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オーストラリア史上最大の e スポーツイベントに熱狂

Jason Johnson Freelance writer and editor

Intel Extreme Masters (IEM) Sydney大会は成長著しい e スポーツ界の中でオーストラリアの役割を強化することに。

クリス・オーファネリス氏と彼が率いるオーストラリアチームのメンバーは、e スポーツ競技会の拠点であるラスベガス中心部の質素なホテル、ダウンタウン・グランド・ホテルに 1 年間滞在していました。彼らはスイートルームの部屋から家具を放り出して巨大なゲーム用コンピューターのためのスペースを確保し、カウンターストライクの特訓に明け暮れていたのです。

「ラスベガスのホテルは 2、3 日以上の滞在を想定して作られていないんだ」、オーストラリア出身者で構成されたカウンターストライクのチーム「Renegades」のマネージャーであるオーファネリス氏はこう述べると、「まったく快適とは程遠いよ」と付け加えました。

まだ幕を開けたばかりのオーストラリアのeスポーツ界では、プロのゲーマーとして成功するために国外での活動を余儀なくされています。しかし、そんな状況も 5 月 6 日および 7 日にシドニーで開催された Intel Extreme Masters (IME) 大会によって、変わるかもしれません。

IEM は世界で最も歴史あるプロのゲーミングツアー。2006 年、ESL によって 開始されたこのイベントは、カウンターストライク :グローバルオフェンシブ(CS:GO)、スタークラフト 2、リーグ・オブ・レジェンドをフィーチャーし、世界中でこれらのトーナメントが開催されています。

シドニーで IEM が開催されたのは今回が初めてのこと。7,000 人以上のファンが集結し、オーストラリアで開催される e スポーツのイベントとしては過去最大の規模となりました。オーファネリス氏の Renegades のようなオーストラリア人チームは自分たちの地元で、 200,000 米ドル(約 2,200 万円) の賞金を競い合ったのです。

決勝を戦う SK Gaming と Faze Clan のプレーヤーの入場を歓迎するファン。写真提供: ヘレナ・クリスティアンソン

このイベントは、ニューヨークのレイク・プラシッドで開催された 1980 年冬季オリンピックで、米国がロシアに勝利した「氷上の奇跡」の後、米国でプロホッケー人気が急上昇したのと同様に、オーストラリアの e スポーツが飛躍を遂げる上で大きな転機となる可能性があります。あの大勝利により、米国ナショナル・ホッケー・リーグのプレーヤーの数は 50% 増えました。IEM シドニー大会でも地元チームの活躍が同様のインパクトを与え、オーストラリアの若い世代のプレーヤーたちに夢を与えるものとなったことでしょう。

同様の現象は過去の e スポーツのイベントでも見られました。例えば 2013 年に IEM はポーランドで初のトーナメントを開催しましたが、その開催地となったカトヴィツェという都市名を正しく発音できる人はそれまでほとんどいませんでした。

今日ではカトヴィツェのスポデクアリーナで開催される IEM ワールド・チャンピオンシップには最も多く人が集まるようになり、ポーランドのe スポーツ界は Jaroslaw ”pashaBiceps” Jarzabkowski や Wiktor “TaZ”Wojtas など、カウンターストライクのトッププレーヤーたちを輩出するなど大きな発展を遂げています。

インテルの e スポーツ部門のマネージャー、ジョージ・ウーは「IEM シドニーがカトヴィツェの時と同じような自然な発展を遂げながら、最終的には世界最大の e スポーツのイベントの一つへと成長してくれればいいと願っている」と述べています。

2017 年、Newzoo の Global Esports Market Report によると、e スポーツの経済効果は今年 6 億 9600 万米ドル(約 800 億円)に達し、2020 年までには15 億米ドル(約 1,700 億円) にまで拡大すると予測されています。その要因としてスポンサー費、広告費、メディアによる放映権料などが挙げられ、イベントの入場料収入やグッズ販売などからの収益も 6400 万米ドル(約 72 億円)に及ぶと期待されています。IEM シドニーの開催によって、オーストラリアは e スポーツ経済を大きく発展させる重要な一歩を踏み出したのです。

プロへの登竜門

トップを目指す地元プレーヤーたちにとって IEM の開催はまさに願ってもないチャンスでした。地元のファンを前にして、世界最高のトッププレーヤーたちと対戦するチャンスが与えられたのです。

「このイベントは多くの人に私たちを知ってもらえるチャンスになるだろう。キャリア的にも大きなプラスになると思っている。チームの誰もが、成功し世界中を周って戦えるようになる夢を実現させたいと願っている」と、トーナメントの出場権を得た地元オーストラリアのチーム Chiefs Esports Club のリアム・シェンブリ氏は、試合直前にこう語っていました。

IEM Sydney のグループステージで、Chiefs Esports Club が重要なラウンドに勝利。写真提供: ヘレナ・クリスティアンソン

Renegades はオーストラリアのアマチュアゲーマーがプロを目指す上でのハードルについて、他の地域のプロチームと違って、オーストラリアでは強いチームでもプレーに対する報酬が支払われることがほとんどなく、仮に支払われるとしても、生活を賄う上での充分な収入には満たない、と指摘しています。

Renegades のメンバーは、米国へ移ってプレーする契約を結ぶ前、フルタイムの仕事と学業を両立させながら、毎日 8、9 時間も練習に費やす海外のチームと同じレベルを保たなければなりませんでした。

「ヨーロッパやアメリカのプロチームのように練習にもっと時間が取れれば、絶対に追いつけるという自信をみんなが持っていた。オーストラリアではそのチャンスがなかっただけ」と、オーファリネス氏は当時を振り返ります。

「オーストラリアには、人々が真剣にそれを追い求める十分な機会がないだけなんだ」

問題の一つはオーストラリアが文字通り大陸とつながっていない島国であるということ。ポーランドやドイツのケルンのようなカウンターストライクのプロが集まるところへ行くためには、多大な費用がかかり、スポンサーの援助も無く一人当たり 10 万円もの旅費を自腹で賄う必要があったのです。初戦でいきなりトッププロと対決して敗退する可能性が高いなかで、そのような投資は割に合いません。

オーストラリアのゲリラ戦術

アナリストたちは、オーストラリアのチームが IEM シドニー大会で大勝するとは予測していませんでしたが、かといって地元のアマチュアプレーヤーやファンが大敗を避けられないイベントとして考えることはない、とコメントしていました。

Chiefs Esports Club などのようなチームは、世界のトップに君臨するデンマークのチャンピオン・チーム Astralis に対戦して勝利する可能性もある、と。Chiefs Esports Club で狙撃手を務めるアリステア・ジョンストン氏も、「相手を威嚇し、十分なダメージを与えることができると思う」とコメントしていました。

トーナメントで有力チームに勝利を収めるために、ジョンストン氏のチームは何度も合宿を行いました。日中は相手チームの試合のビデオを研究し、夜には実戦的な練習試合を繰り返したのです。

ジョンストン氏のチームは、世界最高のカウンターストライクのプレーヤーの一人に数えられる Nicolai “dev1ce” Reedtz 氏が所属する Astralis と対戦が決まっていたので、練習ではライバルのプレースタイルを何度も研究。今回の対戦に限っては、ゲリラ戦と同様、自分たちのプレースタイルが相手に知られていないことが利点になると考えていました。

「私たちは相手の戦い方をよく知っているが、相手はこちらがどうのようにプレーするのかまったく知らないのだから」と、ジョンストン氏は述べていました。

結果は残念ながらワールド・チャンピオンを相手に勝利を収めるには至らず、Chief Esports Club は Astralis と 5 月 3 日の第三試合で対戦し、5 対 16 のスコアで敗れました。しかし全体としては 5 戦中 2 勝 3 敗と健闘し、世界のトッププレーヤーたちと互角の戦いを見せました。彼ら無名の戦士たちの存在を十分に知らしめたその戦いぶりは連日7000 人以上のイベントに参加したファン、22 の言語で配信されたオンラインでは、800 万人にのぼるユニークビューワーたちを大いに沸かせました。大会はブラジルのチーム、SK Gaming が世界中から参加した強豪 7 チームを破り、初の IEM シドニー大会チャンピオンの栄冠を手にし、興奮のうちに幕を下ろしました。

IEM Sydney での SK Gaming の優勝を祝福する観衆。写真提供: サラ・クーパー

 

写真提供 IEM
為替は執筆当時のレートを用いています。

 

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