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フランソワ・ガバール氏、海上の実験室でスマートセイリングに挑戦

新たなスポーツ・テクノロジーの登場によって、アスリートのパフォーマンスがどんどん引き上げられるとともに、装備の軽量化と効率化が進み、更新できないと思われていた記録が次々に塗り替えられています。

最新情報:ガバール氏は、2016 年 5 月 10 日に歴史ある大西洋横断レースで優勝。彼は 4,634 海里 (約 8,582 km) の航海を経て大西洋を横断し、ニューヨークに到着しました。タイムは 8 日 8 時間 54 分 39 秒。世界記録まで 25 分及ばず、惜しくも記録更新はなりませんでした。

フランス人ヨットマンのフランソワ・ガバール氏が乗る全長 100 フィート (約 30.48 m) の「Ultime」級トリマラン (三胴船とも呼ばれる) は、フランスの保険グループ MACIF がスポンサードする世界最速のレーシングヨットの 1 つです。18 カ月をかけて建造されたこのハイテクヨットは、10 万人時(1 人の作業員が 1 時間にこなす仕事量) もの作業を経て完成し、昨年の夏デビューを果たしました。その名前が示すように、これは「究極」の競技用ヨットです。

トリマラン MACIF 号のスキッパー (舵を握る者) 、フランソワ・ガバール氏。©Yann Riou/MACIF

性能、安全性、快適性を重視したこのヨットは、曲線的なフォイル (左右の水平翼) を装着し、水面を飛ぶように滑走します。

デビュー戦は、2015 年 11 月に開催されたトランサット・ジャック・バブル (フランスからブラジルまでを 2 人で操船するダブルハンド・ヨットレース) の「Match of Giants」でした。ガバール氏とパスカル・ビデゴリー氏が共同スキッパーとして乗船。フランスのル・アーブルからブラジルまでをわずか 12 日と 17 時間で航海し、2 位に 88 海里 (約 163 km) の大差をつけました。

ガバール氏が現在参戦している 2016年大西洋横断ヨットレースはさらに過酷です。イギリス南西部プリマスからニューヨークまで、3,500 海里 (約 6,482 km) を単独航海するレースなのです。

1960 年の第 1 回大会で優勝したサー・フランシス・チチェスター氏は、その航海に実に 40 日もかかっています。これに対し、2016 年大会の勝者は、わずか 7 日間でゴールするだろうと予想されています。

50mph (時速約 80.5 km) で滑走。写真:Jean Marie Liot / DPPI / MACIF

しかし、これほどの短時間でゴールするには、ヨットもスキッパーも物理的な限界に挑戦しなければなりません。風上に進もうとすれば、果てしなく荒れた海に行く手を阻まれ、波に翻弄され続けます。氷山を避け、氷のような霧をくぐり抜け、漁船や商船、さらにはクジラとの衝突の危険を回避する必要もあります。

こうした危険な航海を乗り切るには、特別なヨットが必要なのです。

人間と機械の融合

プリマスサウンド (イギリス国内有数の港湾都市プリマスの観光名所) に停泊しているトリマラン MACIF 号は、さながら人工頭脳を持った巨大な虫のように見えます。人間と機械が融合し、どちらが欠けても成立しないコンポーネントだと言えるでしょう。

舵を握るスキッパーがいなければ、ヨットはあてもなく海を漂い、遠く離れた岸に座礁するだけです。ガバール氏自身も、カーボンファイバー製の船体の内壁を埋め尽くすメーターやセンサー、コンピューター・ネットワークがなければ、1 人でヨットを制御することなどできないと認めています。

船内では、インテル® Core™ i7 プロセッサー搭載 PC に、2 台の IEI タッチスクリーン・パネルが接続されています。©Yann Riou/MACIF

インテルはヨットの設計段階からプロジェクトに参加しています。フランスの造船会社 Van Peteghem Lauriot-Prévost (以下、VPLP) 社とデジタル・シミュレーション・プロバイダーの Hydrocean 社は、イギリスのスウィンドンにあるインテルの HPC ラボで、インテル® Xeon® プロセッサー・ベースのコンピューティング・クラスターを使用して最も効率的な設計を模索しました。

「船体の形を決めたら、仮想の水面に浮かべます。そして、速度を変えながら試験を行い、船の状態を表すグラフからこの船体の適性を判断します。さまざまな形状の中からバランス点を見つけるのです」とガバール氏は説明します。

革新的な設計

クラスターを使用することで、全体設計と最適化プロセスを 3 週間短縮でき、チームは軽量構造を維持しつつ船体の形状を詰めていくことができました。

その革新的な設計は、広々としたコックピットにも取り入れられています。保護対策を施しつつ、ガバール氏がステアリング・ホイール、ウィンチ、トラベラーにアクセスできるようにし、その場から動かずに帆の調整作業の 95% を行えるようにしたのです。

トリマラン MACIF 号のコックピットには、2 つのステアリング・ホイールが設置されています。© Yann Riou/MACIF

船尾にある小さな船室で、スキッパーは座って食事したり、睡眠をとったりすることもできます。さらに、タッチスクリーン・モニターが搭載されており、船上に設置された装置やデッキ下にあるコンピューターが出力する豊富なデータにアクセスできます。

「船上で長い時間を過ごすわけですから、ここからすべてをコントロールできるようになっています。天候を確認したり、陸上からあらゆる情報を取得して、この先に待ち受けるすべての情報を得るのです」 (ガバール氏)

インテル® NUC とボルト

当初、船体には第 5 世代インテル® Core™ プロセッサー・ファミリーを搭載したインテル® ネクスト・ユニット・オブ・コンピューティング (インテル® NUC) が設置されていました。しかし、チームは、消費電力を抑えながらも、より高い処理能力が必要だと判断しました。

膨大な量のデータを管理し、リアルタイムの天気予報と航路の最適化を行うには、俊敏な応答性が欠かせません。そこで、第 6 世代インテル® Core™ i7 プロセッサーを搭載した 2 台のコンピューターを設置することにしました。

ガバール氏はスクリーンのタッチ操作で、天候、ナビゲーション、通信にアクセスできます。© Yann Riou/MACIF

信頼性と安全性は最優先事項です。このため、トリマラン MACIF 号のあらゆるシステムと同様に、2 台のコンピューター、2 台のモニター、複数の無線および GPS システムで全体的な冗長性を確保した上に、故障に備えて 3 台の自動操舵装置 (オートパイロット) も備えています。

さらに睡眠パターンをモニタリングするため、ガバール氏はタッチ操作のディスプレイを介してタイマーアプリも使用します。ディスプレイでは睡眠の質も確認できます。しかし、手動でのデータ入力が必要になり、睡眠時間が削られるため、このシステムはふさわしくないと彼は判断しました。

「すべてが正常かどうか確認しなければなりませんから、ときには同じ時間内に何回かに分けて短い睡眠を取るようにしています。少しうたた寝したら 1 分だけ目を覚まして、周囲にほかの船がいないか確認します。帆の状態を確認したら、また少し寝るといった具合です」

船内を移動しなければならないとき、ガバール氏はモバイル・テクノロジーを使用します。© Yann Riou/DPPI/MACIF

船内を移動する場合に備えて、インテルは Asus Transformer Book T300 Chi も用意しました。用途に応じてノートブック PC とタブレットを簡単に切り替えられる 2 in 1 デバイスです。

メインのナビゲーション・タッチスクリーンはコックピットから見えないため、ガバール氏は Transformer Book をスタンドアロン・コンピューターとして使用したり、メイン・ディスプレイと同じ画面をミラー表示して使用します。

「コンピューターを常に近くで使用できて、とても実用的です。舵を握っているときなどは、小さな画面を目の前に置いておけば現在地を確認できます」

前方の状況を予測

ヨットレースは観客にとって観戦しやすいスポーツとは言えません。レース中のテレビ報道や解説はほとんどなく、情報は非常に限られているからです。インテルとガバール氏およびトリマラン MACIF 号との協力関係が、設計やオンボードシステムに留まらない理由がここにあります。

デッキ下には、複雑なセンサー、通信モジュール、GPS、コンピューティング・システムが詰め込まれています。

インテルは、観客に船体関連の情報を提供できるように、インテル® RealSense™ 3D カメラ・テクノロジーを使用して船体の内外をスキャンし、詳細な 3D モデルを生成。この画像をオンラインアプリで閲覧できるようにすることで、観客は船体をくまなく確認し、搭載されている各種システムに関する情報を得ることができます。

オンボードセンサーで取得したすべてのデータは、インテル® Xeon® プロセッサー搭載サーバーを介して公開されるため、観客はガバール氏の旅を豊富なデータとともにフォローできます。ヨットの推進速度や現在地から、スキッパーの心拍数や睡眠パターンまで、ファンはレースの細部まで逐一確認できるのです。

360 度の 4K ビデオ

今年の後半には、船体から収集された情報が 4K 画質の 360 度コンテンツとして閲覧できるようになる予定です。このコンテンツは、ガバール氏が航海を続ける中で撮影された写真や、タイムラプス映像 (静止画を素材として作った動画)、ビデオから生成されるものです。さらにインテルは、インテル® Iris™ Pro グラフィックスによるインテル® クイック・シンク・ビデオ・テクノロジーを使用した 4K 画質の 360 度ライブコンテンツの実現も目指しています。視聴者が 43 ノット (時速約 80 km) で海上を滑走するヨットの映像を堪能できる日も近いでしょう。

さらに、まだまだ多くのイノベーションが目白押しです。トリマラン MACIF 号は、まさに海上の実験室です。新たなテクノロジーを常にテストし、進化させています。

試験的に導入している両耳通信システムで、正確な空間情報を取得できます。

例えば、新たな通信システムがすでに試験段階に入っています。これは船上での音響体験を再現する両耳音声取得システムで、チームメイトやサポートクルーが船内状況を把握できるように支援します。一方で、寒冷状況や降雨状況でもテクノロジーを操作するために、ジェスチャー・コントロールや音声認識にも取り組んでいます。

ガバール氏自身も、まだまだ改善の余地があると感じています。彼の一番の拠り所は、単独航海レースには欠かせない重要なコンポーネントである自動操舵装置です。

「現段階の自動操舵装置は、単に何が発生したかを測定し、それに応じて対処するだけです。しかし船乗りが舵を握るときは、目前に何が現れるの、どんな状況が考えられるかを予測します。つまり、感覚的な経験値があるからこそ予測できるのです」と語るカバール氏は、さらにこう続けます。

「おそらく数年以内には、自動操舵装置がボートの前方を確認しただけで、前方の風を予測できるようになるでしょう。例えば、1.6 km 先を見るだけで、『OK、10 秒後にはこういうタイプの風が吹くよ』と教えてくれるようになるかもしれません」

熟練したスキッパーにとって、最適な操船判断には 10 秒あれば十分です。ガバール氏は、「本当に必要なのは、ほんの 2~3 秒なのです。少なくとも、10 秒後の風を知ることができれば、余裕で対応できます。それが勝敗を決する貴重な情報になるのです」と語っています。

 

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