スポーツ

サーフィン業界、サーフボードのスマート化へ

Alys Francis Writer

オーストラリアで最も愛されてきたスポーツに革命が起きています。スタートアップ企業の開発したテクノロジーが、サーフィン業界を大きく変えようとしているのです。

ライアン・メッツ氏とクリス・グリーベン氏は、サーフボードの購入方法に革命を起こそうとしたわけではありません。2010 年、彼らがオンライン・サーフショップ Boardcave を立ち上げようと思いついたのは、サーフィンブログがきっかけでした。

「当時は、ボードの購入に役立つオンライン情報が全くありませんでした」とメッツ氏が語るように、ボード選びはショップに頼るしかないほど、情報はかなり不足していました。しかも、肝心のショップさえ当てにはならず、自分に合わないボードを勧められることも多かったと言います。

適切なサーフボードを選ぶには、サーファー自身の体格やスキルなど、複数の要素を考慮する必要があります。「間違ったボードを選べば、ただでさえ難しいサーフィンがもっと難しくなります。波にうまく乗れず、十分楽しめないとなると、せっかくサーフィンを始めても長続きしない可能性があります」とメッツ氏。

Boardcave founders Ryan Mets (right) and Chris Greben (1)
Boardcave 社の創業者ライアン・メッツ氏 (右) とクリス・グリーベン氏 (左)

ブログに問い合わせが殺到するようになると、メッツ氏とグリーベン氏の 2 人は仕事を辞め、1 人ひとりにぴったり合うボードを検索するためのテクノロジーの開発に乗り出しました。それが、Board Engine です。特許取得済みのこのテクノロジーは、サイト上で主要ブランドのサーフボードを検索・比較できるようにするものです。その仕組みはこうです。まずユーザーの体重や体力などの情報からプロフィールを作成。その条件に基づいてフィルタリングをかけ、ユーザーのニーズに合致するサーフボードを提案します。

メッツ氏はこのシステムについて、「ユーザーデータが蓄積されるほど、完璧なサーフボードを提案できるようになります」と説明します。

スマート・サーフボードが市場を活性化

一方、ゲーリー・エルフィック氏が設立した Disrupt Surfing 社も、テクノロジーを駆使してサーファーをサポートしています。2014 年にサービスインした同社独自のオンライン・プラットフォームを使えば、ユーザーは 3D プリント・ソフトウェアでサーフボードをデザインできます。「我々のプラットフォームでは、デザイン面を常に重視しています」とエルフィック氏。

大量生産品が大半を占めるボード業界において、自分好みにボードをデザインできるこのサービスは、サーファーたちのカスタマイズ欲を満たしてくれます。

Disrupt Surfing founder Gary Elphick (middle) and his team
スマート・サーフボードの新たなモデル開発に取り組む Disrupt Surfing 社のゲーリー・エルフィック氏 (中央) と彼のチーム。

さらに、Disrupt 社では、身長などのプロフィールだけでなく、各種データを取り込むことでボードデザインを支援しています。エルフィック氏はこう説明します。「最近、Smart Surf というサーフィン業界初の IoT (モノのインターネット) を導入しました。サーフボードからデータを取得して分析するテクノロジーです」

サーフボード内部には、水に封入されたマイクロチップが埋め込まれます。ランナーが GPS 内蔵のウェアラブルを使ってトレーニング内容を記録するのと同じように、サーファーはスマートフォンをこのチップにかざして場所を記録。

サーファーが波に乗っているときの速度やボードにかかる圧力など、さまざまなデータはスマート・サーフボードが記録してくれます。「お客様のライディング・スタイルをデータとして取得し、そのデータは次回ボードを作るときの情報として活用します」とエルフィック氏。同社では、次世代の Smart Surf も開発中です。

小規模メーカーの心をつかむ

しかし、サーファーたちがこれらのプラットフォームを歓迎する一方で、慎重な姿勢を見せる業界関係者もいました。「地元のボードメーカーを取り込むのは簡単ではありませんでした。彼らの多くは私たちをライバルだと思い込んでいたのです」と語るエルフィック氏は、

競争など望んでいませんでした。オーストラリアのサーフボード・メーカーは安価な輸入ボードの攻勢にさらされているだけでなく、金融危機の影響を受け、需要が落ち込んでいたからです。

しかも、サーフィン業界は長年にわたって激しい景気変動に悩まされており、それでも各メーカーは業界内で連携することなく、それぞれが単独で奮闘してきたのです。経験豊富なカスタムボード・メーカーが低迷期を振り返り、「工房の職人たちは出勤してもやることがなく、3 時間後には帰宅させられる状況でした」と語っています。

現在でも、業界は依然として小規模メーカーが中心を占めていますが、市場調査会社 GIA 社のグローバルレポートによると、サーフィンの世界市場は 2017 年には 132 億ドル (約 1 兆 5,800 万円) まで拡大するだろうと予測されています

小規模メーカーの多くはテクノロジーに懐疑的だと指摘するメッツ氏は、「彼らはこう言っていました。『サーフボードをオンラインで購入するなんてバカげている!』とね」と語ります。

Disrupt 社と Boardcave 社は、こうした小規模メーカーの心をつかむ必要がありました。「私たちは業界を混乱させるのではなく、業界を前進させるツールとしてのテクノロジーを開発しています。私たちはメーカーではありません。クラウドを活用して生産工程を効率化するシステムを構築しているのです」とメッツ氏。

例えば、Boardcave 社は、メーカーが納期を守るのに苦労していることに気付きました。多くのスペシャリストに外注することで、サプライチェーンが複雑化していたのが原因です。

そこで、彼らは供給プロセスを効率化するための Boardcave ソリューションを開発。さまざまなメーカーを販売店や顧客と直接つなぐことで、納品日を正確に割り出し、納期を厳守できるようにサポートしました。このソリューションでは、注文が発生すると注文タイムラインが作成され、QR コードでボードの生産工程をリアルタイムに追跡できます。

Elphick hits the beach with a custom Disrupt surfboard
Disrupt 社のカスタム・サーフボードで海に繰り出すエルフィック氏

一方、Disrupt 社の目的は、現地メーカーが大量生産品と同等の価格でカスタムボードを生産できるように支援することでした。「フルカスタム・ボードを市販品と同じ価格で、しかも地元のショップで購入できれば最高でしょう?私たちのテクノロジーがあれば、それが実現できます」とエルフィック氏。スケールメリットを活かした Disrupt 社のソリューションでは、カスタムボードのグローバルな需要を取り込み、メーカーの受注数を増やすことで、最終価格を引き下げるという考え方です。

両社の急成長ぶりは、数値にも見てとれます。Boardcave 社の生産数は四半期で 261% 増加。Disrupt 社は 2 桁の前月比成長率を見込んでいるほどです。両社は、米国、ブラジル、ヨーロッパなど、他国のサーフィン市場への参入も進めています。

また、両社のテクノロジーは、サーフィン業界に大きな影響を与え、メーカーと販売店はカスタムボードを安価に提供できるようになっています。しかし、もっと注目すべきはデータの持つ力でしょう。データは単に完璧なボードの検索と生産に役立つだけではありません。サーフィンのテクニック向上に貢献する力も秘めているのです。

 

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