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PC バンから IEM Gyeonggi へ、韓国 e スポーツの進化

Jason Johnson Freelance writer and editor

8 年ぶりに韓国に帰ってきた Intel Extreme Masters Gyeonggi。ここに至るまでに、韓国の e スポーツ文化は実に大きな進化を遂げました。

ウィリアム・チョー氏が初めて足を踏み入れた PC バン (韓国版のインターネット・カフェ) は、文字どおり「地下組織」でした。後に有名になる韓国式のコンピューター・カフェが出始めたばかりの 1998 年当時、PC バンは怪しげな雰囲気の漂う地下室で営業されていることが多かったのです。チョー氏によると、おそらく現在の安全基準は満たしていないと思われるものでした。

チョー氏は近所にある高層ビルの薄汚れた地下室を思い返し、「PC バンに行ったことは母親には言わないでおこう、と思ったことをよく覚えています」と語ります。もうもうと立ちこめる煙草の煙をかき分けて行き、30 人くらいがいかつい CRT モニターにかじりついている姿を見ると、「PC バンに来た」という実感が湧いたものだそうです。

「『StarCraft』をプレイできるのが何よりも嬉しいことでした。地下牢のようなかび臭い部屋で行われていたことが、後に時代の大きな変化につながっていくわけです」と語るチョー氏は、12 月 16 ~ 18 日に韓国の京畿道 (キョンギド、Gyeonggi-do) で開催された Intel Extreme Masters (IEM) アジア予選をプロデュースした人物です。

1998 年にリリースされた「StarCraft」を皮切りに、韓国の e スポーツは大きく成長し、今や社会文化の一部となっています。さらに、インテルの IEM イベント・オーガナイザー、ジョージ・ウーが、「韓国は e スポーツのメッカです」と語るように、全世界で数百万ドル市場とされる e スポーツの中心地としての役割を担うまでになりました。

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ウー氏は、10 年以上にわたり IEM 開催を担当する間に、韓国 e スポーツの中心地が、ひっそりとした地下室から高陽市のスポーツ競技場へと大きく変化する様子を目の当たりにしてきました。そして、8 年ぶりに韓国にやってきた IEM アジア大会。迎え入れる韓国の観客も大きく変わりました。

「以前は e スポーツを観戦する人などいませんでしたし、大きなステージを設置することもありませんでした」とウー氏。今回の IEM で使用したステージは、韓国バスケットボール・リーグや K ポップ界の大スターに使われるステージです。

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e スポーツ大会でオリンピック級のスタジアムが満員御礼となるような国は韓国以外にもあります。例えば IEM 北アメリカ大会が開催されたオラクル・アリーナの収容人数は 2 万人です。

しかし、韓国のように e スポーツが国民的娯楽として受け入れられているような国はあまり多くありません。

「ほかの国とは違い、韓国ではコンピューター・ゲームの上手な人は周りから尊敬されます」と語るのは、韓国のテクノロジー文化を専門とするメディア研究者のダル・ヤン・ジン氏です。

例えば、リー・サン・ヒョク氏 (ハンドルネーム: フェイカー) のような一流プレーヤーは、携帯電話のカメラを手にした熱狂的なファン達に取り囲まれることも日常茶飯事です。しかもリー氏は、プロ野球の始球式にまで登場しました。アメリカでは大統領や人気歌手にしか与えられないような栄誉です。

韓国での e スポーツへの熱狂ぶりは、もともとは PC バンに通っていた人たちに見られたものです。多くの韓国人がコンピューターを個人で所有するのではなく、1 時間 1.5 ドル (約 170 円) のお金を払って共有 PC を使う道を選んでいたのです。著名な e スポーツキャスターのスージー・キム氏はこう説明します。

「韓国では PC バン文化がしっかりと根付いています。韓国人は友だちに会いたければ、まず PC バンに行きます。PC バンはだれでも気軽に行ける場所なのです。PC バンでよく見かけるのは、自分だけの時間を求める大人や、放課後のたまり場として使う学生、バスの待ち時間をつぶす人などです。ダブルデートで 2 対 2 プレイをしにやってくるカップルもいます」

韓国の PC バンは、ちょうどアメリカのスターバックスやショッピングセンターのような、若い人たちのたまり場としての役割を担っています。現代の PC バンはハードコアなゲームプレーヤーがこっそりと集まる怪しげな場所ではなく、あらゆる階層の人たちがほっと一息つける場所になっているのです。

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最近の PC バンでは、トンカツやラーメンなどの食べ物のメニューが複数の言語で書かれています。カラオケ設備のある「マルチバン」もあります。

しかし、e スポーツの人気は高いにもかかわらず、共有 PC で e スポーツを楽しむ人は減りつつあります。2010 年には約 22,000 店あった PC バンが、2013 年には約 14,000 店まで落ち込みました。原因はいろいろ考えられますが、ジン氏はモバイルゲームの台頭に加え、韓国で絶大な人気を誇るリアルタイム・ストラテジー・ゲーム「StarCraft I」の終了による影響が大きいと見ています。

とはいえ、韓国の e スポーツは相変わらず高い人気を誇っており、ジン氏によるとその中心にはトーナメント文化があるようです。

かつては、ほぼゼロだった e スポーツの観戦者数ですが、現在では、e スポーツ競技とそのプレーヤーについての情報ばかりを放映するケーブルテレビが 2 チャンネル (Ongamenet と MBC Game)、インターネット・ベースのテレビが 5 チャンネル、Web サイトが 2 つも存在するほどの人気ぶりです。

「韓国では多くのゲーマーが数多くのゲームに参加したり、テレビで観戦したり、スタジアムに足を運んで選手を応援したりして e スポーツを楽しんでいます。彼らは多くの点で有名なプロ選手のようになりたいと願っています。こうしたことが、全国的なゲーム人気を支えているのでしょう」とジン氏は語ります。

ほかの国では一人ひとりがインターネット上で個別に e スポーツを楽しむのが一般的ですが、韓国ではファンが寄り集まってコミュニティーを形成し、好みの e スポーツ選手をあたかもテレビのスターや映画スターのように熱狂的に応援します。

この 10 ~ 15 年、韓国ではデジタル・テクノロジーとポップ・カルチャーが独特の方法で融合し、さまざまなものが大きく変化しました。e スポーツはその一例に過ぎないとジン氏は指摘します。ほかの国では、テクノロジーは一人ひとりのためのものという認識が一般的ですが、韓国では、モバイルデバイスの普及をはじめとするパラダイムシフトが、人と人とを結びつける新しい手段として受け入れられます。爆発的な人気を博したアプリ「カカオトーク」もその一例です。

同様に、チーム・ストラテジー・ゲーム「League of Legends」やアクション・シューティング・ゲーム「オーバーウォッチ」のようにチームプレイができる e スポーツの人気が高まっていることで、e スポーツにおける共同作業的な側面が強くなっているようです。その証拠に、以前と違って室内が明るく禁煙となった PC バンに、人々はグループで訪れるようになっています。

「現在の韓国では、チームプレイができるゲームが主流となっています」とチョー氏。「一人ひとりが別々に過ごすよりも仲間と一緒にいるほうが楽しい。人々がそのことに気づき始めたようです」

 

※文中に記載の金額は、日本語原稿執筆時の為替レートで計算しています。

 

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