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AI DJ or Vinyl DJ テクノロジーが導く DJ の新たな境地

Intel Japan Writer

かつて一部の「職人」のものだった DJ という行為。テクノロジーの進化でスマートフォンやタブレットでもプレイできるようになるなど、裾野が広がる中、最近では、AI(人工知能)でプレイするという試みをしているアーティストたちも登場しています。その一人として知られるのが真鍋大度氏。ライゾマティクスリサーチにて手がけるさまざまなメディアアートは広く知られ、アーティストの椎名林檎氏、演出振り付け家 MIKIKO 氏らの指揮のもと、真鍋氏が AR(拡張現実)、フィールドの映像ディレクション、テクニカル・ディレクターとして関わったリオのオリンピック閉会式でのフラッグ・ハンドオーバー・セレモニーは大きな話題を呼びました。その真鍋氏に今回の対談では AI を用いた DJ の可能性についてお話を伺います。

そして今回、真鍋氏と対談するのは「キング・オブ・ハウス」こと DJ EMMA 氏。日本のクラブ・ミュージック・シーンで黎明期から 30 年超に渡り、いまだ最前線で活動を続けるベテランです。EMMA 氏が手がけた DJ ミックスシリーズ「EMMA HOUSE」は 2016 年 10 月 26 日に発売された最新作で 20 作品目。この「EMMA HOUSE」は最盛期、メジャーのヒットチャートを席巻し、「DJ ミックス」という表現を日本国内に知らしめるきっかけとなりました。DJ EMMA 氏はデジタル全盛の今なお、レコードでのプレイにこだわりを持ち、現場ではほとんどデジタルメディアを利用していません。

今回の対談を通じ、両極端とも言えるそれぞれのスタイルを比較しながら、テクノロジーと DJ プレイの関わり、そしてそこから見えてくる本質まで考察していきます。

本対談の様子や雰囲気を感じて頂くためにダイジェスト版の動画を用意しました。YouTubeにてご覧頂けますので、下記サムネイルをクリックしてください。

AI DJ に「人を見る」ことはできるか

「AI を用いた DJプレイ」、この言葉からどのようなイメージを想起するでしょうか。真鍋氏が手掛ける

AI DJ では、DJ ブースに存在するのはコンピューターのみ。会場内に配置されたさまざまなセンサーや参加者のスマートフォンから随時配信されるデータをパラメーターとしてコンピューターは次々と選曲をしていきます。

最新テクノロジーを最大限に活用した、AI による DJ がどのような経緯で生み出されたのか、真鍋氏による話から対談の幕は開きます。

真鍋氏:

これまで Ableton Live* (ミュージック・シーケンサー・ソフト)でプレイしてきた選曲データが 8 年分あったので、それを活用し、自分が選曲しそうな DJ セット、DJ プレイを自動化してみようと始めたのが最初のきっかけです。すなわち、自分の分身を作れるかということを試したのですが、それをやるために必要だと感じたのが、お客さんのフィードバックをどうやって採るかという点です。そのために参加するお客さんにアプリを配布し、今、踊っているのか、バーにいるのか、フロアにいるのかという位置情報や、その人が普段どのような曲を聴いてるかという情報を収集し、ランキングのようなデータを生成することも検証しました。そうして集めたデータを元に、フロアにお客さんがいる時はそのフロアにいる人を盛り上げるような選曲を。バーにお客さんがいる時はそのバーにいる人たちがフロアに来たくなるような選曲をする、というルールなどでアルゴリズムを作成しました。

EMMA氏:

非常に興味深いですね。お客さんのフィードバックを探る行為はまさに DJ そのものです。僕が DJ をしながらまず考えるのは「その場にいる人たちをどう楽しませるか?」という点です。DJ はその場にいる人を楽しませないと、自分も楽しめない仕事。だから DJ プレイの時に最初におこなうのは、1 人で来てる人とか、いまいち乗り切れていない人とか、そういう所在がない人を探す事です。彼らを「いかに音楽に注目させるか」が重要なポイントなのです。

踊っていない人が踊り出すというのは音に「ハマる」ということです。そのハマる瞬間のエネルギーはすさまじく、ただ盛り上がるというのとは全く異なります。その場の雰囲気やファンだから、といった要因で踊っているのとは違い、大きなパワーが生じます。さらに言うと、クラブという場所の本質を考えた時、行き場のない人を受け入れる場所というのもクラブの持つひとつの要素であり、その人たちの感情を解放し、ハッピーにすることで僕もハッピーとなる。ここは DJ プレイにおいても重要な側面だと考えています。

真鍋氏:

長年の現場を踏まえた話、とても興味深いですね。どうやったら機械で再現できるか、ということまで考えが巡ります。先ほどの話の続きになりますが、本当の AI を用いたプレイとはルール自体も AI がリアルタイムで自動生成していくものだと考えています。それこそ、さまざまなセンサーを通じて「所在のない人」をフロア内から抽出し、その人のツボを刺激する選曲する、という対処が自動的におこなわれていく、というイメージでしょうか。

現在、僕がおこなっているのはまだまだ実験段階でしかなく、そこから一歩先に進むためには、楽曲へメタデータを付与することが重要となります。例えば、フロアにいるお客さんが直近で聴いていた曲のランキングが把握できたとします。そこにさらに、メタデータとして「その曲をどういうシチュエーションで聴いているか」という情報が付与され分析できるようになると、AI にその情報を反映し、また違う表現が可能になります。

その曲を走っているときに聴いているのか、夜寝る前に聴いているのか、渋谷で朝の 4 時に聴いているのか、というようなシチュエーションをデバイスが記録し、楽曲にメタデータとして紐付ける、ということです。

最近配布したアプリではそうした情報を取得しており、このデータを用いてどのようなことができるのか、模索している段階です。

EMMA氏:

「人を見る」という事が DJ の仕事の一つでもあるので、人の普段聞いている楽曲をバックグラウンドも含めてデータとして取得していくのはまさに DJ の行為に近いと言えそうです。もし仮に AI に人間の目のようなセンサーが実装されたら興味深い進化が望めるのかもしれませんね。

人にできて AI にできない DJ プレイとは

真鍋氏がアプリを通じて取得しているデータに関し、まさに DJ が現場で拾い上げている情報のようだとみなす EMMA 氏。さらに、現場ではプラスアルファとして「踊っていない人をハメる」ための試行錯誤がなされており、そこが DJ プレイに深みを与えるのでは、と EMMA 氏は言います。それでは DJ プレイに戦略的なポイントがあるのかどうか。真鍋氏から EMMA 氏へ問いが投げかけられます。

EMMA氏:

僕の DJ プレイでは、ミックスの時に意図的に音量を下げたり、2 曲を並行してかけるロングミックスという手法など、さまざまな方法をフロアの状況に応じて組み合わせています。フロアはさまざまな要素が絡み合い、毎回状況は異なります。その空気を敏感に察知し、その時々に応じて対処方法を変えていくことが DJ には求められます。単純にヒット曲をかけるだけならばそれこそ誰でもできるし、今の時代であればコンピューターでもできることですよね。そこと差別化し、独自の解釈を付加することでしか音楽性って出せないのではないでしょうか。

真鍋氏:

おっしゃる通りですね。実際に、ヒット曲を探して分かりやすい場所で次の曲とつないでいくというのはソフトで自動化するのも容易です。流行りの曲を見つけ出すのもチャートだったり SNS の投稿などから拾い出したりすることなどで簡単にできてしまいます。しかし、盛り上がっていないフロアの状況に対応する、というのはなかなかルール化することは難しそうですね。それではこうした流れを組んでいく時、どのようなことを意識しているか、もう少し詳しく教えていただけませんか。

EMMA氏:

「転ぶ石」をわざと置く、というのはひとつのポイントかもしれません。「転ぶ石」というのはあえて失敗のような状況を演出することです。そうした状況が随所にあることで人間らしい、「リアル感」が出てくるのではないでしょうか。AI に限らず人間がプレイしていても、コンピューターを使用して DJ ミックスをしているのを聞くと立体感がないように僕には感じられます。ずっと平たんに聞こえてしまうので、たとえ曲自体には抑揚があっても感情を揺さぶられることはありません。

真鍋氏:

僕も最近、その点を実感しているので強く同意します。例えば、ビートが少しずれた際にターンテーブルやレコードを触ってビートのずれを修正するような時でもその修正音の裏に人間の動きを感じ取れます。デジタルでやっているとそのような DJ が作り出す揺らぎみたいなものは現状、生み出すことができません。ではそのアナログの雰囲気をどのようにシミュレートしていくのか、このあたりは AI でのプレイにとどまらず、デジタルでのプレイにおける今後の課題のような気がしますね。

AI DJ が得意とする曲芸的プレイ

アナログなプレイと、AI などを用いたデジタルでの DJ プレイ、その違いとして両者が挙げたのは「人間ならではの揺らぎ、リアル感があるか」というところでした。それでは AI が得意とする分野はどこなのか、EMMA 氏から真鍋氏に質問が投げかけられます。

EMMA氏:

やはり、いろいろとデジタルとアナログでは違いがありますね。今回の対談で聞いてみたかったことのひとつが、AI での DJ プレイはどこまで進んでいるのか、どういうことができるのか、という点です。現状の AI ではどういうことが得意なのでしょうか。

真鍋氏:

コンピューターの得意なことのひとつに検索行為が挙げられます。要するに、数千、数万とある楽曲の中からルールに合った曲を選び出すということです。例えば、膨大な楽曲群から前の曲の特徴や曲の構造、キーに合致した曲を抽出する、というのはコンピューターならではのことだと思います。

僕たちも実験でやったような、さまざまな曲の歌詞で韻を踏んでいる場所を抽出してつないでいくということは現実的に人間だとなかなか難しい。そういう曲芸的、職人芸的なプレイは人間だと難しいですが、コンピューターなら簡単にできたりします。人間がやると、とてつもない時間がかかるところはコンピューターに任せ、人間はアイデアやクリエイションという部分にフォーカスする、という相互補完は今後、可能性としてありえるかもしれません。

EMMA氏:

たしかに、リズムのタイミングやキーを都度合わせたものを選曲できるかというと、正直なかなか難しいものがあります。頭の中で似てる曲をイメージするくらいで、完璧に合っているということは実際あまりありません。C だったら C# の曲調まで混ざったりすることで展開を作り出していきます。なので、AI が全て C で合わせたプレイや、さらに、1 拍の中にいろいろな要素を詰め込むなど、人間じゃできない、考えられないようなことをやられたら結構な衝撃を受けるかもしれませんね。

テクノロジーの進化が問う DJ としての価値

人間だけではなかなか難しい領域はコンピューターに委ね、人間はアイデアやクリエイションにフォーカスする。この相互補完の関係性は今後の両者の関わりにおけるひとつのヒントと言えるでしょう。対談の最後として、進化していくテクノロジーに対して両者が感じていることを伺いました。

EMMA氏:

古い話になりますが、僕が小学生の頃にドラムマシンが発売されました。近所の楽器屋の POP には「もうこれでドラマーは不要です」というコピーが書かれていて。ドラマーの仕事はこれでなくなってしまうのか、と幼心に強い衝撃を受けた事を今でも強く覚えています。

しかしそこから数十年が経過しましたが、今でもドラマーの仕事はなくなることはありません。もちろん、ドラムマシンが出てきて職を失った人も一定数いるのかもしれませんが、本物の「プロ」の仕事はなくなることはありません。

一方でそのドラムマシンを使ってテクノやハウス、ヒップホップの楽曲は生まれました。これらはドラムマシンなくしては成立しなかったでしょう。要するに、テクノロジーの進化は人間に有益なものだと思いますし、実際そういうことが自分の周囲では多いように感じています。だから今後の進化においても人間ありきで進化していくと思いますし、そう願っています。

真鍋氏:

僕がテクノロジーの進化で感じているのは、機械のブラックボックス化が進むことの代償として生じている、人間の能力の退化です。Google Maps が便利になればなるほど方向音痴な人が増えている、という笑えない話がありますが、AI でも裏側の技術がどんどん進化し、もはやどうなっているのかわからない状況になりつつあります。よくわからないけど便利だからとりあえず使ってしまえ、というような具合です。

しかし、そこで失われていくこともたくさんある訳で、それをまったく気付かずに全部捨ててしまうと、出来上がったものが味気ないツールとなってしまう。だから、僕はアナログ DJ の揺らぎやプレイ中の何気ないしぐさなども、DJ の中では必要で魅力的に見えるもののひとつだと考え、設計に盛り込むようにしています。

EMMA氏:

おっしゃっていること、今回の全体の話につながりますね。今回の対談で AI での DJ プレイをはじめ、いろいろとお話を聞かせてもらいましたが、その話を聞きながらいろいろと考えが巡りました。面白いことに、考えれば考えるほど、結局、人間のことを考えてるんですよね。

過去の自分の変遷を振り返りながら、一時期目標を見失っていた時の事を思い出したりもしました。そこから脱却するきっかけとなったのは、ある DJ の方との出会いです。その方のかける音楽を聴き重ね、その場に居続けることで感じることのできた空気感。いろいろな背景を持った人たちが、同じ場所に集い、同じ音の中で体験を共有する。その場を左右するのが DJ で、いわば自分の人生、生きざまを見せていく、ということだと。それを知ってから自分のプレイが 180 度変わりました。対談中、この話をもとに AI に置き直したらどうなるのかを考えている自分がいました。

対談の冒頭では AI と DJ を結び付けられませんでしたが、話が進む中で AI には作者をはじめ、多くの関与している人たちの存在があることを知りました。出来上がったものは、そうした人たちの人生が投影されたものになるのではないかと。対談の前まではこのような見解になるとは想像もつきませんでしたので、興味深い発見をすることができたと感じています。

真鍋氏:

そう言っていただけると光栄ですね。僕が AI による DJ プレイの実験をはじめたのは、プロ DJ のすごさや数値化できない部分、それこそ本人すらも気づいていないところを客観的に考えるための材料としたい、というところがありました。僕もアナログで DJ プレイをする機会がありますが、うまくいく時とそうでない時で何が原因なのか、まだまだわかっていません。そこが何なのかを AI でのプレイを通じて探っていくべく取り組んでいます。

先ほど EMMA さんも挙げていたドラムマシンの話に通じますが、テクノロジーの進化による淘汰(とうた)にあらがうことはできません。しかし、「本物」と言われるような人たち、プロの中でも価値がある人たちの価値はさらに高まっていきます。少し辛口かもしれませんが、そのような時代に淘汰されてしまう DJ は大したことがないのではないでしょうか、と僕は考えています。

 

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