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ヘルメットの変遷に見る、安全性向上へのテクノロジーの貢献

Shawn Krest Writer, Movable Media

技術の発展のおかげで、人々はより速く走り、より遠くまで自転車に乗れるようになり、その分、ぶつかったときの衝撃も大きくなっています。そこで専門家たちは、フットボール、ホッケー、自転車、その他のスポーツで、頭部のケガにつながる事故を軽減するために、センサーを使ってデータを収集しています。

フットボール選手の体が以前より大きくなり、競技熱も高まっていることから、競技場ではこれまで以上に激しいぶつかり合いが生まれ、脳震とうや長期的な健康被害への懸念が強まっています。フットボールがどのように変化してきたかを理解していただくために、まずは次のデータをご覧ください。

1995 年のスーパーボウルで、ダラス・カウボーイズはピッツバーグ・スティーラーズに勝利しました。両チームの先発メンバーだった 10 人のオフェンス・ラインマンの半数が体重 305 ポンド (約 138 Kg) 未満で、うち 2 人は 300 ポンド (約 136 Kg) 未満でした。その 20 年後、スティーラーズカウボーイズの先発オフェンス・ラインマンの平均体重は 317 ポンド (約 144 Kg)。20 年で 10 ポンド (約 4.5 Kg) 以上も重くなっています。

体のサイズが大きくなり、トレーニングや栄養の質が向上したことによって、選手たちは何年もの間、その恩恵を受けてきました、しかし、これ以外にも、さらに速いスピードで進化してきたものがあります。それは、ヘルメットのテクノロジーです。

バージニア工科大学の教授であり、生体医工学部の部長を務めるステファン・デュマ博士は、2003 年から収集してきたフットボールでの衝突のデータについて、「どのメーカーの最新技術も、旧モデルと比較して脳震とうのリスクをかなり軽減していることが明らかになっています」と説明しています。

彼の調査結果はメーカーがより安全なヘルメットを作るために役立っており、同様の研究も、ドリルの練習やホッケー競技、自転車走行の安全性の確保に役立ってきました。続いて、プロ選手とアマチュア選手の衝突によるケガを防ぐため、テクノロジーがどのように役立ってきたかをご紹介しましょう。

フットボール界の変化

2015 年の NFL ドラフトでは、大学卒のオフェンス・ラインマンの有力候補者 25 人のうち 3 人だけが 305 ポンド (138 Kg) 未満で、300 ポンド (136 Kg) 未満の選手は 1 人もいませんでした。

ディフェンス・ラインマンも同様でした。また、1995 年のカウボーイズのディフェンス・ラインの新人の平均体重は 277 ポンド (約 126 Kg) であったのに対し、2015 年の新人の平均体重は 288 ポンド (約 131 Kg) です。

スーパーボウルの年にダラスのディフェンシブ・エンドを務め、殿堂入りを果たしたチャールズ・ヘイリー選手の体重は 252 ポンド (約 114 Kg) で、現在のパンサーズのクォーターバックであるキャム・ニュートン選手 (ヘイリー選手がもし現在もプレーしていれば、彼がタックルしていたであろう選手) より 7 ポンド (約 3 Kg) 重いだけでした。

フットボールの試合をいつもテレビ観戦しているファンなら、このように体のサイズが大きくなったことによる影響を、毎週のように見ることができるでしょう。見る者が思わず縮みあがるような衝突や、ヘルメット同士のぶつかり合いによって、選手たちはすぐに脳震とうを起こして退場する事態になっています。

頭部への衝撃の測定

NFL での脳震とうの問題は今に始まったことではありません。しかし、ある集団訴訟において、度重なる頭部のケガが原因で深刻な病状を抱える引退選手に、500 万ドルの賠償金支払いが認められてから、リーグが変わり始めたのです。幸いなことに、専門家たちはこれより前から、大学レベルで安全性の問題に焦点を当ててきました。

デュマ博士は、ブラックホークというヘリコプターのパイロットと軍部のための、衝突安全性に関する研究に従事したあと、10 年以上前にバージニア工科大学に赴任。その後、フットボール・チーム「ホーキーズ」のヘルメットに衝撃センサーを装着する許可を得た彼は、すべての練習と試合で衝突データを収集。180 万回以上もの衝突に関するデータベースを構築することができました。

「脳震とうは平均して 100 G の衝突で起きます。テレビで見かける、ケガに至るような大きな衝突のほとんどは 80 ~ 120 G の範囲です」とデュマ博士。100G とは、重力の 100 倍に相当する力です。

デュマ博士の調査は、ケガを誘発する G (重力加速度) はどこでも発生し得ることを示しています。最初に選手同士が接触した後、さらに選手の体はどこかに必ずぶつかります。

「最初の衝突があり、次に誰かの肩に衝突したり、地面にたたきつけられたり、誰かの膝にぶつかったりします。それが頭部の大きなケガにつながるのです」(デュマ博士)

著作権:ljv, クリエイティブ・コモンズ, 2.0

観客からしてみれば、主にクォーターバックや、ワイドレシーバー、ランニングバックの問題だと思うかもしれませんが、衝突はポジション特有のものではありません。例えば、毎試合ぶつかり合うオフェンス・ラインマンとディフェンス・ラインマンの衝突にかかる G はずっと小さいものの、それでも衝突時の平均的な G は重力の 20 ~ 30 倍です。

デュマ博士によれば、20 G の衝突は、激しい枕投げやサッカーでのヘディングと同程度であり、選手は毎試合、その規模の衝撃に試合中ずっと耐えなければならないのです。「試しにサッカーボールのヘディングを 1 時間くらい続けてみてください」と語る

デュマ博士の研究は、試合中延々と続くこうした衝突の影響をいかに最小限に抑えるか、という課題に光を当てています。そして、バージニア工科大学のチーム、さらには米国中のフットボール選手が、さまざまな方法でこのデータから恩恵を受けています。

「選手に装置を付けて試合と練習での頭部への衝撃を測定し、そのデータをチームドクターと共有しています。これにより、ケガの状態をチェックし、選手のパフォーマンス履歴を衝突データと関連付けて分析することができます」とデュマ博士。

このデータは、コーチが練習の実施方法を変更することで、選手の安全性を向上させるためにも役立っています。

デュマ博士はこう説明します。「オクラホマドリルに代表される一部のドリルでは、選手たちにスタートダッシュさせたあと、フルスピードでお互いにぶつかり合わせます。その練習で、試合よりもずっと激しい衝突が測定されました。コーチたちにそのデータを見せたところ、この種のドリルを廃止することが決まったのです」

しかし、この調査の最も重要な副産物は、ヘルメットの評価システムだったと言えそうです。この評価システムは、選手の頭が受ける衝撃を特定のヘルメットがいかに軽減できるかを判断するもので、効果の低いヘルメットを 1 つ星、模範的なヘルメットを 5 つ星として評価します。

最高評価のヘルメットと最低評価のヘルメットの差は歴然です。

「1 つ星のヘルメットをかぶっている選手は 150 G もの G を頭に受ける可能性がありますが、5 つ星のヘルメットに変えれば、衝撃を半分の 75 G までカットできます。これは非常に大きなインパクトです」とデュマ博士。

1 つ星から 5 つ星のヘルメットへの変更は、業界をリードするフットボール用ヘルメットメーカーの 1 つである Riddell 社が、ここ数年行ってきたことでもあります。2013 年までは、NFL およびバージニア工科大学のチームをはじめとする大学チームのほとんどの選手が Riddell 社の一番人気モデルを着用していましたが、これはデュマ博士のチームが 1 つ星の評価を付けたヘルメットでした。

以来、Riddell 社は 5 つ星のヘルメットを新しく開発。選手たちにこれに変更するよう強く推奨してきたのです。他社製を含む 1 つ星ヘルメットは市場から排除され、5 つ星ヘルメットのブランドの数は 4 倍にまで増えています。

デュマ博士の調査は、Riddell 社のフェイスマスクの改善にも役立っています。ほとんどのヘルメットのフェイスマスクは、曲がらない硬い素材で作られた格子状の保護具で、ヘルメットの本体にしっかりと固定されていました。フェイスマスクは、選手が顔に打撃を受けるのを防ぐためのものであるはずが、

デュマ博士の調査結果から、打撃の多くがフェイスマスクから受けたものであることが判明。しかも、壊れない素材であることが災いし、打撃の力の大部分が選手の頭に直接伝わっていたのです。

安全性を高めた新しいモデルでは、力を分散して選手の頭に集中しないようにするため、衝撃を受けた際に湾曲するような柔らかいフェイスマスクを採用しています。

進化し続けるヘルメット

ノースカロライナ大学 Matthew Gfeller Sport-Related Traumatic Brain Injury Research Center (マシュー・グフェラー・スポーツ関連外傷性脳損傷研究センター) のケヴィン・グスキーウィックス教授らによる研究によると、ヘルメットを変えることで選手の脳震とうの件数が 53.9% 減ったことが分かっています。

これはデュマ博士のデータが示す G の軽減率とほぼ一致しており、新しいヘルメットは期待に応えていると言えるでしょう。

グスキーウィックス教授と彼のチームは、ヘルメット・センサーを使って、高校のフットボール、ホッケー、ラクロスの衝撃データも収集。サッカーのようにヘルメットをかぶらないスポーツについては、選手の肌 (通常は耳の上) に付けられたパッチを使って衝撃データを収集しています。

かつて運動競技のトレーナーでもあったグスキーウィックス教授は、この研究をヘルメットの調査に役立てるだけでなく、脳震とうを評価するための優れたサイドラインテスト (競技場のサイドラインで行われるテスト) の開発にも活用しています。

一方、デュマ博士はほかのスポーツにも目を向けています。今年の初めに、博士のグループは初めてホッケー用ヘルメットの評価を公表しました。衝突に関してはフットボールと類似性があるにもかかわらず、頭部の衝撃に対する安全対策において、ホッケーはかなり遅れを取っています。

テストした 32 種類のヘルメットの中で 9 種類が星なし、16 種類が 1 つ星、6 種類が 2 つ星、あとの 1 種類だけが 3 つ星で、4 つ星と 5 つ星はありませんでした。

性能が低いのは主にサイズに起因するものでした。ホッケー用ヘルメットはフットボール用ヘルメットに比べてずっと小さく、頭にぴったりフィットします。また、フットボール用ヘルメットと違って調整可能であるため、衝撃を吸収して選手の頭から逃す能力を損なっているのです。

ホッケー用ヘルメットも問題山積ですが、ヘルメットの安全性に関してさらに遅れている分野があります。デュマ博士の、安全に関して将来やるべきことのリストには、ラクロス用ヘルメット、建設工事用ヘルメット、自転車用ヘルメットが含まれています。

「最もリスクが大きいのは自転車です。ほかのすべてのスポーツを足しても、自転車に乗る人たちのケガの件数には及びません」とデュマ博士は指摘します。

プロのサイクリストであり、最近のレースで準優勝したキャサリン・バーティーン氏は、このことを身を持って経験したひとりです。バーティーン氏は昨年の大半を、深刻な衝突事故によるケガの回復に費やしました。彼女の肘には、このスポーツの危険性を物語る大きな傷跡がまだ残っています。

「サイクリングには、適切なヘルメットこそが最も重要です。なぜなら、衝突によって強い衝撃を受ける可能性や、脳震とうを引き起こす可能性が高いからです。私はヘルメットなしでは絶対に自転車に乗りません」とバーティーン氏。

多くのサイクリストが、ヘルメットは役に立たないと思っており、ヘルメットの安全性に関して言えば、バーティーン氏のような意見は少数派に入るのかもしれません。脳外科医のヘンリー・マーシュ氏でさえヘルメットには懐疑的で、「頭部を保護するには脆弱すぎて、サイクリストに安全性に対する幻想を抱かせるだけだ」としています。

しかし、最近のヘルメットは、サイクリストの頭部を守ること以外の点でも、さらに多くの進化を遂げています。スマートヘルメットの「LifeBEAM」は、心拍数や、消費カロリー、その他の生体情報をモニタリングし、サイクリストが過剰に奮闘しないようにしています。また、VOLVO 社は、車がサイクリストに近づきすぎた場合に、自転車の運転者に注意を促すヘルメットを開発。サイクリストが車の死角に入ったときも注意を促してくれます。

自身のキャリアを通じて、安全性に関する変化を見てきたバーティーン氏は、

「90 年代後半に私がトライアスロンのレースに出場し始めたころは、卵型の頭をした人でなければ、ヘルメットが完璧にはフィットしませんでした。今では、頭の形にフィットするような輪郭になっています。良いヘルメットになると、まるで身に付けていないかのようです」と評価しています。

しかし、安全性について、どんな場合にも通用するような決定的な解決策などありません。やるべきことはさらにあります。「すべての頭部のケガを回避できるヘルメットを作るのは不可能でしょう。私たちが目指すのは、ケガのリスクをもっともっと減らすことです」(デュマ博士)

 

編集者より:スマートヘルメットは、Schwinns (自転車のブランド) よりもオートバイを好むライダーもサポートします。インテルのニュー・デバイス・グループは BMW と協力して、BMW Smart Motorbike と連動するスマートヘルメットを開発。ライダーは、オートバイとコミュニケーションをとり、曲がる場所について指示を受けたり、オートバイの最新の状態 (タイヤ圧、オイルの量など) に関する情報を取得することが可能です。

ショーン・クレストの記事は、CBSSports.com、ESPN.com、MLB.com、The Sporting News のほか、多数の出版物に掲載されています。著書『Baseball’s Meat Market』は Page Street Publishing より 2016 年 3 月に出版される予定です。

 

 

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