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X ゲームの興奮を伝えるテクノロジーの革新

Shawn Krest Writer, Movable Media

ヘルメットカメラからデータ追跡スノーボードにいたるまで、メジャースポーツに先駆けて、実験的な最新デバイスが続々登場。X ゲームのためのテクノロジーは、魅惑的なエクストリーム・スポーツ (離れ業で速さや高さ、危険度を競う競技) の世界へとファンを引き込みます。
※X ゲームとは、世界最高峰のアクションスポーツ競技の祭典で、スケートボード、BMX、スノーボードなどの人気競技を中心に世界中のトッププロが集結する。

X ゲーム 2016 アスペンが 1 月末に開幕。アクションスポーツのファンたちは、ESPN (スポーツを専門とした米国のテレビ局) と ABC にチャンネルを合わせて世界のトップアスリートたちを追いかけています。1995 年以来、ESPN は、X ゲームを試験場として、最先端のテクノロジーのテストを積み重ねてきました。

こうした実験のおかげで、ESPN はイベントの様子や音声、統計データを革新的な方法で特集できるようにもなりました。数カ月後には、フットボール、バスケットボール、自動車レースなど、よりメジャーなスポーツのファンも、アスペンのスロープで最終調整を終えたテクノロジーの恩恵を受けられるでしょう。ダブル・バックサイド・ロデオからのトリプルコークを理解できなくても大丈夫です (ダブル・バックサイド・ロデオもトリプルコークもスノーボードの技の名称)。

エクストリーム・スポーツが究極のイノベーションを創出

新たなテクノロジーとエクストリーム・スポーツの相性がよいのには、いくつか理由があります。理由の 1 つは、X ゲームが 90 年代中盤にスタートした新しいイベントであり、当初から競技会のテレビ放映を見込んで短期間のうちに発展してきたという事実です。

ESPN のシニア・コーディネーティング・プロデューサー、エイミー・ローゼンフェルト氏はこう説明します。
「メジャーなスポーツは、極端に言えば試合だけで楽しむことができますが、X ゲームやアクションスポーツの世界では、何が起こるか分かりません。誰がどんなトリックを繰り出すか、選手がどのようなイノベーションを持ち込むのか、誰も予想できないのです。

私たちは選手たちの進化に追いつき、回転数や着地のときにかかる重力など、速すぎてフォローできない情報を観客に分かりやすく伝えるべく日々努力しています」

また、競技者の闘争心やファンの雰囲気も、イベントの放映手法を革新的なものにしていると言えるでしょう。ローゼンフェルト氏によると、スノーボーダーやスケートボーダーは自らをアウトサイダーと捉える傾向があります。彼らのそういった個性を活かすには、世の中の一般的な父親たちが見るようなスポーツ番組とは異なる取り組み方が必要になります。

「選手たちは常にレベルアップを図っています。そして、彼らは不可能なことはないと考えています。なぜでしょうか?それは、単純に自分には限界がないと考えているからです。彼らは自分だけのルールを作り、自分だけのやり方を定義しています。完璧な状態で試合に臨むのです。だからこそ、私たちは彼らに遅れを取らないように追いつこうとしているのです」とローゼンフェルト氏。

新しいテクノロジーとエクストリーム・スポーツの相性がよいもう 1 つの理由は、競技に臨む選手たちの姿勢よりもむしろ物流に関連しています。

「最も重要なのは、X ゲームが ESPN の知的財産であるという点です」と語るのは、ESPN でイベント事業のコーディネーティング・ディレクターを務めるポール・ディ・ピエトロ氏です。彼は 1979 年のオンエアーからネットワークに携わっている 25 人のスタッフの 1 人です。

「このイベントは私たちが所有しています。リーグやスタジアムと交渉する必要もありません。X ゲームは私たちそのものなのです。誰かに許可を求めることなく、自由にイベントを行うことができます。だからこそ、テクノロジーを自由にテストできる大きなメリットがあるのです」とピエトロ氏。

彼は、テクノロジーを惜しみなく活用することでファンは興奮し、新しい試みに取り組むために選手や開催地も喜んで ESPN を受け入れてくれていると言います。

「アスリートたちは常に私たちをサポートしてくれます」とローゼンフェルト氏が語るように、選手たちは数年前からヘルメットカメラを装着し、服のポケットに携帯機器を縫い付けています。「彼らから質問はほとんどありません。あるとすれば、『いつスタートできる?』ということだけです」

エクストリームからメインストリームへ

X ゲームのためのテクノロジー機器が成功を収めると、すぐに伝統的なスポーツにもそのイノベーションが導入されます。

前回の X ゲームのイベントでは、スロープやビッグエアー・ジャンプで、ヘルメットカメラやケーブルを搭載したスカイカメラがデビューしました。今やこれらのテクノロジーは、MLB からスーパーボウルまで、主流なスポーツイベントのほとんどで導入されています。

オリンピック放送では、ライブイベント中に 1 位の選手や世界記録ペースなどのデータ要素を生成したり、2 人のスキーヤーの飛距離を捉えた映像を多重形式で同時に流したりする必要があります。こうしたイノベーションの多くは、エクストリーム・スポーツから派生したものです。

「ESPN のほかの部署から来たスタッフは、イベントを観ると『ワオ! ものすごくカッコいいね』と言います。歓声を上げないスタッフはいませんね」と語るローゼンフェルト氏は、今年の X ゲームのデータ追跡テクノロジーをサッカーの試合とインディー・カー・レースに使用することを検討しています。

「イベントを観たスタッフたちは、『ねえ、あのスノーボード・パイクで使っていたシステムを、フットボールでもぜひ使ってみたいんだけど』とか、『バスケットボールの試合でも使えそう!』などと突然言い出します」

放送に携わる人々の究極の目標は観客をイベントに釘付けにすることだと言うローゼンフェルト氏は、さらにこう続けます。

「私たちは、新しくて興味深いデータポイントやカメラアングル、ビジュアルを視聴者に届けることに全力を注いでいます。視聴者は、25 年前よりはるかに早いペースで飽きてしまいますからね」

とはいえ、平均的な視聴者にとって、一部のイノベーションは、新しいアングルや 3D テクノロジーほどアピールしません。 そこで、X ゲームの開催地では、スパイダーカムのような、より動きの速い機器が必要になります。スパイダーカムとは、4 輪カートに固定したカメラで、これがあれば、従来設置が必要とされた足場の多くが不要になります。

また、TV スタジオを X ゲームのイベント会場に建設することは現実的でないため、新しいリモートビデオの転送手段も開発しなければなりません。

「すべての機材を持ち込むことはできません。つまり、カメラフィードをブリストル (コネチカット州にある ESPN の本社) に転送して、制作作業を行う必要があるのです」とディ・ピエトロ氏このテクノロジーは最終的にリモート・インテグレーションまたは REMI (最新テクノロジー搭載の目覚まし時計) として知られるようになり、今ではスポーツ放送の主流になっています。

また、X ゲームのテクノロジー・クルーたちも、コンタクトマイク Xducer を開発。 従来のマイクのように空気中の音波を拾うのではなく、会場や会場の近くに設置された固体を通過する振動を拾うマイクです。

例えば、オリンピックの放送を見ているとき、ジャンプしたフィギュアスケーターのブレードが、着地時に氷の破片を舞い上がらせる冴え冴えとした音に気付いた方もいるでしょう。実は、数日前から氷の下に埋め込まれていた Xducer がその音を拾っていたのです。

限界に挑む

X ゲームは今年で 20 回目を迎えますが、その勢いが衰えたり、保守的な内容になったりする気配は見られません。昨年も、ESPN は 2 つの革命的なアイデアを放送に投入しました。 1 つは RF GoPro カメラで、ビッグエアー中の選手の視点を観ることです。

ESPN ではこれまでも小型高速カメラを使用していましたが、2015 年はレース後の選手の視点ではなく、レース中の選手の視点を初めて生中継したのです。

X ゲームではこれまでもそうだったように、RF GoPro もまた、イベント前に計画をしているにもかかわらず、現場での調整作業が必要になります。

「スタッフは、これまで見たこともない機器をスーツケースに詰め込んで登場し、実際に放送するまでに山の中腹で調整を重ねました。まるでジェームズ・ボンドの映画です。ブリーフケースを置いて、その場を離れるわけです」とローゼンフェルト氏は振り返ります。

RF GoPro は今年のアスペンでも使用されており、他のメジャースポーツの放送局もこのシステムを導入しようと待ち構えています。

「新しい革新的なショットをお届けすることが私たちの最終的な目標です。小型カメラの機動性は、ほかの分野にも浸透しつつあります。従来のカメラでは撮ることができなかったショットを撮影できるはずです」(ローゼンフェルト氏)

昨年導入した 2 つ目のイノベーションには、さらに細かい調整が必要な状況です。ESPN は、X ゲーム・アスペンでドローンカメラを初めてお披露目しました。スポーツイベントでドローンが撮影したショットを流すのは初めてのことです。

今年のアスペンではドローンを使用しませんが、将来的には再び導入されることになるでしょう。

ローゼンフェルト氏は、「飛行可能区域や選手・観衆への最短距離など、禁止事項や制限事項を現在詰めている段階です。「放送局は、引き続き FAA にルールの拡大を要請しています。ドローンは小型ヘリや飛行船では撮影できない革新的なショットを撮影できる手段ですからね」

インテル® テクノロジー搭載

2016 年はドローンを使用できませんが、今年大注目のイノベーションもあります。それは、2 つのスノーボード・イベント (メンズ・スノーボード・スロープスタイルとメンズ・スノーボード・ビッグ・エアー) で、インテル® Curie™ コンピュート・モジュールを選手の機器に搭載し、データフィードをリアルタイムに取得するというものです。

スノーボードに埋め込まれたチップにより、選手のジャンプの高さ、空中での回転数、着地するときの G をスクリーン上のレポートでリアルタイムに確認できます。

「こうしたデータを一部でも提供することで、多くのスポーツを次のレベルへと押し上げることができます。「私たちはさらに多くの情報を視聴者にお届けすることを検討しています。選手たちの離れ業がどれほど驚異的なのかを、あらためて実感できるはずです」とローゼンフェルト氏。

こうしたデータポイントや生体情報を利用できるようになれば、最終的に視聴者は DNA まで読み取れるようになるかもしれないとして、ローゼンフェルト氏は、

「秘密が全くなくなる日も、それほど遠くはなさそうですよ」と語っています。

 

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