メーカー

15 歳の少年が開発する「スマート電子レンジ」とは?

ちょうど良い温かさの紅茶を父親に楽しんでもらいたい。そんな思いを胸に抱く 10 代の少年が、数学の知識とプログラミングのスキルを駆使して、ごく普通の電子レンジを自動調理のできるスマート家電に変えようと取り組んでいます。
オレゴン州に住む、機械いじりが大好きなシャヒール・ラーマンくんは、電子レンジで紅茶を温めようとした父親が、毎晩のように失敗し、悲惨な結果に終わるのを見てきました。必ずと言っていいほど紅茶は沸騰してあふれ、熱くなったティーカップで指をやけどするのです。
15 歳になったシャヒールくんは、もっといい温め方があるはずだと考えはじめ、とうとうこの問題の解決策を思いつきました。それは、固体も液体も、あらゆるものを理想的な温度に温めることができるスマート電子レンジの製作です。
シャヒールくんが目指したのは、調理中の食材を認識できるほど賢く、それでいて量産できるくらいコストが安いスマート電子レンジです。この 2 つの要素を両立させることで、料理や飲み物を温めるのに悪戦苦闘している人々にアピールできると思ったのです。
「今の世の中、さまざまな種類の加熱器具が出回っています。例えば、僕たちを快適にしてくれる加熱器具や暖房器具、調理器具などです。しかし、調理分野のスマート化はまだまだ進んでいません。
僕が変えたいと思ったのはこの調理分野です。調理方法を改良して、やけどすることなく、美味しい料理を作りたいと思ったのです」とシャヒールくん。

彼の両親は、インテルで働く 2 人のベテランエンジニア、アシフール・ラーマンとラウシャン・ジャハンです。学校でも成績オール A の優等生であるシャヒールくんは、何年にもわたり科学博覧会で革新的な問題解決のアイデアを出したり、カリフォルニアの理工系大学の講義を聴講したり、まさに彼の両親と同じ道を歩んでいます。
また、父親のアシフールとは、すでにいくつか共通の趣味を持っています。例えば、ふたりで何時間も電子工作に没頭したり、散らかった自宅の作業場でドローンを組み立てたりしています。
アシフールが Lego で作ったドローンを飛ばしてテーブルに衝突させ、ぼや騒ぎを起こしたのもこの作業場でした。そのとき室内の火災報知器が鳴らなかったのをきっかけに、シャヒールくんは熱という現象について考え、その熱がどのように測定されているのかということに興味を持ちました。この出来事が、電子レンジ・プロジェクトを始めるきっかけになったのです。
「最終的に、ユーザーが何も操作しなくても食品を温められる機器を開発したいのです」とシャヒールくん。
あらゆる要素を計算するための膨大な数のセンサーをスマート電子レンジに搭載すれば、部品代がかさみ、商品化しにくくなることは容易に予想できます。ましてや量産などもってのほかです。このやり方では失敗するのは目に見えています。

そこでシャヒールくんはもっと科学的な手法で研究を進めました。つまり仮説を立てて実験を繰り返す方法です。しかも、優れた電子レンジを製作するのに必要な手順と素材を綿密に調べあげました。この電子レンジ・プロジェクトには高度な数学の知識とコンピューター・アルゴリズムが必要であり、製作にあたって彼が学ばなければならないことは山ほどあったはずです。
それでも、シャヒールくんは迷わず研究に打ち込みました。
いよいよ実験をスタート
父と息子はタッグを組み、まず一般的な電子レンジではどのように熱が伝わるのかを調べることから始めました。二人は、近所の Goodwill (全米で展開しているリサイクルショップ) で 15 ドル (約 1,800 円) の電子レンジを入手。
「その電子レンジをちょっと調べてみたところ、マイクロ波の無線エネルギーが照射されるのは、非常に限られた範囲だということが分かりました。電子レンジの内部は場所によって温まり方が異なるので、ターンテーブルによって食材を均一に加熱しているのです」とアシフールは説明します。
そこでこの科学者親子は、少量のシュレッドチーズをお皿に載せ、ターンテーブルなしで加熱。その結果、マイクロ波による加熱効果が高い場所と、低い場所、加熱効果がない場所を突き止めました。
「この加熱分布を解明することで、同じお皿にサラダとマッシュポテトが載っていても、サラダは温めずにマッシュポテトだけを加熱できる電子レンジが作れると考えたのです」とアシフール。

加熱温度マップを作成

シャヒールくんは、電子レンジ内の上部パネルに赤外線センサーを設置して調理温度を正確に測定。このデータから熱マップを作成し、電子レンジ内の熱の上昇と分布の推移を時系列でまとめました。
そしてこのマップデータから、電子レンジに入れた固体と液体に熱がどのように作用するかを解明しようと試みたのです。
その結果、食品ごとに、熱マップと温度プロファイル (時間経過に伴う温度変化) が異なることが分かりました。ピクセル単位のスポット加熱 (温めたい部分を狙って過熱すること) を実現するには、センサーでさまざまな温度プロファイルに対応しなければなりません。
スポット加熱を実現すれば、ユーザーが操作しなくても、食品固有の特性に応じて、電子レンジが自動的にお皿に載った食品加熱・非加熱を調整できるようになります。シャヒールくんは、食品の種類を自動的に識別し、理想的な目標温度と加熱時間を計算してくれるスマート電子レンジを目指したのです。

ピクセル単位のスポット加熱の実現へ

さまざまな食品の目標温度を記録する作業は、ラーマン家の習慣の 1 つになりました。「さまざまな食品の最適な温度を明らかにする必要がありました」と語るシャヒールくんと彼の両親は、携帯型測温ガンを使って、自宅の料理からレストランの料理まであらゆる食品を測定。
例えば、人々が好むコーヒーの平均温度が 74 ℃ であることを突き止めました。

また、粘性と最適な提供温度の間に逆の相関関係があることにも気付きました。つまり、さらりとした粘性の低いスープなどの食品は熱い温度が好まれ、ねばり気のある粘性の高いライスなどの食品は低い温度が好まれます。この関係性は、異なる食品の加熱方法を計算する際に役立ちました。
「粘性に着目することで、人々がすぐに口に入れて食べられる適切な温度を計算できるようになりました」とシャヒールくん。
こうした情報をもとに、彼が大好きなヌードルスープから冷凍サーモンの切り身まで、あらゆる食品の温度プロファイルを構築したのです。ここからが、高度な数学知識の出番です。
エンジニアリングの開始
シャヒールくんは、Excel のスプレッドシートを使用して数値計算用アルゴリズムの作成に着手。食品温度データを取得して粘性を計算し、データのコンパイル、ローテーション、スムージングを経て、目標温度を導き出すアルゴリズムです。
ところが、アルゴリズムを作り始めてまもなく、Excel が高度な計算には適していないことに気付きます。
「本当の意味で僕の研究がスタートしたのは Python を学び始めたときです」と、複雑なプログラミング言語の世界に足を踏み入れたシャヒールくんは振り返ります。庫内の食品によって自動的に加熱方法を変える電子レンジを作るために、このラーマン家の若い科学者は、Python を学ぶだけでなく、導関数や勾配などの複雑な数学概念の計算も学ばなければなりませんでした。
結局、オンライン Python ライブラリーで、あらかじめプログラミングされたさまざまな数値計算用モジュールを発見したことが、解決の糸口が見えないプロジェクトを打開するきっかけになりました。
「ライブラリーから手に入れたモジュールに変更を加えることで、食品特性を識別するのに有用な独自のアルゴリズムを作成できたのです」とシャヒールくん。
こうして、Excel で作りかけていたアルゴリズムと同じ処理を行うプログラムを Python で開発することに成功。つまり、粘性グラフをシミュレーションし、双線形アルゴリズムを使って粘性を計算できるようになったのです。このプログラムを利用すれば、スマート電子レンジが自動的に食品を識別し、すぐに口にできる温度と、その温度まで加熱するための時間を計算することができるようになります。

アルゴリズムとハードウェア設計が形になったところで、アシフールは、インテルの同僚たちに息子のプロジェクトのサポートを依頼しました。そうしてまもなく、シャヒールくんは、インテルのニュー・デバイス・グループと IoT グループのエンジニアのサポートを受けられることになったのです。
IoT グループのプラットフォーム・エンジニアリング・ディレクター、ジェームズ・ラッセルはこう語ります。「シャヒールくんはとても優秀な少年です。彼の理論や数学、分析の知識は十分でした。不足していたのは実践的な応用力や指導者です。そこを補うために、私たちがプロジェクトに加わることになったのです」

インテルのチームは、シャヒールくんに先進的なツールを提供。スマート電子レンジの実現に向けて、個々の問題に取り組む方法を教えました。
「彼はキャンディー・ショップで目を輝かしている子どものようでした。
シャヒール君が成功を収めたのは、自分が何を知らないかを知らなかったからです。だからこそ何にでも挑戦できたのです。目が覚める思いでした。若者がポジティブな姿勢と情熱で大きな成果を達成するのは素晴らしいことですね」とラッセル。
大きな影響力を持つ解決策の創出
エンジニアリング面のサポートを得て、アルゴリズムとプログラムを完成させたところで、シャヒールくんは Panasonic 製のサーモパイル型※赤外線アレイセンサーを購入。これは安価な低解像度センサーですが、食品に触れずに温度を検出できます。
※サーモパイルは熱エネルギーを電気エネルギーに変換する部品。
シャヒールくんは、このセンサーのデータを使って彼のアルゴリズムを実行しましたが、このアルゴリズムは、粘性は計算するものの、食品の分量や密度など、その他の変数は計算しません。
「x と y という 2 つの変数を解く一般的な代数演算であれば 2 つの方程式で十分ですが、僕が取り組んでいる問題はそれよりもはるかに複雑でした。温度という 1 つの変数だけで、複数の変数を解かなくてはならなかったからです」とシャヒールくん。

WiFi に接続された電子レンジなら、スマホアプリを介してさまざまな情報を提供してくれます。

シャヒールくんが導き出した解決策は、マイクロチップ内に仮想的な食品プロファイルを構築するというものでした。
「インテル® Edison 開発ボードを使用することで、センサーからデータを直接取得するとともに、内蔵の WiFi モジュールをクラウド・コンピューティング・デバイスとして使用し、電子レンジを作動させるための変数を計算することができます」(シャヒールくん)
こうしてプログラミングが完了したものの、電子レンジのマイクロ波が電子回路の一部を干渉してしまいます。そこで、マイクロ波の影響を受けることなく機能するように、シャヒールくんはセンサーの調整を進めています。
ハードウェア関連の調整作業抜きに、製品化に漕ぎつけることはできません。しかし、この最後のハードルについても、彼は 3 カ月以内には解決できるだろうと確信しています。
彼の挑戦は電子レンジにとどまりません。例えば、火事が起きる前に検知するテクノロジーもその 1 つですが、熱に関する問題を解決するために既存のテクノロジーをどう改良すればいいかを模索しています。
これまで彼が行ってきたすべての実験がそうであるように、シャヒールくんの根底にあるのは、世の中の役に立つものを作っていきたいという思いなのです。
「僕がやってきたプロジェクトのほとんどは、突き詰めれば普通の人に役立つ普通のアイデアにすぎません。それでも、問題の解決において大きな影響力を持っています。
アイデアこそ、すべてのスタート地点なのです」(シャヒールくん)
映像撮影:Bradley James Whalen 氏

Share This Article

Related Topics

メーカー

Read This Next

Read Full Story