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インド神話をデジタル世代へ、「Sanjay’s Super Team」の試み

Intel Australia Writer, Intel

2015 年、アカデミー賞にノミネートされたピクサー社の短編アニメーション「Sanjay’s Super Team (日本語タイトル: ボクのスーパーチーム)」が米国で公開され、インドの文化と精神にまつわる個人的なエピソードが世界中の観客に伝えられました。この作品はインド系米国人であるサンジャイ・パテル監督の自叙伝的な色合いが濃く、監督自身の二面性を軸に物語が展開します。こうしたストーリーが、一般的に西洋優位とされるアニメーションやデジタル・ストーリーテリングの分野に登場することは非常にまれなことです。

テックメディア「The Verge」とのインタビューで、パテル監督は、「この作品を米国の人々に見てもらうことと、ピクサー社とディズニー社に普遍的な作品だと言ってもらうことが、私にとっては非常に重要だと考えていました」と語っています。

この短編映画の冒頭では、トランスフォーマーのようなスーパーヒーローのアクションフィギュアやテレビ番組に夢中になっている幼いサンジャイ少年が、父親の祈祷にしぶしぶ加わる様子が描かれています。

瞑想する振りをしているうちに、サンジャイは、やがて夢のような空想世界へと入り込みます。そして、空想の中で鬼神 (ラークシャサ) と対決。偉大なるヒンドゥー教の神々であるヴィシュヌ、ドゥルガー、ハヌマーンがサンジャイを守ってくれます。

「Sanjay’s Super Team (日本語タイトル:ボクのスーパーチーム)」(ディズニー・ピクサー提供)
「Sanjay’s Super Team (日本語タイトル:ボクのスーパーチーム)」(ディズニー・ピクサー提供)

最後に、サンジャイが空想から戻ると、父親と理解し合えるようになり、それぞれが大切にしている異なる文化を、互いに尊重できるようになります。サンジャイは、いつのまにかトランスフォーマーに似たおもちゃが祭壇に置かれていることに気が付き、ここで観客は、新旧の偶像が共存する姿を目にするのです。

「Sanjay’s Super Team」で脚光を浴びたのは、インド文化ならではの体験だけではありません。インド人クリエイターたちがデジタル・ストーリーテリングで見せた芸術的才能も注目を集めました。

例えば、善と悪とが戦う壮大な戦闘シーンでは、著名な舞踏家カトリーナ・クニラーマン氏の演出により、インドの古典舞踊であるバラタナティヤム、オディッシー、カタカリなどの舞踏スタイルが、ディズニーの世界で表現されました。

しかし「Sanjay’s Super Team」の功績は、本物のインド的体験を大衆的な西洋文化に持ち込んだことに留まりません。

「Sanjay’s Super Team (日本語タイトル:ボクのスーパーチーム)」(ディズニー・ピクサー提供)
「Sanjay’s Super Team (日本語タイトル:ボクのスーパーチーム)」(ディズニー・ピクサー提供)

この作品は、インドのストーリーテリングに新しい道を切り拓くきっかけにもなりました。ストーリーテリングをデジタル化することでテクノロジーに対応し、グローバル化しつつある最近の世代にも古来の文化的伝統を伝えることができるのです。

また、冒険もののモバイル・アクション・ゲーム「Gamaya Legends」によってインド神話に息を吹き込んだのは、ナーラーヤナン・バイディアナサン氏が創立したGamaya Inc. 社です。このゲームに登場するインドの神々には、ラーマーヤナ (古代インドの大長編叙事詩で、ヒンドゥー教の聖典の 1 つ) の神聖な言葉を復活させるという使命が与えられています。

Amar Chitra Katha 社 (インドの文化を漫画という手段を使って教えるために出版している企業) の漫画に大きな影響を受けたことに加え、「祖母が話してくれる物語はいつも、インドの民間伝承を背景とする作品を作る上で、大きなインスピレーションを与えてくれました」と語るバイディアナサン氏は、「Gamaya Legends」のおかげで、祖母から口伝えで聞いた物語を娘に受け継ぐことができると語り、さらにこう続けます。

「Gamaya Legends」(Gamaya Inc. 社提供)
「Gamaya Legends」(Gamaya Inc. 社提供)

「子供のころ、祖母からたくさんの物語を聞かせてもらい、楽しんだり、気持ちが奮い立ったりしたものです。親として自分の子供にも同じ体験をさせてあげたいと思いますが、精巧なアニメーションや魅力あるゲームに慣れた最近の子供たちを満足させることは難しくなっています」

こうした理由から、現代の子供たちが重要な文化的伝統に親しめる方法を模索したというバイディアナサン氏。「子供たちが理解できる言葉で語りかけるような作品作りを目指しています。現実と仮想世界を融合した非常に魅力ある表現で、それを実現したいですね」と語るように、「Gamaya Legends」では、「Sanjay’s Super Team」の趣やキャラクターの関係を踏襲すると同時に、子供たちは伝説の世界を探検しながら、現実世界のおもちゃに息を吹き込むことができるようになっています。

「Gamaya Legends」(Gamaya Inc. 社提供)
「Gamaya Legends」(Gamaya Inc. 社提供)

フィギュアと組み合わせて楽しめるアクションゲーム「スカイランダーズ」や、ゲームとつながる任天堂社のフィギュア「アミーボ」で広がったスマート玩具の流行に続く「Gamaya Legends」では、お気に入りの神話ヒーローのフィギュアを購入できます。インターネットに接続したフィギュアを指定のトイ・ステーションに置くと、ゲームの中でそのキャラクターが突然動き出す仕組みです。

「子供たちは、自分が持っている現実世界のおもちゃに息が吹き込まれ、かっこいいアクションゲームを体験しながら、本物の壮大な伝説の一部を知ることになるわけです」とバイディアナサン氏。

また、人気の高い西洋的なテーマと美意識をインドの古典的な民間伝承と調和させたこのゲームは、世界中のポップカルチャー世代をも惹き付けています。ゲームの中でラーマーヤナが表示される際の美術表現も、かつてオンラインゲーム「World of Warcraft」を担当したコンセプト・アーティストによるものです。

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「Gamaya Legends」(Gamaya Inc. 社提供)

同じくインドの伝承を背景とする 2014 年リリースのロール・プレイング・ゲーム (RPG) 「Unrest」のクリエイター、アルヴィンド・ヤーダヴ氏は、自身のインド人としてのアイデンティティーと、幼少時に影響を受けた西洋的なゲームや文化を調和させることの重要性を強調しています。

米国の古いゲーム作品「Baldur’s Gate」や「Pillars of Eternity」などからインスピレーションを受けつつ、インドのキャラクターを自身の RPG に登場させようと試みてきたヤーダヴ氏。その結果として生まれたのが「Unrest」です。これは、インド神話と、RPG に見られる典型的な戦闘システム、ドラマ「Game of Thrones (日本語タイトル: ゲーム・オブ・スローンズ)」で繰り広げられる政治的陰謀の要素を兼ね備えたゲームです。

さらにヤーダヴ氏は、「Unrest」のキャラクター間で起こる政治的対立と政治的操作に社会的な側面も加えたとして、こう説明しています。

「キャラクターたちは、自分が属するカーストによって行動を著しく制限されます。自分で自由にカーストを選ぶことはできません。ゲームが始まると、自分のキャラクターについての短い説明があります。プレーヤーに与えられたキャラクターは、プレーヤーが受け入れるべき運命なのです」

インド文化とストーリーテリングのテジタル化の未来は、まだ発展の兆しを見せ始めたに過ぎません。インドにおけるインターネットの普及がますます進む中、若い世代は、インド独自の文化と、西洋優位とされるハイテクな空間とを融合する方法について、学ぶ必要があります。

つまり、豊かで複雑な文化的背景を持つ現代のインド人のアイデンティティーと、大衆へのアピール力の強いビデオゲームやアニメーション映画とを融合することにより、インドのデジタル・ストーリーテリングは、古い障壁を打ち破り、新たな領域への扉を開くことができるのです。

「Unrest」Pyrodactyl Games 社提供
「Unrest」Pyrodactyl Games 社提供

これは、インドの文化を維持する一方で、伝統的な社会規範、問題、思い込みに挑戦することを意味します。

願わくは「Sanjay’s Super Team」のような英雄物語が、いち早くノーカットの長編映画として登場し、世界中の人々がインドの多彩な文化に触れ、称賛を贈る日が来ますように。

 

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