イノベーションを生み出す母たち

AI にヒット曲は生み出せるか

スマート・ミュージック

人工知能 (AI) を使って、人間とコンピューターのコラボレーションによる初めての音楽アルバムが制作されました。そのクリエイティブ性に高い評価が集まり、今後の楽曲制作手法が変わりつつあります。

タリン・サザン氏の曲「Break Free」は、重厚な映画風コードで始まり、ダウンビートで続きます。 徐々に大きくなるリズムは、やがて心臓の鼓動と重なります。 3 分あまりのこの歌は、暗さと力強さが行き交い、音の満ち引きが特徴的です。

サザン氏が歌詞を書き、自身が歌っていますが、 作曲をしたのは、話題の人工知能作曲システム Amper です。

「クリエイティブなチャレンジだと思い、手掛けることにしました。 どんなツールにも独自の制約がありますが、このテクノロジーを使えば本当に凄いものが作れそうだと確信したのです」と、パフォーマー兼コンテンツ・クリエーターのサザン氏は語ります。

カンザス州生まれで現在はロサンゼルスに住むサザン氏は、かつて YouTube で音楽や、コメディー、解説動画などを織り交ぜて発表し、そこで数百万ビュー (視聴回数) を集めて有名になりました。

「Break Free」は、11 月に発売されるサザン氏のアルバム「I AM AI」 からのファーストリリースです。 作曲とプロデュースをすべて人工知能で行った世界初のアルバムと言われていることに対し、サザン氏は、「I AM AI」は人間とロボットのパートナーシップを超える出来映えだと主張します。

「コードやリズムに至るまで、実際にすべての作曲作業を行ったのは Amper です。 特に役立ったのは、楽曲構成を組み立てる時と、作曲時に自分のスタイルで自由に特定の楽器を選べた点です」とサザン氏。

Amper のようなツールは、既存の音楽を分析し、リズム、コード、テンポ、その他音楽的要素に関わるパターンを解析して、さまざまなムードや音楽ジャンルに関連する手法を理解して学習します。

これをもとに、同じパターンにフィットした新しい曲を作り出すのです。

クラシック音楽と同様に、ポップスも、アルゴリズム的クリエイティビティーに適した、定型化された構成やパターンを持っています。

サザン氏の場合は、Amper にテンポ、ムード、スタイル、楽器構成、その他要因のパラメーターを与え、AI にそこから先を続けてもらいながら、 その都度サザン氏が手を加えて調整する、という作業を繰り返しました。

最適なツールを探し出す

自身の YouTube チャンネルで 456,000 人以上の視聴者を擁するテクノロジーのアーリーアダプターとして、サザン氏は 2017 TNW Conference に登壇。拡張現実 (AR) や仮想現実 (VR) を通じたロボットとのコラボレーション、AI が変えるストーリーテリングの未来について語りました。

サザン氏はパフォーマーやアーティストとしての成長に役立つテクノロジーを見つけたいという強い思いに駆られて、何年もの間、新しい AI ツールを探し求めていたと言います。 はじめは、ソニーコンピュータサイエンス研究所の Flow Machines のような製品を探していましたが、最終的に行き着いたのはオープンソースの Amper でした。そして音楽、デジタル、360 度ビデオの編集にはインテル® Xeon® プロセッサー搭載 MacBook Pro を使用しました。

カンファレンスでタリン・サザン氏が講演
TNW Conference で、コンテンツ制作の向上にテクノロジーがどれほど貢献するかについて語るタリン・サザン氏。 写真提供: タリン・サザン氏。

コンピューターは、人工的なクリエイティビティーと人間のクリエイティビティーの間の境界線を曖昧にしてきました。 AI による作曲の世界に早くからチャレンジしているソニーのような企業に加えて、Google はマシンラーニング・アルゴリズムを利用してオリジナルの音楽、動画、画像、テキストを作り出す「Magenta」というオープン・ソース・プロジェクトを支援しています。

今のところ、業界の多くの人々は、AI は人間のクリエイティビティーを置き換えるものではなく、強化するツールとして捉えています。

「コンピューターは、私たち人間がこれまで思いもしなかったような考えをもたらしてくれます。 さまざまなバックグラウンドを持つ人々が、クリエイティブになれる新しいツールを手に入れられるのです」と、クリエイティブ業界で AI を専門とするイギリスのリサーチャー兼プロデューサー、ルバ・エリオット氏は語ります。

さらに同氏は、現代のコンピューターは、オリジナルな作品を生み出すよりは定型的な歌の作曲に向いているとして、こう続けます。

「クラシック音楽作品のように、一連のルールや形式上の制約のもとで作業する場合、そのジャンルのパラメーターを指定して作曲するアルゴリズムを開発することはよくあります。

ただ、完成した曲は、どうしても以前作曲したものと似てしまいます。 このやり方では新分野を切り開くことはできないでしょう」

音楽的に納得のいく最終作品に仕上げるには、まだまだ人間が手間をかける必要があるというわけです。もちろん一方で、コンピューターも進化を続け、より賢く、よりクリエイティブになっています。

クリエイティビティーと将来への適応

完璧なヒット曲をすべてコンピューターだけで作れるようになったとしたらどうでしょう? それでもまだ、作曲家に仕事はあるのでしょうか?

「私はアーティストなので、私のクリエイティビティーを高めて補完してくれるツールを求めています。 AI の方が上手 (うわて) だから、もう堂々と仕事ができないね、などと誰にも言われたくありません。

ただし、たとえコンピューターがヒット曲を生み出せるようになっても、クリエイティブな人たちはそこに適応するでしょう」とサザン氏は語ります

クリエイティブ・エージェンシーである Skilled Creative 社の CEO、

ブランドン・S・キャプラン氏が、

「人間は自分が持っていないものを欲しがるものです。 あなたは、人間とやり取りしている業務をリスト化して、AI がどうやったらその仕事をこなせるかを考えることはできるでしょう。 でも反対に、人間とのやり取りがなくなった結果、私たちが失ってしまう微妙なニュアンスについて考えたことはありますか?」と問いかけるように、クリエイティブ業界の中でも先進的な考え方を持つ人たちは、このキャプラン氏の言う、「人の温もりを想起させる家内産業」に乗じる戦略をすでに立てています。

未来は単なるテクノロジーによってではなく、アーティストやクリエイティブな人々が、新しい AI の進展にどう対応するかによって形作られていく。そんな考え方に同意するサザン氏も、こんな風に語っています。

「AI は、新たなジャンルやサウンドを作り出す可能性があります。 そんなことが現実になってしまうと、人間は既存の枠にとらわれずに考えなければならなくなるでしょう。

人工的なクリエイティビティーが極めて予測不能であることで、かえって人間のクリエイティビティーが刺激されることもあり得ます。

あなたができる最善のことは、まるで 10 歳の子供のように学び、遊び、試し続けることです」

彼女の場合、それはより頭を柔らかくするということを意味します。 つまり、長く続いてきた関係、経験、そしてリソースを解放するということでもあります。

「将来に目を向けても、何が起こるかは全く分かりません。 しかし、過去に目を向けてみると、テクノロジーが混とんとしてはいるものの、そこから現時点では見えないような新たなチャンスを生み出す傾向があります。

人間は、適応力に関しては本当に天才だと思います」とサザン氏は語っています。

 

 

 

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