テクノロジー・イノベーション

仮想現実が直面する技術の壁

Kevin Ohannessian Author, Kill Screen

ふつうのコンピューターでは仮想世界に入り込めない理由とは?

頭を動かすたびにめまいや吐き気を感じながら歩き回ることを想像してみてください。 仮想現実 (VR) の技術が登場した当初は、こんなことが当たり前でした。

VR 業界で「シミュレーション酔い」と呼ばれるこの現象は、単なる違和感であり、ヘッドセットを装着したときに、コンピューター上でソフトウェアがスムーズに動作しないことが原因です。

今年後半に高品質な VR ヘッドセットがリリース予定であることを受け、テクノロジー業界では、技術の進歩がもたらす可能性に大きな注目が集まっています。 ユーザーはゲーム上の空想世界をただ眺めるだけでなく、その中を歩き回れるようになることが期待されるからです。

さらに、この「ゲームに迷い込む」感覚から生まれた言葉「プレゼンス」 (実体感) が、ここにきて新たな話題となっています。

仮想現実ブームの再燃をリードする Oculus 社の説明によれば、プレゼンスとは「どこか新しい場所にテレポート (念力移動)できた!と確信できる感覚」であり、 快適かつ持続するプレゼンスを実現するには、しかるべき VR 機器とコンテンツに加え、システムがそろう必要があるといいます。

つまり、仮想現実の世界が真実味を帯びるようになるには、多大なコストがかかるということです。 「VR は、これまで手がけたどんなゲームよりも要求が厳しい」と Oculus 創設者のパルマー・ラッキーは語ります。 それは、Oculus が VR ヘッドセットと付属ソフトウェアの開発に数年かかったことを見ても明らかです。

しかも、VR ヘッドセット Oculus Rift を正常に動作させるには、かなり高性能なコンピューターが必要になります。 たとえば、Oculus が定める最小限のシステム要件は次のとおりです。
• NVIDIA* GTX 970 または AMD* 290 同等品以上
• インテル® Core™ i5-4590 プロセッサー同等品以上
• 8GB 以上の RAM
• HDMI* 1.3 互換ビデオ出力
• USB 3.0 ポート x 2
• Windows* 7 SP1 以降
Oculus Rift の発売が予定される 2016 年初頭にこのスペックの PC を購入するとしたら、1,000 ドル前後はするでしょう。

なぜこれほどまでに高スペックが求められるのでしょうか。その理由を理解するには、仮想現実と通常のソフトウェアの違いを知ることが重要です。 ハイビジョン対応のモニターでゲームをする場合を考えてみましょう。解像度は 1920 x 1080 ピクセルです。

仮想現実のゲームでは画面が二分割され、それぞれの映像が左右の目に飛び込んできます。2 つの画面を組み合わせた解像度は 2160 x 1200 ピクセル。 その映像は、周辺視野のほとんどを占めてしまいます。つまり、通常のゲームより仮想オブジェクトがより多く表示されることになるのです。

それだけではありません。さらにその映像は、左右の目に 1 回ずつ、合計 2 回表示される立体画像にもなっています。

VR のもう 1 つの問題は、表示がスムーズでなければならないことにあります。プレーヤーが頭を動かしたとき、画像も即座に違和感なく反応しなければなりません。

テレビ放送のフレームレートは 1 秒当たり 30 フレーム (fps)。一部のコンソール型ゲームで 60 fps 程度であるのに対し、Oculus Rift は 90 fps で動作し、仮想世界を違和感なく表現します。

「1080 ピクセルを超えるステレオ 3D 画像を 1 秒当たり 90 フレームの速さで表示し、同時に非常に広い視界を確保するとしたらどうなるでしょうか? 膨大な数の処理が次から次へと走ることになります」とラッキーは説明します。

コンピューターは、非常に高精細なグラフィックスを表示しながら、センサーで取得したユーザーの頭や体の動きのデータを分析。 ユーザーの動きに合わせて 3D オーディオを調整すると同時に、コントローラーからの入力も処理しなければなりません。

これらを実行すれば臨場感あふれるゲームが可能になるものの、コンピューターには相当な負荷がかかります。 この負荷に耐えられない PC では画像が飛んでしまい、シミュレーション酔いの原因となります。

「2D モニターでシミュレーションした映像を VR の世界に持ってくるとなると、1.4~2 倍の性能が必要になります。もちろん、ヘッドセットによっても必要な性能は大きく異なりますが…」と、インテルのビジュアル・コンピューティング・グループのコンテンツ戦略ディレクター、キム・パリスターは説明します。

やがて Oculus と 同社の VR ヘッドセット Rift にも、競合が現れるでしょう。 実際、HTC の Vive や Razer の OSVR など、一部の製品はかなり高性能です。

また、VR ヘッドセットを使用する場合は、ゲームのコンテンツも重要です。 仮想現実では、プレーヤーが身を乗り出し、できるだけ近くで見ようとすることもあるため、 至近距離で見てもリアルに見えるように、グラフィックスを向上させる必要があります。

例えば、プレーヤーが犬の毛まで見分けられるようでなければなりません。 草などの背景の表現に平面の 2D 画像を使用するような手法も、3D で拡大するとあまりに嘘っぽくなります。

したがって、開発者は手抜きをせず、仮想現実の世界を細部に至るまで丁寧に作りこまなければならないのです。

また、Oculus が公開したスペックは最小限の要件であり、さらに複雑なグラフィックスを必要とするゲームでは、PC が悲鳴をあげることになるでしょう。

しかし、悪いことばかりではありません。 コンピューターの価格は、いずれ下がるからです。

Oculus はグラフィックカード・メーカーの Nvidia や AMD と連携し、仮想現実の画像処理の改善に取り組んでいますし、

Microsoft は Windows* 10 を VR 向けに微調整し、Oculus Rift がスムーズに認識されるようにしました。 以前のバージョンでは、かなり手を加える必要があったのです。

インテルでは、GPU (画像処理を担うグラフィックス・プロセッサー) が行っていた負荷の高い作業の一部を、CPU が代行できるようにしようと研究を進めています。

「第 1 弾として発売される VR 製品群の中でも、システム要件の特徴が最もよく表れるのがグラフィック・カードでしょう。 しかし、VR はかなりハイエンドな CPU が必要な体験でもあるので、ここであまり出し惜しみすることはできないはずです」とパリスター。

VR はまだ始まったばかりです。 毎年新機種が発売される携帯電話のように、やがては 1~2 年ごとに改良モデルが登場することになるでしょう。

解像度は 4K へ、さらにその先へと進化し、やがてモーション・コントローラーが登場し、フレームレートもいずれは 90 fps を超えてくると思われます。

VR のような負荷の高い処理をこなすには、より高性能な CPU が必要になります。 PC の性能とコストの両面を改善する時間的猶予はあるものの、

これだけ高い性能を要求されるとなると、最初に発売される VR ヘッドセットはやや値の張るものになりそうです。そうなると、新製品に飛びつく人でも躊躇するでしょう。

「でもこれが現実」と語るラッキーは、価格にしり込みするような人は VR 機器の第 1 弾には手を出さないだろうと予測しています。

「VR の価格もいずれは下がります。 現在数千ドルの値札を付けているコンピューターも、数年後には特売の目玉商品として 200 ドルで販売されているでしょう。 今日ではないのが残念ですけどね」(ラッキー)。

 

* その他の社名、製品名などは、一般に各社の表示、商標または登録商標です。

 

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