サイエンス

ブラックホールの衝突音をキャッチ

Julian Smith Writer

ブラックホールの衝突によって生じる宇宙音が、重力波天文学によって地球上で検出できるようになりました。これは科学者にとって宇宙および重力の性質を調べるための新たな手がかりとなります。

レーザー干渉計重力波観測所 (LIGO: Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory) に設置された Advanced LIGO 検出器がオンラインになって 2 日も経たないうちに、10 億光年以上離れたブラックホールの激突により発生した最初の信号が地球に到達しました。

この信号は、低音が鳥の低いさえずりに変わるように、35 Hz から 250 Hz へと周波数を上げました。発生したのが 2015年9月14日であることから、この重力波の信号は GW150914 と命名されました。

周波数の振れ幅が最大になったのは約 1/5 秒間でしたが、その信号が持つ重大な意味は、今もなお反響を集めています。それもそのはず、この宇宙の「さえずり」は、重力波を初めて直接検出したものなのです。2 つのブラックホールがらせんを描きながら互いに近づき、衝突し、融合した時に発生した、言わば「時空のさざ波」です。

この 時空 のわずかな振動は、ちょうど 100 年前に、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論によって予想されていました。

観測した信号に基づき、LIGO の科学者は、それぞれ太陽の約 29 倍と 36 倍の質量を持つ 2 つのブラックホールが 13 億年前に衝突し、融合して、1 つの巨大なブラックホールになったと推定。

衝突の瞬間には、太陽の約 3 倍の質量が一瞬にして重力波に変換され、観測可能な宇宙の範囲内にあるすべての星の 50 倍ものエネルギーが放出されました。

MIT のシニア科学研究員であり、 LIGO チームのメンバーでもあるエリック・カッサバウニディス氏は、「これが重力波天文学という、宇宙を観測する全く新しい方法の始まりです。 この新しいツールによって、ほかの方法では得られないような実態をつかむことができます」

数マイルにわたる検出

米国国立科学財団 (NSF) の後援を受けて、カリフォルニア工科大学 および MIT が運営する LIGO では、ワシントン州ハンフォードに 1 カ所、ルイジアナ州リビングストンに 1 カ所、計 2 カ所の地上に検出器を設置しています。

L 形の検出器には、長さ 2.5 マイル (約 4 キロメートル) のアームが 2 つ付いています。このアームでレーザー光を 2 つの光線に分割。それぞれの光線が各アームを往復し、 アームの両端に正確に配置した鏡の間の距離を測定します。

アインシュタインの理論によると、鏡の間の距離は、重力波が検出器のそばを通り過ぎるときに、ごくわずかな量だけ変化するそうです。

重力波は、驚くほどスケールが小さいことと、光の速さであることを除けば、水面に広がるさざ波と同じです。 重力波が検出器を通り過ぎると、各アームは交互に伸び縮みして、各レーザーの移動距離が変化します。

LIGO 検出器の設置拠点
2.5 マイル (約 4 キロメートル) のアームを持つ LIGO 検出器の設置拠点 、ワシントン州東部ハンフォード。 写真提供: カリフォルニア工科大学 / MIT / LIGO 研究所。

その移動距離は、陽子の直径の 1 万分の 1 より小さく、「あっという間に起こるこのかすかな変化を検出するのは困難ですが、

アームの長さを変えることで検出しやすくなります」と、プロジェクトに参加した インテルラボのプリンシパル・エンジニア、ハイシェン・ロンは語ります。

妨害ノイズ

かすかな変化をとらえるには、「安定した強力なレーザーが必要となるだけでなく、地震や通り過ぎる車など、あらゆる振動から検出器を隔離する必要もあります」とロン。

直径 4 フィート (約 1.2 メートル) の筒に格納されたレーザーは、溶融シリカ繊維によって浮かせることで、動きを最小限に抑えています。 カリフォルニア工科大学で LIGO 研究所のチーフエンジニアを務めるデニス・コイン氏は、「連続する 7 段階のアクティブ / パッシブ防振により、10 Hz 以上の地面の振動を 100 億分の 1 まで抑えることができます」と説明。

また、ロンによると、2 カ所にある検出器の設置拠点が米国の両端の州に離れて設置されているため、重力波信号を確認できるとのこと。

重力波がワシントン州からルイジアナ州まで移動するのに、数ミリ秒かかります。 この時間差によって、1 つではなく 2 つの耳で音を聞くように、信号源の範囲を特定できるというのです。

「一方の拠点で信号を検出しても、もう一方で検出されなければ、それはノイズと考えられます。 しかし、両方の拠点で同一の信号を適切な遅延時間で確認した場合は、正しい信号であると確信できます」とロン。

また、カリフォルニア工科大学で LIGO 研究所のリサーチ・マネージャーを務めるスチュアート・アンダーソン氏は、「新しいデータが途切れることなく記録されるので、受信時の雑音から信号を切り分けるには、発生しうる数百万もの信号波形を調べておく必要があります」と指摘。

重力波を示すグラフ
2 カ所にある LIGO の検出器設置拠点で、重力波からの信号を示すグラフ。 写真提供: LIGO。

さらに、「LIGO では、この調査を行うため、重力波の検出を目指すEinstein@Home プロジェクトにより接続した家庭用 PC から、Texas Advanced Computing Center (テキサス先端計算センター) の Stampede、San Diego Supercomputer Center (サンディエゴ・スーパーコンピューター・センター) の Comet などのスーパーコンピューターまで、約 50,000 台のコンピューターを並列使用しているのです」とアンダーソン氏。

ブラックホールの理解

NSF が 10 億ドルを投資した LIGO プロジェクトは、40 年前に中性子星が衝突した証拠を探すために始動しました。 現在では、世界各地の 1,000 名以上の科学者が、LIGO で重力波に関する研究を行っています。 最初の信号が到達するまで、研究者にはブラックホールのの存在を示す直接的な証拠がありませんでした。システムがオンラインになって初めて、証拠が得られたのです。

1回目の信号を裏付けたのが、そのあとに続いた 2 回の重力波検出です。2 回目は 2015年12月で、太陽の 22 倍の質量のブラックホールが誕生。続く 3 回目は 2017年1月 で、太陽の 50 倍の質量のブラックホールが誕生しました。

以前はブラックホールの電磁波放射を使って間接的にしか検出できませんでしたが、この合計 3 つの信号は、巨大な質量のブラックホールの存在を直接立証するものです。

ただ、これですべての疑問が解消したわけではありません。「依然として残るのは、衝突した 2 つのブラックホールがどこから来たのか? という問題です」とカッサバウニディス氏。 以前から互いの周囲を回っていた巨大な星から同時に進化したのでしょうか? それとも別々に形成された後、重力によって融合したのでしょうか?

LIGO の科学者 によると、「共通外層進化」と呼ばれる最初のシナリオは、各ブラックホールが、そのパートナーの周囲を回りながら同じ方向に回転しているというものです。 一方、「ダイナミカル・キャプチャー」と呼ばれる2 つ目のシナリオは、各ブラックホールが、「回転の揃わない状態」で、軌道とは反対方向に回転しているというものです。

2 つのブラックホールの融合
LIGO が検出した、ブラックホールの融合時に発生した重力波 (時空のさざ波)。 写真提供: SXS。

今のところ、LIGO が突き止めた証拠は、両方のシナリオに合致します。 2015年12月の検出データでは、回転が揃っていますが、2017年1月の検出データでは、回転が揃っていないからです。

「回転のしかたは、ブラックホールがどのように形成されたかを示す決定的証拠になると思われますが、これも、いまだに正確に測定できていないパラメーターです」とカッサバウニディス氏。

ブラックホール研究の展望

一方で、150 W のレーザーから免震システムまで、LIGO 向けに開発された技術や工学は、ほかの領域でも活用できるとして、カッサバウニディス氏はこう続けます。

「毎日 1 TB のデータを記録していますが、そのうち重力波に相当するデータは約 2% に過ぎません。 残りのデータは地球科学関連の興味深い作業などに活用できます。

LIGO では信号のおおよその発信場所を突き止めることはできますが、電磁波解析ツールを使用してその場所を特定するためには、天文学者グループの力が必要です。」

これは、ネットワークで接続される LIGO 検出器が増えるほど容易になります。 この夏、イタリアのピサの近くで VIRGO というネーミングのレーザー干渉計が稼動を開始しました。日本でも別の検出器の設置が計画されており、インドで計画される可能性もあります。

「新しい技術で何を発見できるかと考えるとわくわくしてきます。

これに極めて似たものといえば、光学望遠鏡の発明以外にないでしょう。 ガリレオは自分が開発した望遠鏡がその後どこまで進化するか、分かっていたのでしょうか?」とカッサバウニディス氏は語っています。

編集者注: メイン画像は、マット・ハインツェ氏 / カリフォルニア工科大学 / MIT / LIGO 研究所提供。

 

 

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