エンターテインメント

進化したストップモーション・アニメ、再び隆盛の時代へ

Zach Budgor Writer

目覚ましい勢いで進化する 3Dプリントと CG テクノロジーおかげで、アニメーターにとって新たな表現の可能性が広がりつつあります。

小舟に乗って嵐の海に翻弄される不安げな女性。風にあおられた黒髪が彼女の顔を打ち、土砂降りの雨で着物はずぶ濡れ。それでも、彼女の手は三味線をしっかりとつかんでいます。彼女の小舟に迫る巨大な波に、自然の驚異に対する人間の小ささ、無力さを思い知らされます。ここで女性が三味線をかき鳴らします。すると、魔法のように波が割れて事なきを得ます。

これは、アニメーション・スタジオの Laika 社が制作したストップモーション・アニメ作品「Kubo and the Two Strings(クボーと 2 本の弦)」のオープニング・シーンです。8 月に公開されたこの映画は、3D プリントによる人形制作と CG を組み合わせることで、観客を現実離れしたファンタジーの世界にいざなう大作です。

「Kubo and the Two Strings」に登場する主人公の少年 Kubo は、亡き父が着ていた魔法のよろいを探す旅に出ます。このよろい以外に過去の執念深い亡霊を倒すことができる武器は存在しません。最先端のテクノロジーと 120 年の歴史を持つストップモーション・アニメの制作テクニックを融合させた Laika 社の手腕が光るこの作品は、ディテールに徹底的にこだわった映像が、ストーリーをよりリアルなものにしています。

オレゴン州ヒルズボロを拠点とする Laika 社の社長兼 CEO、トラビス・ナイト氏はこう語っています。

「この 10 年で学んだのは、私たちは映画製作者でありながらエンジニアであり、都市計画者であり、電気技師であり、冒険家でもあるということです。私たちは情熱あふれるアーティスト集団であり、ディテールへのこだわりが壮大なストーリーテリングを可能にすると信じています」

Laika 社は、その芸術性とメーカー・ムーブメントへの取り組みが高く評価され、アカデミー長編アニメ賞「Best Animated Feature Film Oscar」に 3 回連続でノミネートされています。1 回目は 2009 年の「コララインとボタンの魔女」、2 回目は 2012 年の「パラノーマン ブライス・ホローの謎」、3 回目は 2014 年の「ボックストロール」です。

過去にアカデミー賞を受賞したストップモーション作品は、2005 年の「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」のみですが、「Kubo and the Two Strings」は 2017 年の長編アニメ作品賞の有力候補と目されています。

ストップモーションの制作現場では、人形やパペット、オブジェクトなどを少しずつ動かしながら、1 フレームずつ撮影していきます。こうして撮影した膨大な数の写真を順番につなぎ合わせることで、実際に動いているような映像になるのです。この撮影技法が発明されたのは 1800 年代後半です。その後、ストップモーション・アニメはデジタル・コンピューター・アニメに進化しましたが、基本的な手法はほとんど変わっていません。

Laika 社は、数々のデジタル・テクノロジーを導入し、最新のストップモーション作品を生み出しています。例えば、デジタル合成テクノロジーは、実際の映像と CG 要素を組み合わせるのに大いに貢献しています。群衆のシーンは、完全にデジタル処理された水と空のエフェクトと、実世界のモデルをスキャンしてコンピューターで生成したエキストラで構成されます。

プラスチックや粘土で手作りしていたパペットも、3D モデリングと 3D プリンターを使って製作できるようになりました。また、CG 制作のコストダウンが進み、物理的なセットのデザインをグラフィックで容易に補整できるようになっています。

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CalArts 社キャラクター・アニメーション・プログラム担当ディレクターのマイヤ・バーネット氏は、CG と 3D プリントがストップモーション・アニメの救世主になったとして、こう説明します。

「この 2 つのテクノロジーによって、よりクリエイティブな小道具やセットを使えるようになっただけでなく、キャラクターやオブジェクトをアニメーションとしてより緻密に動かせるようになりました。

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Laika 社などの制作スタジオも、ストップモーションの手作り感を保ちながら、Disney、Pixar、DreamWorks などの大作アニメと“真っ向から勝負できる”ような作品を生み出せるようになったのです」

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ラピッド・プロトタイピング担当ディレクターのブライアン・マクリーン氏によれば、Laika 社はテクノロジーを導入し、新たなスキルを開発することで、ストップモーション制作のデジタル化を推進していると言います。

「私は、100 年あまりの歴史を持つストップモーションという芸術に 3D プリント・テクノロジーを持ち込みました」とマクリーン氏。彼は 2009 年に「Coraline」の制作を支援するために Laika 社に参画。表情のアニメーションに 3D プリントを使用するという画期的な取り組みを推進した技術者です。ただし、スタッフ全員が直ちにデジタル時代に移行したわけではありません。

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新しいテクノロジーはアニメーターやパペット制作者に不安も抱かせました。CG の登場によって、2000 年代初めに多くの職が失われたからです。マクリーン氏は、3D プリントが彼らの職を奪うような恐るべき存在ではないことを根気よく説明。それどころか、3D プリントには、ストップモーションをデジタル時代に適合させ、ストーリーテリング手法を進化させるメリットがあるのです。

信頼できるテクニックと新たなテクノロジーで課題を克服

マクリーン氏が「大きな誤解だ」と指摘するのは、デジタルエフェクトがストップモーションを容易にするという迷信です。逆に、実際のオブジェクトと CG で描かれた要素を自然に融合させて一体感のある世界に落とし込む作業は、映画制作で最も難しいのです。

「現実世界でエフェクトをかけることができなかったり、望ましい効果が得られない場合は、CG に頼るしかありません。その場合も、表現するエフェクトは、あくまでも現実の世界に根ざしたものでなければならないのです」と語るマクリーン氏は、Laika 社が従来の手作業を新たなテクノロジーでどのように補整しているかを説明します。

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例えば、実世界にある水などの液体をストップモーションで撮影するのは不可能です。液体はパペットのように少しずつ動かして撮影することができないからです。そこで Laika 社のデジタル・アニメーション・チームは、不可能を可能にしようとパペット操作テクニックに着目し、良いアイデアを模索しました。それが、美術部門の素材をベースにするというアイデアです。

マクリーン氏は、「グリッド構造の上に黒いゴミ袋を被せ、フレーム単位で動かしながら実際の水に見えるように撮影しました」と説明します。

ストップモーションによるストーリーテリングの未来

近年は、1993 年の「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」や、2000 年の「チキンラン」、さらに 2015 年の「アノマリサ」など、優れたストップモーション・アニメ作品が数多く発表されています。

新たなテクノロジーによって、ストップモーションは存続が危ぶまれるどころか、さらなる隆盛の時代を迎えつつあるのです。それというのも、Amazon Web Services をはじめとするクラウド・コンピューティングの普及によって、アニメーターたちは膨大なコンピューティング・パワーを活用して作品をレンダリングできるようになったからにほかなりません。

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話題のストップモーション作品「Kubo and the Two Strings」では、かつてないほど緻密なキャラクター・デザインを実現しています。例えば、サルに似たキャラクターの雪で覆われた毛皮は Stratasys 社の新しい Connex3 プリンターによって表現されたものです。また、ムカデのようなムーンビーストは、同社としては初めて、すべてを 3D プリンターで製作したキャラクターです。

ストップモーションを未来へとつなぐ3D プリント

「Kubo and the Two Strings」以外にも最新テクノロジーを投入した作品が登場しています。「Anomalisa」の共同監督を務めたデューク・ジョンソン氏は、3D プリントが彼の繊細なストップモーション作品を実現する唯一の手法だと語っています。

「Anomalisa」は、もう 1 人の共同監督であるチャーリー・カウフマン氏の抽象劇を題材とした作品です。この抽象劇は、俳優が椅子に座ってセリフを語るだけの舞台で、その他の舞台装置は観客の想像に任せるという奇抜な演出でした。ストップモーションは必ずしもこのような作品にしっくりくる表現方法とは言えませんが、ジョンソン氏と彼のチームは果敢に挑戦したのです。

「これまで映像化されてこなかったこの舞台に、独自の工夫を加えて挑戦しようと考えたのです」とジョンソン氏は説明します。

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主人公の男性には、世界中の人々が同じ声の同じ白人のパペットに見えていましたが、ある日、全く異なる 1 人の女性に出会います。

ジョンソン氏は、俳優の「ニュアンスを伝える高度な演技力」を公平に評価した結果、必然的に 3D プリントを採用することになったと語っています。粘土などの選択肢も検討しましたが、パペットの顔を 3D プリンターで出力することで、ほとんどの表情を表現できることに気付いたのです。

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Laika 社も 3D プリンターを使用して主人公の Kubo の表情を緻密に表現しています。1 作目の「Coraline」(邦題: コララインとボタンの魔女) の主人公には 20 万個の表情を使用しましたが、Kubo には約 5,000 万個の表情を用意したといいます。

より多くの観客にアピールするストップモーション

高度な 3D プリンターはストップモーション作品に欠かせないツールになりましたが、マクリーン氏は、テクノロジーのおかげでストップモーションがアマチュアにも挑戦しやすいジャンルになったと考えています。

「もはや、目が飛び出るような価格のカメラや 3D プリンターは必要ありません」とマクリーン氏。

Morphi などの iPad アプリを利用すれば、誰でも 3D スキャン・オブジェクトをプリントできます。また、Stop-Motion Camera アプリを使用すれば、フレーム単位のアニメーションを手軽に撮影できるのです。

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「アニメーターになりたければ、リアルな生命感を表現するように心がけてください。単に動かすだけでなく、個性を持たせてください。キャラクターを創り出すのです」とマクリーン氏は語りかけます。

ストップモーションの制作には時間がかかり、集中力と情熱も要求されます。忍耐力と発想力も必要です。マクリーン氏は、Laika 社のアニメーターが週 40 時間作業を続けても、素晴らしい映像としてできあがるのは、わずか 4 秒間の長さに過ぎないと説明。

コンピューティング・テクノロジーの進化により、3D プリント、CG、クラウド・レンダリングなどのツールは急速に低価格化が進み、より多くの人が利用できるようになりました。機能も大幅に向上しています。こうしたツールや今後の新たな展開により、100 年あまりの歴史を持つストップモーション分野では、先駆者たちには想像すらできなかった目覚ましい発展が期待されています。

 

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