サイエンス

クジラの実物大写真に見るテクノロジーの進化

高解像度のクローズアップ撮影が可能な高機能のカメラとレンズ、そして、複数の撮影データをつなげて実物大写真を出力するのに必要な高性能ハードディスク・ドライブ。これらがブライアント・オースティンの作品を支えています。

2006 年、まだ自然写真家のたまごだったオースティンは、カリフォルニア沖のザトウクジラを 600 ミリの超望遠レンズで撮影していました。

しかし、カメラ機材に大金をつぎこんだものの、自分の写真が雑誌などで見かける広告写真と大差ないように感じ、満足できずにいました。

そんな彼の人生を変えたのは、信じられないような貴重な体験と、進化したカメラ、そして卓越したデータ処理性能です。

南太平洋のトンガを旅したとき、これがクジラ写真家として最後の旅になるだろうとオースティンは考えていました。 そこへ偶然にも、シュノーケリングをしていた彼のもとに、ザトウクジラの親子が近づいてきたのです。

押しつぶされると思い、彼はとっさにカメラを下げました。 すると、彼の目の前、ほんの数センチ先を子クジラのおへそが横切っていきました。

肩を叩かれた気がして振り向くと、 今度は 5 メートル近い母クジラの胸ビレが、わずか数センチの距離にありました。 その瞬間、確かに目が合ったのです。 「お互いを観察しあったんですね」とオースティン。

このとき目にしたディテール、色合い、色彩が、その後の彼の作品の方向性を決定付けました。それが、撮影した一つひとつの写真をつなげた実物大写真です。ついに彼は真のライフワークを手に入れたのです。

数カ月間にわたる撮影

5000 万画素の中判デジタル一眼レフカメラ Hasselblad H3DII-50 と 80 ミリのポートレート・レンズを使って、超高解像度のクローズアップ写真を撮影したオースティン。 ここまで高精細な写真だからこそ、クジラと出会った感動の体験をリアルに伝えることができます。 ここが、従来の広角レンズでとらえたクジラの写真との大きな違いです。

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撮影は、数カ月間 1 つの群れのクジラたちと一緒に過ごしながら行いました。

一頭一頭と顔見知りになり、向こうから近づいてくるのを待つのです。 クジラとの距離が 2 メートル以内のときは、水面から撮影を始めます。

巨大なクジラを間近で見る体験ができたなら、誰もが「意識や知性っていったい何だろう? と、考え直すことになると思います」とオースティンは語っています。

米国カリフォルニア州モントレーにあるスタンフォード大学ホプキンス海洋研究所の海洋生物学者ジェレミー・ゴールドボーゲンは、オースティンの実物大写真は科学の発展にも大きく寄与しているとしています。

「クジラは地球上で最も大きい動物であるにもかかわらず、いまだにその生態はほとんど知られていません」とゴールドボーゲン。

「特に解明が進んでいないのが、解剖学的構造です。こうした実物大写真は、水中という困難な環境で生き抜くためにクジラが身につけた驚くべき特殊性を浮き彫りにしてくれています」

オースティンがグレートバリアリーフで出会ったドワーフ・ミンククジラの「エラ」は、5 日間にわたってボートのそばに留まり、300 枚もの写真を撮らせてくれました。

東カリブ海では体長約 8 メートルのマッコウクジラに会いましたが、ほんの数分だけの短い出会いでした。 それでもなんとか、実物大にするのに十分な写真が撮れました。

オースティンはその後2 年をかけて、コンピューターで写真の画像処理を行いました。撮影した写真を何枚もつなぎ合わせ、1 枚の写真として違和感がないように水の部分をレタッチしていったのです。

写真を取り巻く技術の進化

写真をつなぎ合わせたデジタル画像は、膨大なサイズになります。

60 GB もある Adobe* Photoshop* ファイルとなると、変更を保存するのもひと苦労です。12 基のソリッドステート・ドライブをつなげて仮想メモリーとして使用していても、20 分もかかります。

マッコウクジラの実物大写真は、約 1.8 m x 2.4 m のパーツに分けて印刷したものを、約 2.4 m x 11 m の特注アルミフレームにはめ込みました。

また、展示の際の接触に備えて、表面には樹脂コーティングを施し、紫外線保護剤を塗りました。

当時はこうした手間のかかる方法しかありませんでしたが、新しいテクノロジーによって、デジタル画像の撮影と編集は、Mac* ユーザーにとってもその他の PC ユーザーにとっても、より簡単に短時間でできるものになっています。

インテルのクライアント・コンピューティング・グループのマシュー・ヴォーンは、プロ向けのモバイル・ワークステーション Mac Pro* を使用している写真家なら、「3 基の高速 PCle* SSD ドライブを 3 つの Thunderbolt™ コントローラー (超高速データ転送を可能にする I/O テクノロジー) に接続して RAID 構成を組む方法もある」と説明します。

これで Mac* ユーザーは 3 Gbps 以上のスピードが望めます。

また、ヴォーンは HP Z820 ワークステーション・ユーザー向けの導入例も紹介しています。 同レベルの速度を持つ内部 Pcle* 接続タイプの SSD ドライブを接続すれば、PC ユーザーも同等のスピードが得られると言います。 Thunderbolt™ 3 の開発が始まったことで、さらなる進化の兆しも見えてきました。

「驚くことに、USB3 では 2 時間かかる作業が、Thunderbolt™ 2 ならわずか 10 分です。Thunderbolt™ 3 は現行の Thunderbolt™2 の 2 倍の速度になるので、PCIe* SSD にも新しい機種が登場することになるでしょう」とヴォーン。

最近アラスカを訪れたヴォーンは、外部 Pcle* SSD を装着した Dell のモバイル・ワークステーションで、数百もの写真データや GoPro* 動画の転送とバックアップを実施。また、Lexar* マルチベイ・カードリーダーを使うことで、複数の SD カードと CF カードのデータを同時にダウンロードすることもできました。

「すべてがスムーズに進み、5,000 個以上のファイルと 110 GB のデータを問題なくバックアップできました」(ヴォーン)。

考えさせられる写真

2009 年、オースティンはノルウェーの美術館で展示会を開催。ノルウェーは商業捕鯨が法律で認められている国であり、反感を買うことも覚悟するようにと周囲から言われました。

ある報道番組は、ドラマティックな展開を狙おうと、展示会場に元捕鯨者の一団を連れてきました。 しかし、彼らの期待に反して、展示会場に広がったのは静寂でした。

元捕鯨者の中には感動して涙ぐむ人もいました。 「たぶん私のことを頭がおかしいやつだと思ったでしょうね。みんな、何だこれは、信じられない! という様子でした」とオースティン。

現在、オースティンは次のプロジェクトの準備を進めています。今度は、カリフォルニア沖のシロナガスクジラを撮影し、実物大写真と全身のモザイク写真を作ろうという計画です。

シロナガスクジラは体長 30 メートル、体重 200 トン。当然、オースティン自身が海に入って撮影するのは不可能です。 代わりに、1 列に並べたデジタルカメラを水中に下ろして、

カメラの前を横切っていくクジラを、スキャナーのように撮影することになります。 実物大写真の完成サイズは約 3.7 m x 27.4 m になる予定です。

「私がやらなければ、永遠に実現しないでしょう。かれこれ 12 年以上こうした写真を発表してきましたが、同じことをやろうとした人は一人もいませんでしたからね」(オースティン)

 

 

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