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眠りゆく扇風機やテレビに新たな魂を宿す 人間の感性を解き放つハーモニーを奏で上げる

Intel Japan Writer

さまざまな独創的活動で、世界中から注目を集めているアーティスト、和田 永(わだ えい)氏。旧式のオープンリール・デッキを駆使して、音楽を演奏する”Open Reel Ensemble”を筆頭に、ブラウン管テレビの電磁波を手で拾い演奏するパフォーマンス”Braun Tube Jazz Band”など、古きものと最新のテクノロジーを融合する音楽プロジェクトを数々展開してきています。”Braun Tube Jazz Band”では文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞したほか、ISSAY MIYAKE のパリ・コレクションでは 6 期連続で音楽を担当、また、スペインのバルセロナにて開催される世界屈指の音楽イベントである Sonar や Ars Electronica をはじめ世界中のイベントにも多数出演しています。

2016 年 7 月 29 日から 31 日かけて東京・二子玉川にて開催された「TOKYO ART FLOW」(主催:東京急行電鉄株式会社、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社、玉川髙島屋S・C、楽天株式会社  ほか)の会場にて展示・ワークショップとパフォーマンスの合間に和田氏にお話を伺うことができました。

旧式家電の新たな使命を見いだした瞬間

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和田氏をこれらのプロジェクトに誘ったのは、ピュアかつイノセントな好奇心。たとえば、ブラウン管テレビを楽器にしようと考えたのは、映像端子と音声端子を誤って逆に接続してしまったことがきっかけでした。既に引退の身となっていたブラウン管の画面上に現れたノイズとそれを再び音に戻す方法の発見から「音声が映像化され、映像が音声化される」ことの面白味を見出したのでした。

「ブラウン管テレビから溢れだすノイズ音に宇宙を感じたんですよね。どこか違う世界に連れて行ってくれるような不思議な魔力……。それは、自らの生まれてきた意味を失い必要とされなくなった“彼ら”の唸り声であるようにも、再び陽の目を見て上げた産声のようにも聞こえました。」

和田氏の「魔術」が覚醒した瞬間ともいえる、奇跡の出会い。今では、日常生活に存在するあらゆるものを見ていると、それが奏でる音を感じられることがあるようです。

このプロジェクトはみんなで創る「奇祭」

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このような背景をもとに、不要となった旧式のテレビや扇風機などの家電類に魂を吹き込み、数々のオリジナル楽器を創造していく。そうして生み出された楽器でユニークなパフォーマンスを繰り広げるプロジェクトが「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」です。そして、それまで和田氏が手がけてきたプロジェクトと異なるのは、「あらゆる人を巻き込みながら新たな楽器を創作・量産し、奏法を編み出すことで、徐々にオーケストラを形づくっていく」プログラムであること。自身が表現するだけにとどまらず、その輪を広げみんなで表現を生み出していく試みです。

「多くの人を巻き込み、体感してもらうことで、今までの世界がさらに広がる爆発的な何かが起きる気がしたんです。実際にさまざまなイベントやワークショップを行ったのですが、パフォーマンスに参加することで“スイッチが入る”人が多い。たとえば、演奏体験後にそこで感じたものを絵に描いてもらうのですが、参加した子どもが“宇宙を感じさせる”ような抽象画を描いたこともありますし、演奏においても一見シャイに見える飛び入りの演奏参加者が驚くような『グルーヴ』を生み出すなんてこともありました。人間の感覚に刺激を与え、新たな自分を見出せる。想像もできないようなことが当たり前に起こる。それは、まさに『奇祭』と呼ぶにふさわしいもの。それこそが、僕が思い描く『エレクトロニコス・ファンタスティコス!』の姿なのです。」

エレクトロニコス・ファンタスティコス!の活動はこちらの動画でご覧になれます。
https://www.youtube.com/channel/UCPWPFjaYcTgvrnGjAImDTOg

楽器を奏でる人の背景が音色に映り込む

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プロジェクトを進めていく中で、独創的な楽器も次々と誕生しています。胴体を叩きつつ、乾燥と丸洗いボタンでリズムを変える「洗濯機式ドラム」、ファンの後ろから光を当て、漏れ出る光の明滅を電気信号に変換することで音を出す「換気扇サイザー」と「扇風琴(せんぷうきん)」、ダイヤル式の黒電話機を電子制御してリズムを奏でる「黒電話リズムマシン」、ラジオを持って塔に近づき、電磁ノイズをキャッチしながら空間で音をミックスしていく「電輪塔」……。さらには、ボーダーシャツのボーダーをビデオカメラで読み取り、ボーダーの本数で音程が変化する「ボーダーシャツァイザー」といったものまで、どれもユニークなものばかり。

「多くの人たちのアイデアや技術によって、家電から新たに生まれ変わりを果たした楽器を演奏していくのですが、これが本当に面白い。演奏する人によって奏でる音や印象がまったく異なるんです。たとえば、『黒電話リズムマシン』。おばあちゃんが演奏するのと、僕ら世代が演奏するのとでは異なった『らしさ』が感じられる。使いこなしていたからこその技かもしれません。今の子どもの中には黒電話を電話だと認識していない子も多い。そのような子どもが使うと、僕らからすると『ありえない』使い方で演奏する。それがまた、おばあちゃんとは違った『良さ』として聞こえてくる。リズムやメロディの巧拙とかじゃない。そんな演奏が発現した場に居合わせると、言葉では言い表せない気持ちで胸がいっぱいになります。『ああ、音楽ってこうやって生まれたんじゃないかな』って」。

感性を解き放ち、イノベーションへのスイッチを入れる

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楽器として蘇った旧式家電の背景と、演奏する人の背景が重なり、時に相対することでそれぞれが独特のグルーヴとなる。和田氏の好奇心が見出した「新たな宇宙」は、「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」のプロジェクトを通じ多くの人々によって追体験されています。じわじわと広がりつつあるこのうねりは、大きな熱量となって化学反応を起こす予感すら感じさせます。このプロジェクトが継続し、テクノロジーの進化と掛け合わさることで、人間の意志を音に変換できたり、旧式家電が持つ感情を表現できるような楽器が生み出されるのかもしれません。

和田氏は言います。
「自然の謎を解明するところから様々なテクノロジーは発展して来ましたよね。テクノロジーは日々の便利な暮らしを支える一方で、人智を超えた自然にアクセスするためのメディアでもあると思うんです。そこから手繰り寄せて、再び知恵と創造性でもって捉えていくと、あらゆるテクノロジーは根っこに通っているものがどれも知的興奮を覚えるものばかりです。本来の役割を終えて眠りゆく存在となっていく『彼ら』には、マニュアルを逸脱して音楽を奏でるファンタスティコスな未来像が宿っていると思っています。
受け取り方は人それぞれですが、このプロジェクトにはそうした力があると信じています。」

あらゆる要素が混然となり、奏でられるグルーヴに本能を揺さぶられる――。
「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」は人間の感性を解き放ち、イノベーションへのスイッチを入れてくれるプロジェクトなのかもしれません。

「今後チャレンジしたいのは、『東京タワー』を電子楽器化すること。電波塔としての大きな役目は、新しいタワーに譲ったものの、首都の象徴としてこの国を見つめてきた『彼』にしか出せない音があるはず。使われていない電波帯を利用して、各家庭を巻き込んだ楽団ができたら最高ですよね。」

溢れんばかりの熱量で夢を語ってくれた和田氏。
その瞳の奥には、混沌と純粋さが入り交じる壮大な未来絵図が見えているのかもしれません。

 

トップの画像:Photo by Mao Yamamoto.

 

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