サイエンス

生物科学×テクノロジーでイノベーション創出を狙う

Jason Lopez Writer

カリフォルニア大学サンディエゴ校で生物学と工学を専攻する学生らのグループが、最新テクノロジーを利用してイノベーションの波に乗ろうとしています。

将来の医学者とコンピューター・エンジニアの卵たちで構成される科学研究者のグループと、彼らを精力的に指導する生物工学の教授は、テクノロジーが未来に与えるインパクトについて、ああでもないこうでもないと議論を繰り返すのではなく、立ち位置を明確にしています。

学問的、文化的に多様なバックグラウンドを持つ彼らは、最新テクノロジーを利用して、生物科学や健康科学の分野で新たなイノベーションを見つけようとしているのです。

彼らを指導するのは、カリフォルニア大学サンディエゴ校ジェイコブズ・スクール・オブ・エンジニアリングの生物工学科教授、トッド・コールマン博士です。
「私たちは非常に薄くて柔軟性のあるセンサーを開発しました。このセンサーを体に貼り付けると、体とのインターフェイスの役割を果たしてくれます。これはさまざまな臨床応用 (実際の診療での利用) が考えられます。例えば、赤ちゃんや脳損傷患者のモニタリング、脳の電気的なリズムの測定などです。医者や親はより良い治療やケアを行えるようになるでしょう」とコールマン博士は語り、

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さらにこう続けます。「これらのテクノロジーは、ハイリスク妊娠婦のリモート・モニタリングなどにも使用できます。発展途上国では助産師が出産を手伝うケースが多く見られますが、助産師が千マイル離れた場所にいる医師と通信しながら遠隔医療を行うことも可能です」

コールマン博士の神経相互作用ラボで学ぶ学生は、例えて言うなら、非常に高速で高精度な飛行機を製造しながら、その飛行機で空を飛んでいるようなものです。

つまりコールマン博士は、基礎としての科学の知識と実験を組み合わせた指導を行いつつ、その過程で生物工学の限界に挑戦しているのです。その様子を、「これはまるで SF の世界です。とんでもなくクレイジーで斬新なことに取り組んでいるのです」とコールマン博士は語っています。

トッド・コールマン博士。カリフォルニア大学サンディエゴ校ジェイコブズ・スクール・オブ・エンジニアリングの生物工学科教授。頭にバイオセンシング・デバイスを乗せている。

コールマン博士は、医学のイノベーションは最新テクノロジーの利用から生まれると考えており、体験学習を通じて、学生たちは壮大なアイデアをカタチにする大きなチャンスを得ています。

「インテル® Galileo ボードや、ほかの企業に寄付していただいた機器を使って、学生たちにエンジニアの思考回路を体験させるためのフレームワークを作っています。その一方で、彼らは数学や物理学の授業も受けています。熱意のある人たちが集まると、数学や物理学に追いつき追い越そうとする彼らの意欲も高まります」とコールマン博士。

『The Evolution of Everything: How New Ideas Emerge』の著者であるマット・リドレー氏は、「科学的視点からの深い洞察は、“テクノロジーの変化”という木から落ちてくる果実である」と表現しています。

また、ウォール・ストリート・ジャーナルに今月掲載された記事「The Myth of Basic Science (基礎科学の神話)」では、「技術的なブレークスルーの大半は、仮説を追いかける研究者でなく、テクノロジーをいじり回す技術者によって生み出されている」と指摘。

こうした技術者は、テクノロジーのイノベーションに関してより多くの称賛に値すると彼は考えています。

さらにリドレー氏は、最近の Twitter でこうつぶやいています。「基礎研究はテクノロジーの母であるという考え方は捨てたほうがいい。 むしろ、基礎研究はテクノロジーの娘である場合が多いのだ」

これは、コールマン博士の学生たちが採用しているアプローチでもあります。彼らは科学と最新テクノロジーを融合させ、健康科学を次の段階へと進めようとしているのです。

「ハードウェアの授業をカリキュラムに含め、産業界と連携する方法を確立するのが目標です。これにより産業界は、将来の労働者である子供たちへの教育に関与できるようになります」と語るのは、コールマン博士のラボで働くスーダン生まれの博士候補生、アムル・ハジ・オマー氏です。

カリフォルニア大学サンディエゴ校生物工学科の博士課程の学生であるマイケル・バジェマ氏と、博士候補生のアムル・ハジ・オマー氏。プロトタイピング用開発ボードのインテル® Galileo ボードで動作するセンサーデバイスを開発中。

ハジ・オマー氏は、インテル® Galileo ボードを使用してセンサーを IoT (モノのインターネット) に無線接続するプロジェクトについて指導しています。

「現在、工学科のカリキュラムは全般的に非常に柔軟性を欠いたものになっており、テクノロジーがあるべき方向へ進んでいるとは言えません。私たちはこうしたギャップを埋める必要があります」とオマー氏。

2011 年にカリフォルニア大学サンディエゴ校に赴任したコールマン博士に与えられた使命は、医学分野の研究とコンピューター・サイエンスを結びつけ、無意識のうちに人体機能を測定するための生物科学テクノロジーを開発することでした。

以来、彼の学生たちは生体からデータを収集するためのコンピューター・アルゴリズムと手法を開発してきました。こうしたデータを活用することによって、機械的な動作を生じさせたり、健康を促進するための警告やアドバイスを発信することができます。

大学院生のビビアン・ファン氏。彼女は、博士研究員のフィル・キリアカキス氏とともにコールマン博士の生物工学ラボで働いている。

コールマン博士のもとで働く博士研究員のフィル・キリアカキス氏によると、まだ始まったばかりのプロジェクトが多い中でも、いくつかのプロジェクトはかなり進んでいるようです。

光を利用して、生きた細胞内の変化を誘発するプロジェクトに取り組むキリアカキス氏は、「いま一番進んでいるのは、光によって遺伝子をコントロールするプロジェクトです。これは、培養細胞で非常にうまくいっています。

将来的には、脳やほかの組織の非常に小さな領域で遺伝子をコントロールできるようになるでしょう」と説明します。

コールマン博士の指導のもと、キリアカキス氏をはじめとする学生たちは、医学と電子工学が交差する領域で研究を行っています。

コールマン博士はミシガン大学で電子工学を学び、クラス最高の成績で卒業。その後マサチューセッツ工科大学で博士号を取得しました。しかし、彼の電子工学者としてのキャリアは、予想もしなかったような道をたどることになります。博士号取得後の研究について、指導教官が今までと全く違う医学に従事するように勧めたのです。

「私にとっては、このアドバイスが重要な転機となりました。

おかげで、現在私が関わっている工学と神経科学が交差する領域に進むことができたのです」と、彼はポッドキャストで語っています。

コールマン博士は、コンピューター・テクノロジーと生物学を結びつけることで、学生たちが生体から情報を取得するための有用な方法を発見できるように指導しています。こうした研究は、新しい診断方法の発見や既存の診断方法の改善、あるいは病気の新しい治療方法の発見につながる可能性があります。彼のラボでは臨床医師と共同でこうした研究を行い、デバイスのプロトタイプ開発に取り組んでいます。

コールマン博士は、学生たちがプロトタイピングに使用しているインテル® Galileo ボードについて、「インテルから提供されたハードウェアのおかげで、開発作業が迅速に行えます。

これは学生にとって非常に有益なツールです。人体や環境を測定し、測定結果をコンピューターで処理可能な電気的信号に変換し、それを伝達する手法を学ぶことができます」と評価しています。

コールマン博士のラボでは、初年度の学生であっても、一心不乱に物に触れながら作業を行うことで、問題解決を行うエンジニアとは何であるかを学んでいます。

「当ラボには、脳とコンピューターのインターフェイスに取り組んでいる研究者がいます。とても興味深い研究であり、高校生や大学の学部生を惹き付ける機会となっています」(コールマン博士)

コールマン博士は、学生たちに実世界の科学をできるだけ多く学ばせています。 コールマン博士とインテルのアカデミック・プログラムのディレクターを務めるマイケル・スミス博士のパートナーシップは、こうしたビジョンの一環です。

スミス博士について、「カーネギーメロン大学でコンピューター・サイエンスの博士号を取得した彼は、視覚処理を専門としています。彼とこの分野で話し合い、研究に関してアイデアをもらうことがありますが、非常に有益です」とコールマン博士。

また、学生たちは限界などないと信じており、先ほどのたとえ話に出てきた飛行機はやっと離陸したばかりであるとして、

「研究の初期段階で、医学、健康、社会などのさまざまな分野とのつながりを作ることで、より多くの興味がかき立てられます。これは、学生たちが今後続けていく研究にもプラスになると考えます」と語っています。

壮大なアイデアが実現するとき、それらは大きなブレークスルーではなく、どちらかと言えば漸進的かつ必然的な歩みのように見えることがあります。リドレー氏は、こうしたイノベーションへの歩みは、ブレークスルーを可能にするテクノロジーの普及後に発生するとしています。

つまり、世界のデジタル革命を支えるコンピューティング・テクノロジーは、あらゆる分野でイノベーションを加速させるツールでもあるということです。コールマン博士は、こうしたイノベーションは統合的なアプローチによってもたらされるとして、こう語っています。

「世界中の困難な問題の多くは、多様な学問分野からの視点を必要としています。

将来のエンジニアはさまざまなバックグラウンドを持つ人々と共同で、こうした重要かつ困難な問題を解決していくことになるでしょう」

 

この記事は、ケン・カプラン氏の協力を得て執筆しています。

 

 

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