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語り継がれるサムライ物語がゲームに

Jason Johnson Freelance writer and editor

発売が迫るサムライゲーム「仁王 NIOH」の開発チーム「チームニンジャ」でディレクターを務める安田文彦氏は、このところ武士道について学んでいました。武士を活き活きと描くために、安田氏とチームニンジャの開発者たちは、歴史に残るサムライの伝承を表現することに心血を注いできたのです。

しかも、特徴的なサムライの戦い方を際立たせるために、安田氏自ら刀を手に取り、できるだけ本物に近く、かつ満足感の高い世界観を再現しています。

世界最大級のゲーム見本市として知られる E3 のために、東京からロサンゼルスを訪れた彼は、「スッパリと簡単に斬れてしまう刀の切れ味は怖いくらいですよ。なんなら今斬ってみましょうか?」と、冗談っぽく笑います。

敵を真っ二つに斬るアクションゲームはほかにも数多くありますが、「仁王 NIOH」は、ほんの一部とはいえ、日本の文化遺産の重要な部分を引き継いでいます。

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「仁王 NIOH」ゲーム画像提供: コーエーテクモ 開発チーム「チームニンジャ」

約 10 年の開発期間を経て今年後半にリリースされるこのゲームは、恐れを知らぬサムライの伝説を新世代に引き継ぐ作品です。

もともと 12 世紀のサムライの話は、盲目の琵琶法師によって記憶され、歌を通じて人々に伝えられましたが、封建時代の日本は、近代以前では最も高かったといわれるほど識字率が高く、人々はあらゆることを文字として残しました。

しかも、日本古来の和紙は丈夫で長持ちしたため、土地の所有権から戦で負傷した武士の傷を癒す治療法まで、サムライに関する多くの事実が記録され、現代に伝えられています。

「資料から、かつての武士の要素を読み取ることができます」と、プリンストン大学で東アジアとその歴史を研究しているトーマス・コンラン教授は語ります。

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「仁王 NIOH」スクリーンショット提供: コーエーテクモ 開発チーム「Team Ninja」

「仁王 NIOH」は、記録に残された日本の伝承と歴史がデジタル世界に融合した顕著な例です。ゲームでは、プレーヤーはウィリアム・アダムス (三浦 按針) になりきって行動します。ウィリアムは実在した武士であり、将軍に仕えた数少ない西洋人の 1 人です。

ウィリアムが乗った船が伊豆半島に着いたのは 400 年前のことですが、彼の探検家としての功績は多くの文献に残されています。チームニンジャのアート担当者とデザイナーは、彼の生き様を記録した膨大な量の文献をひも解くことで、現実のサムライの話からゲーム世界の物語を作りあげることに成功したのです。

安田氏は、「彼の生涯を、われわれが知る限り忠実に再現しました。最後までプレイすることで、彼の生き様を体験できるはずです」とじらすように語り、ウィリアムが自在に使いこなしていた弓、マスケット銃、刀がゲーム内の武器になっていると説明。

本格的な刀さばきを再現するため、チームニンジャのメンバーたちは、武士のたしなみである剣道を習ったと言います。ただし、怪我を防ぐため、稽古には竹刀を使いました。

しかし、「仁王 NIOH」が何よりも一番に目指すのは、楽しくて派手な大ヒット・エンターテインメントです。このことは、チームニンジャが E3 で見せたデモが物語っています。そのため、サムライの慣習に関しても、物語に合わせて設定を変更したところが数多くあります。

例えば、メイン・キャラクターは神道を信仰していますが、これも数多くの文献に記されているサムライの精霊信仰を強調したものです。ただし設定を変えるのは、ゲームデザイナーが必要と判断したときに限ります。ゲーム中のウィリアムは、日本の民間伝承に登場する鬼や妖怪などの霊的存在と戦うことになりますが、英国から来たこの海賊が小さく輝くエネルギーの球を飲み込んで、敵の魂を自分の体の中に取り込むといった表現を可能にするためです。

「私たちは、神話的かつ空想的な要素を、実在した人物の実話と組み合わせているのです」と安田氏。

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「仁王 NIOH」スクリーンショット提供: コーエーテクモ 開発チーム「Team Ninja」

このほかに、サムライの設定で現実と異なるのは「気」です。「気」はサムライのエネルギーの象徴であり、サムライの影響を強く受けるスター・ウォーズにも「フォース」として登場しています 。「仁王 NIOH」では、この「気」が、アクション・アドベンチャー・ゲームにフィットするように手直しされています。プレーヤーの「気」が低下すると、キャラクターの力が弱まり、攻撃力を失い、攻撃と防御のペースが断続的に落ちていくのです。

こういった歴史絵巻からの逸脱は「仁王 NIOH」が継承しようとする日本の文化遺産にそぐわないと感じるかもしれません。しかしこれは、現代のサムライの解釈そのものが、いかに空想の中だけで存在しているかを示しているにすぎないのです。

歴史家は、現在の多くのサムライ表現は美化されすぎていると指摘します。サムライは恐れを知らない人間であり、死を恐れるどころか、死に対して誇りを持っているという一般的なイメージも大げさだと言うのです。

「武士は戦いを好み、戦いの中で死を望んでいるわけではありません。しかし、彼らの実態とは全く違うように解釈されることがほとんどです。現実には、大半のサムライが戦を見たことさえありませんでした。

それが、平和な時代に死が美化されるようになり、時間の経過とともに、武士自身によって死が崇拝されるようになったのです」と、コンラン教授は説明します。

「仁王 NIOH」スクリーンショット提供: コーエーテクモ 開発チーム「Team Ninja」
「仁王 NIOH」スクリーンショット提供: コーエーテクモ 開発チーム「Team Ninja」

つまり、多くの人々に愛され、語り継がれているサムライ物語は、過去に対して大胆でドラマティックな神話的アプローチを行った結果だと言えます。また、そうしたファンタジー的要素が、サムライの世界を描く日本の芸術家たちにインスピレーションを与え続けているのです。「仁王 NIOH」が影響を受けたとしている黒澤明監督の有名なサムライ映画や、封建時代の日本で 17 世紀から 19 世紀にかけて人気を博した「太平記」も同様です。

中でも、1 人で敵の軍勢に立ち向かい、死=ゲームオーバー画面を意味する「仁王 NIOH」などのビデオゲームは、サムライ物語がファンタジーであることを最も分かりやすく語っている媒体かもしれません。

「生と死を分かつ境界線が、このゲームのコンセプトです。サムライは、常に生と死のはざ間を生きています」と安田氏。

これこそがストーリーの要なのでしょう。

 

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