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自転車で世界の都市問題に挑む「FUKUSHIMA Wheel」

Intel Japan Writer

「 reinventing the wheel (車輪の再発明)」

この言葉は既に存在するものを再び一から作ることを意味し、「時間と労力のムダ」を皮肉るたとえとして使われます。一方で、既成概念を覆す革新的な発明という意味合いで使われることもあります。その「車輪を再発明」するプロジェクトをまさに現在進行中の企業が福島県会津若松市の Eyes, JAPAN (アイズ ジャパン)。福島からプロダクト・イノベーションに挑むこのベンチャー企業の取り組みを紹介します。

自転車を新たな社会インフラに

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Eyes, JAPAN が進める「 FUKUSHIMA Wheel 」プロジェクトは「シェアサイクル」を社会インフラとして活用することで、サステナブルな社会を実現するというもの。自転車に付いたセンサーを通じて、放射線、窒素化合物、温度・湿度などさまざまな環境データを収集します。収集したデータはスマートフォンを介してサーバーに集約して、ビッグデータとしての活用を見込みます。また、後輪部分に取り付けられた発光ダイオード( LED )は画像や文字を車輪上に浮かび上がらせ、自転車にメディアとしての役割を持たせることで、企業の広告利用などのビジネス展開できる仕様としています。

「ちょっとした移動に便利な自転車は環境問題への意識が高い海外において、既にシェアサイクルとして普及しています。しかし、そのどれもが採算が取れず事業継続が難しい状況にあります。このシェアサイクルに FUKUSHIMA Wheel を活用すれば車輪に表示した広告収入で事業を継続することも、地域の環境データを行政に活かすこともできるわけです」と Eyes, JAPAN 代表の山寺純氏は熱く語ります。

未来を見つめ、「金継ぎ」のような再生を

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「 FUKUSHIMA Wheel 」誕生のきっかけは、あの東日本大震災でした。会津若松市は鶴ヶ城や飯盛山など、多くの史跡を有し、日本各地から修学旅行を受け入れるなど、多くの観光客で賑わっていました。しかし震災以降、原発事故の風評被害などがあり、震災直後の観光客数は前年比約 90% 減と大打撃。その後放送されたNHK大河ドラマ『八重の桜』などの集客効果も一時的でした。地方における頼みの綱の訪日外国人も「 FUKUSHIMA 」となるとさっぱり。原発事故に対するネガティブな印象もあり二の足を踏む方が多いらしく、福島全体への来訪者数は日本全体のうち、わずか 0.1% ほど。訪日外国人増加の恩恵もほとんど受けられていません。

「多くの観光客が、消えてしまった。ここで生まれ育った者として何とかしなければいけない。そんな使命のようなものを感じていたんです。これをきっかけに前よりも便利で訪れやすい街をつくる。そうした想いから『 FUKUSHIMA Wheel 』は生まれました。」と山寺氏はきっかけを振り返ります。

日本には割れてしまった陶磁器を漆で接着し、金で装飾する『金継ぎ(きんつぎ)』という装飾技術が存在します。この技術はもともと、割れた陶磁器を漆で修復するものですが、その修復技術が巧みであるがゆえ付加価値となり、元の陶磁器以上の値打ちが付きます。このプロジェクトも、元の状態以上に付加価値を加えるようなプロジェクトを目指しています。」(山寺氏)

壊れてしまったものを修復するだけでなく、より良いものへと生まれ変わらせる。「 FUKUSHIMA Wheel 」プロジェクト。こうした考え方に至るのは、漆の産地でもある会津若松ならではの着想かもしれません。日本の伝統的な工芸と、現代のイノベーションにある種の共通項が存在していることは、何よりも興味深い事実です。

会津発のイノベーションで、世界を変える

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アメリカの SXSW や Maker Faire Bay Area を始めヨーロッパやアジア各国など、国内外のイベントにおいて、大きな称賛を受けた「 FUKUSHIMA Wheel 」。現在は、同プロジェクトの啓蒙活動と、実用化に向けた実証実験が並行して進めています。ところが、山寺氏は、社会に新しいシステムを提案することの難しさを実感しています。

「『 FUKUSHIMA Wheel 』は、サステナブルな社会の在り様を提案するプロジェクト。ところが、日本では『自転車屋さん』とか『環境屋さん』みたいな既にビジネスとして存在しているくくりの中でしか受け取ってもらえません。」(山寺氏)

世界では IoT の進展で普及しつつある、『モノ+サービス』というあり方について理解してもらうことがまず難しかったのです。より良い社会が実現できるとわかっても、『今ないもの』、『新しいこと』に、まだまだ抵抗がある人が少なくない事実に直面することになりました。

その一方で、海外からの反応は極めてポジティブ。年に何回も世界各国に出向き、イベントや研究会などで実演をする中で、山寺氏はこのプロジェクトの可能性を実感しています。都市部に自動車が入れない日を設けるなど、環境問題に対して先進的な考えを持つ海外では、「 FUKUSHIMA Wheel 」が今まで抱えていた課題を解決する画期的なシステムであるとされ、多くの注目を集めています。

評価のポイントはシェアサイクルとして採算が取れるだけでなく、さまざまなデータを活用した、都市の課題解決にありました。福島における放射線量や PM2.5 のような環境関連のデータは想像に難くないでしょう。ほかにも、自転車そのものの動きに関するデータから見える道路の舗装状況や、観光客向けのシェアサイクルでスポット回遊状況を把握したりすることまでできるようになります。これらのデータを組み合わせ、活用することで、より良い街づくりに貢献していける可能性を秘めています。

「日本でも実証実験は行われていますが、シェアサイクリングに対しての理解が進む海外での注目度を使って、このシステムを世界中に広げていきたいと考えています」と山寺氏はグローバルでの展開への意気込みを語ります。

テクノロジーはもっと社会をよくすることができる

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最先端のテクノロジーで、社会をよりよい方向へと導く――。山寺氏はイノベーションこそ自分たちの存在意義であると断言します。「 FUKUSHIMA Wheel 」はあくまでその一つ。 Eyes, JAPAN ではほかにも医療や農業をテーマにした画期的なプロジェクトを進行中です。

「知人からは“何でもやるね”と冗談で言われたりしますが、手あたり次第やっているつもりはありません。インターネットの世界に初めて触れた時から、私はずっと未来だけを見てきました。テクノロジーでまだまだ社会はよくなる。見たこともない価値や、想像もできないような未来を実現することもできるはず。」として、山寺氏は話を締めました。

イノベーションへの挑戦を掲げ、ますます注目が集まる Eyes, JAPAN 。福島は会津の地から世界を変える……。彼らが再発明した光り輝く車輪が、世界中の街を彩る日はそう遠くないことでしょう。インテル「 iQ 」では、 Eyes, JAPAN が手掛ける「人工知能を使った唾液による癌の早期発見プロジェクト」を近日中にご紹介する予定です。

 

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