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創作意欲をかき立てる VR ツール

Jason Johnson Freelance writer and editor

バーチャル・リアリティーに足を踏み入れたアーティストは、新たなモーション・トラッキング、3D、ゲーミング・テクノロジーを自由にあやつるようになるでしょう。

インターネットの普及により、デジタルアートや GIF アートから、ファン・フィクションやファンアート (ファンが既存の作品のキャラクターを用いて作る二次創作物) まで、全く新しい自己表現のカタチが生まれています。新たなバーチャル・リアリティー (VR) ツールが、プロアマ問わずクリエイターたちの創作意欲をかき立てることで、さまざまな表現手法が登場しているのです。

しかし、現在のところ、Tilt Brush ほどアーティストの可能性を引き出すツールはほかにないでしょう。Tilt Brush は、4 月に発売されたVR システム HTC Vive 向けに Google が開発した VR ペイントアプリ (HTC Vive を装着して仮想空間に線を描いていくツール) です。

「最新世代のモーション・コントローラーと入力テクノロジーを組み合わせることで、VR はアーティストの創作活動にとって、最も直感的で自然なプラットフォームになる可能性があります」と、Tilt Brush の共同開発者であるドリュー・スキルマン氏は語ります。彼はサンフランシスコのデザインスタジオ Skillman & Hackett でパートナーのパトリック・ハケット氏とともに Tilt Brush を開発し、昨年 Google に売却しました。

Tilt Brush は、モーション・トラッキング・コントローラーを流動的でダイナミックなペイントブラシに変換することで、独創的な 3D 作品を生み出します。ブラシが宙に浮かびあがり、デジタル・アーティストは、Vive のポジション・トラッキング・カメラを使って、キャンバス内を移動しながら周囲のあらゆる方向に光の筋を描くことができます。

Tilt Brush は大反響を呼び、急速に普及しつつあります。最近では、Fast Company 社が「世界初の優れた VR アプリであり、新たな可能性の扉を開く完璧なツールだ」と評価しています。スキルマン氏も同じ意見です。

クリエイティビティーが新たなクリエイティビティーを生み出す

「役者が揃ったことで、VR がついにその真価を発揮し始めたのです」と語るスキルマン氏は、Tilt Brush のアイデアが偶然生まれたことについて、運命を感じると述べています。

2012 年当初、スキルマン氏とハケット氏は Double Fine Productions 社に在籍していました。同社は、有名な「ポイント・アンド・クリック・アドベンチャー」の開発者、ティム・シェーファー氏が率いるゲーム開発会社です。

最新のゲーム機に夢中になった彼らは、「Department of Future Tech」という名称でタッグを組み、彼らが使える時間の 10% を大胆な実験につぎ込みました。その実験とは、Sixense 社のモーション・コントローラー Razer Hydra を粘着テープで額に貼り付けてモーションゲームをプレイし、プレーヤーの体勢を追跡するというものです。

スキルマン氏とハケット氏がふと思いついて VR ヘッドセットの Oculus VR を Kinect のモーションセンシング・カメラと組み合わせたとき、その結果に驚愕しました。

「5 年後や 8 年後に実際に起きることを目の当たりにした瞬間でした」と、ハケット氏は振り返ります。

未来の可能性をかいま見た彼らは、Double Fine Productions 社を辞めて新会社を設立。彼らは、VR ユーザーにバーチャルな世界への没入感をもたらすテクノロジーの開発に最も重点を置きました。

「VR ペインティングとの出会いも偶然でした。さまざまな VR を手がけ、リアルな操作感を追求する中で生まれたのです。プロトタイプをデバッグしているときに、空いたスペースに線を引いてみたところ、あっという間に夢中になりました」とスキルマン氏。

魅了されたのは、スキルマン氏とハケット氏だけではありませんでした。Tilt Brush の発表後、漫画家やアニメーターの世界に衝撃が走り、まるで魔法のようなそのコンセプトに圧倒されたのです。

ディズニー作品の「リトル・マーメイド」や「アラジン」のアニメーション制作で知られるグレン・キーン氏や、「Adult Swim」 (大人向けにアニメ作品を放映する米国のチャンネル) を手がけるクリス・プライノスキーなどもその 1 人です。多くの大物アーティストが早くも VR で膨大な数の合成作品を制作しており、Tilt Brush を使うクリエイターやアマチュアに刺激を与えています。

「こうしたアーティストと協力することで、Tilt Brush の進化とともに彼らの VR 作品の完成度が上がっていくのを見るのは感慨深いものです。さまざまな形で、私たちはクリエイティブなエネルギーを補い合っているのです」(スキルン氏)

古い環境からの脱却

「Tilt Brush によって、私たちは使い慣れた『キーボードとマウス』という古い操作環境から脱却しようと試みていますが、その変革はまだ始まったばかりです」と語るスキルマン氏は、このテクノロジーを氷山の一角だと考えています。

標準的なコンピューター機器を旧式とみなすことには違和感がありそうですが、VR は、デジタル・アーティストが今後生み出す作品に大きな影響を与えることになるだろうと、有力なテクノロジー・イノベーターは分析しています。

Linden Lab 社の CEO であり、同社が運営する世界最大の仮想空間「Second Life」のクリエイターでもあるエベ・アルトベルグ氏は、「3D グラフィックス・ソフトウェア Maya などのツールが、PC 上でモデリングや制作作業を行うために長年にわたり高度なチューニングや最適化が施されてきたことを考えれば、VR も、その真価を発揮するにはまだまだ時間がかかるでしょう」と語っています。

Second Life

Tilt Brush で素晴らしい世界を構築するには、さらなる改良が必要です。アーティスティックな特異性を論じるのはそれからでしょう。

「とはいえ、VR が非常に強力なツールであることは間違いありません。なぜなら、PC を眺めているだけでは得られない没入感とスケール感が得られるからです」と、アルトベルグ氏は補足します。

改善の余地はあるものの、早くも各企業は、新たにアーティスト指向のテクノロジーを市場に投入しています。

2016 年後半には、Linden Lab 社から、次世代の仮想空間となる「Project Sansar (開発コード名) 」が公開される予定です。このプロジェクトでは、VR 内での創作活動に重点を置いており、ユーザーが手を振るだけで家の設計を変更したり、火星の周囲に岩を置いたりできると言います。

Second Life

また、VR ビルドゲームの「Fantastic Contraption」では、プレーヤーは体から手っ取り早く必要な道具を取り出すことができます。例えば、ゲーム内で簡単な機械を組み立てる場合、肩から棒を、お尻の横から 2 つのホイールを取り出して組み合わせるといった具合です。

同様に、次世代ゲームメーキング・ツールの Unreal Engine 4 では、VR クリエイターがライトセーバー風の道具を使って世界をファッショナブルに彩ることができます。

こうしたツールは VR 内でアーティストに幅広い表現の可能性をもたらしますが、アートをイメージの世界だけに封じ込める必要はありません。アルトベルグ氏は、現実世界と仮想世界を隔てる境界を緩めることで、創作意欲にあふれる作り手たちが、デジタルの垣根を越えて作品を送り出せる環境を提案しているのです。

やがて VR の活用に目を付けたファッション・ブランドから、リアルとバーチャルの枠を越えたプロジェクトが登場するだろうと予測するアルトベルグ氏は、「VR は最終的にあらゆるモノに大きな影響を与えるでしょう」と語っています。

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