重要なメッセージを送っています。

「おそらくシアトル西部に住む人々がその看板を見れば、庭では除草剤を使わずに雑草を抜こうとするでしょう。これらの毒素は結局海に排出され、クジラなどの生き物に害を及ぼすからです」とサンドストロム氏は語ります。

野生生物を救うには、クジラに関するさらに多くのデータを海洋研究者に供給する公的な取り組みが必要です。その意味でも、民間サイエンティスト (趣旨を理解した上でデータを提供する人々のほか、休暇中の写真や動画を、何も知らずにソーシャルメディアでシェアする人々を含む) による投稿が、クジラの保護に役立っています。

「ビッグデータが、野生生物研究の規模を急速に拡大しています」(ホルムバーグ氏)

 

 

この記事をシェア

関連トピック

サイエンス テクノロジー・イノベーション

次の記事

Read Full Story