サイエンス

ロボットの視覚をつかさどるレーザーレーダー

Julian Smith Writer

レーザーレーダーはアポロ 15 号の月面探索でも使用されたテクノロジーですが、当時より小型化し、価格も安くなりました。おかげで、研究者や製品メーカーは、3D マッピング技術をスマートデバイスに容易に搭載できるようになっています。

インターネットにつながるモノの数が増え続けています。そんな中、自律型ロボットはどうやって現実世界を観察し、障害物や人間、その他のデバイスをうまく見分けているのでしょうか。

その答えの 1 つがレーザーレーダーです。

1960 年代から利用されてきたこのリモート感知テクノロジーは、当時は平面を覆うほど多数のスキャナーを必要とし、非常に高価なものでした。

その後、価格が安くなり、野球のボールに収まるほどの大きさのものも現れました。

現在、レーザーレーダーは、測量、地質学や考古学の調査、マッピングで広く活用されています。

レーザーレーダーの動作原理は、スキャナーから発射された赤外線レーザーが物体の表面で反射する現象を利用したものです。こうして距離を測定することで、3D 画像を作成できるようになります。ロボットでは、この 3D 画像をコンピューター・システムが解釈し、ロボットがどう反応すべきかを指示します。

長きにわたり生き延びてきたテクノロジーと同様に、レーザーレーダーも進化しています。

例えば、警察は速度違反の自動車を取り締まるためにスピードガン・タイプのレーザーレーダーを使用しています。

警察が使用するハンドヘルド型スピードガン「LTI-20/20 Ultra Lyte Laser」。写真提供:デイビッド・R・トリブル氏 (Wikipedia 掲載)。

最新の小型レーザーレーダー・センサーは 8,000 ドル (約 96 万円) とまだまだ高価ですが、レーザーレーダー技術の進歩と、ロボット研究や自律機械研究の隆盛を受け、環境マッピング技術の限界を打破しようという動きが活発化しています。

物流、梱包、資材運搬用ロボットの今年の市場規模は 180 億ドル (約 2 兆 1,600 億円)。調査会社のデロイトでは、2020 年までにこの倍になると予測しています。また、こうしたロボットの多くは、すでに消費者と直接やり取りしたり、消費者の買い物を支援できるように設計されていると言います。

これらのロボットが適切に動作するためには、周囲を正しく観察しなければなりません。

「レーザーレーダー・システムは、モバイルロボットの進歩に必要不可欠なツールであり、実に素晴らしい一体型ソリューションです」と語るのは、自律型農業用ロボットを開発する Harvest Automation の CEO、チャールズ・グリネル氏です。

同社は、走るロボット「チーター」も開発しています。 この重さ 70 ポンド (約 32 kg) の 4 本足ロボットは、DARPA (米国国防高等研究計画局) が資金を提供し、マサチューセッツ工科大学で開発されており、平らなコースであれば 13 mph (時速約 21 km) の速度で自律走行できます。

レーザーレーダーのおかげで、自律的にハードルをジャンプすることも可能になっています。 レーザーレーダー・システムによって、障害物が近づいてきたことを認識し、そのサイズや距離を計算することができるのです。

ジャンプするタイミングや高さは一連のパス探索アルゴリズムによってロボットに伝えられます。ここに人間は一切関与しません。

「チーター」は、5 mph (時速約 8 km) の速度で走りながら、18 インチ ( 46 cm) の高さのハードルを越えることができます。これは、自身の体高の半分以上に相当する高さです。 トレッドミル上であれば、体高の約 4 分の 3 の障害を越えることができます。より広い空間と多くの計算時間を確保できるトラック上なら、その成功率は 90% にも達します。

一方、「Harvest Automation HV-100」は、移動しながら高い精度で植物を配置していくという、もう少し穏やかな目的を持ったロボットです。これにより、面積の限られた農地を効率的に活用すると同時に、労働コストを下げ、反復作業による労働者のケガを防ぐのが狙いです。

Harvey」のニックネームで呼ばれるこの高さ 20 インチ ( 51 cm) の自律型ロボットは、

レーザーレーダーを利用することで自分のいる場所を認識。たくさんの植物がある中で、いま運んでいる植物の配置場所を確認し、進路にある障害物を回避します。

「当社のロボットは人間と一緒に同じ場所で働いているため、衝突を避けようと常に注意を払っています」とグリネル氏。このロボットは、すでに国中の農場で活躍しています。

「モバイルロボットにとって、移動というアクションを処理し、障害物を検知することは非常に重要なことです」と語るのは、インテル® RealSense™ カメラ・テクノロジーのエバンジェリスト、エリック・マンションです。多くのノートブック PC や一体型 PC に搭載されているインテル® RealSense™ テクノロジーは、実験的なドローンやロボット向けに視覚の役割を提供しています。

マンションはこう説明します。「走り高跳びの選手の脳は、走っているときの一歩一歩の足の運びから、アプローチ、ジャンプ、バーのクリアまでをすべて処理しなければなりません。同様に、ロボットが現実世界で機能するには、あらゆる移動のタイプを処理する必要があります。

これらのアルゴリズムが効率化されるほど、ロボットはより適切に反応できるようになり、望ましい結果が得られるようになります」

iRobot 社の Butler

インテル® RealSense™ テクノロジーはレーザーレーダーよりずっと小さく、価格も手ごろであり、新しい消費者向けロボットデバイスの開発を可能にします。 その一例が iRobot 社の「Butler」です。このロボットはインテル® RealSense™ カメラを使用してホテル内を動き回ります。

レーザーレーダー・センサーは、自律型機械の新機能の開発にとどまらず、多くの自動車メーカーでも利用されています。 例えば、レーザーレーダーとほかのナビゲーション・システムを組み合わせることによって、自動運転車の走行を可能にします。

フォルクスワーゲンの青い屋根に取り付けられた回転するレーザーレーダーにより、周囲の人間に関するリアルタイムの 3D 画像を作成。提供:スティーブ・ジュルベットソン氏、Creative Commons、2.0

最近の研究によると、特製のレーザーポインターを使って、300 フィート (約 91 メートル) も離れた場所からレーザーレーダー・センサーを誤動作させられることが分かりました。

ジョナサン・ペティット氏とコーク大学のコンピューター・セキュリティー・グループは、「ハッカーがこの仕組みを利用して、車、人間、壁など、実際には存在しない物体をセンサーに感知させ、故意に自動運転車を停止させたり、回避動作を起こさせたりする可能性がある」と指摘しています。

また、「レーザーレーダーは光を利用します。この光のスペクトルには規制がかかっていないため、誰でも利用できます」とペティット氏は語り、こう補足します。

「幸い、レーザーレーダーが取得した生データから異常値を特定し、除去することによって、悪意ある攻撃を鎮静化させる方法もあります」

レーザーレーダーは、360° の視野をほとんど一瞬で測定できることから、広大な領域を素早く観測するのに最適です。地質学者、測量技師、考古学者から引っ張りだこなのは、このためです。彼らがよく行うのは、センサーを搭載した飛行機での調査です。

また、さまざまな顧客から受け取ったデータのスキャン処理を専門に行う業者もあります。

ロンドンに拠点を置く ScanLab 社は、歴史家、気候学者、法人類学者と協力して、遺跡から布地まで、あらゆる物の大規模な 3D 画像を作成しています。

また、ケンブリッジ大学の研究者らによる「北極の浮氷が気候変動によって受ける影響の計算」を支援するほか、米公共放送 PBS による D デイ (第二次世界大戦中に米・英・カナダの連合軍がフランス北西部のノルマンディー海岸に侵攻した 1944 年 6 月 6 日のこと) のドキュメンタリー番組向けに、ノルマンディー海岸の再現も行っています。

ScanLab 社のプロジェクトの中には、旧ユーゴスラビアの強制収容所のスキャンや、トラファルガー海戦でネルソン提督が着ていたコートをボタンの穴や血液のシミまで再現したスキャンなど、異常なほどのこだわりを見せているものもあります。

昨年、ScanLab 社の技術者は、ロンドンの市街地の 70 フィート (約 21 メートル) 地下に潜入し、昔のロンドン郵便鉄道の画像を記録しました。 この 23 マイル (約 37 km) の「郵便鉄道」は 2003 年に廃止され、その後はほとんど見捨てられた状態でした。合計 223 回のスキャンによって 110 億以上のデータポイントが記録され、データ量は 1 テラバイトを超えたと言います。

非営利組織の CyArk は、存続の危機にある世界中の文化遺産について、それらが失われる前に 3D モデルを作成することを目的に設立されました。 現時点で CyArk の無料のオンライン・ライブラリーには、レーサーレーダーでスキャンしたピサの斜塔、チチェン・イッツァ、イースター島のモアイ像が含まれています。

2014 年、CyArk は 5.71 平方マイル (約 14.8 平方キロメートル) におよぶニューオーリンズの歴史的中心部をスキャンし、約 5 インチ (約 13 cm) 足らずの誤差で仮想的な街並みを再現しました。 この構想は、現在の都市の姿をキャプチャーしておくことで、ハリケーンカトリーナなどの自然災害後の再建に役立てようという狙いです。

レーザーレーダーに関するプロジェクトの中には、より芸術性を重視したものもあります。 2008 年、イギリスのロックバンド「レディオヘッド」はミュージック・ビデオ「House of Cards」を制作。このビデオでは、全体にわたってレーザースキャンが使用されており、その一部には、レーザーレーダーを搭載したトラックを使ってフロリダで記録されたものもあります

 

 

 

また、イギリスで開催されるアバンドン・ノーマル・デバイシス・フェスティバル向けに、ロンドンのアーティスト集団 Marshmallow Laser Feast が制作した仮想現実 (VR) 作品「In the Eyes of the Animal」では、臨場感あふれる仮想体験を通じて野生動物の感覚を味わうことができます。

最初に彼らは、レーザーレーダー、CT スキャン、ビデオカメラを搭載したドローンを使って、イギリスの湖水地方にあるグライズデールの森の一部を記録しました。ユーザーは頭部を完全に覆うビーチボール大のセンサーユニットを装着し、その仮想的な森を体験します。

センサーユニットの内部では、VR ゴーグルと両耳のヘッドフォンによって、狐、鳥、鹿の視覚と聴覚をシミュレーションし、その動物が見ている視野や光の波長を再現します。 ウェアラブル・サブウーハー (サブウーハーは、超低音域の再生を担うスピーカー) を使用しているため、寸法は少々大きめです。

「このようにレーザーレーダーによって多くの素晴らしい可能性が広がりつつありますが、まだまだ価格がネックです。モバイルロボットを使用して商業的に有望なソリューションを開発するにあたっては、コストが大きな障壁となっています」とグリネル氏。 以前に比べるとかなり安価になってきたものの、例えば、前述した Harvest Automation HV-100 の視覚をつかさどるレーザーレーダーは、このロボットを構成する部品の中で最も高価であり、定価 3 万ドル (約 360 万円) の 20% を占めています。

要するに、レーザーレーダー技術は、安価でいたるところにある GPS の域にはまだ遠いということです。しかし、より優れたソリューションの開発に向けて、専門家たちを駆り立てる重要なプロジェクトがあちこちで進んでいるのは良い知らせでしょう。

 

巻頭の画像の説明:米国の防衛関連企業の Leidos 社は、レーザーレーダーの生データに含まれている膨大な情報を、詳細な市街地形状データに変換。分析やミッション・プランニングをサポートしています。

 

 

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