サイエンス

ある天文学者が芸術活動を続ける理由

Zach Budgor Writer

天文学の理解には創造力が役立ちます。

ルシアン・ウォルコヴィッチは、300 マイル (約 483 km) もの距離を自転車で旅しながら、人々に科学が身近でクリエイティブなものであることを伝えようとしています。

科学への理解を広げたいという熱い思いがなければ、わざわざ自転車で 300 マイルも旅する人はいないでしょう。それだけウォルコヴィッチが本気である証拠です。彼女の言葉を借りれば、目指すは「科学の民主化」です。

シカゴにあるアドラー・プラネタリウムの天文学者、ウォルコヴィッチは、1 日の半分を研究に費やし、もう半分は博物館内のフロアで「I’m an astronomer, ask me anything!」(私は天文学者です。何でも質問してください。)と書かれたプラカードを持って過ごしています。

今年の夏の初めに旅行やキャンプを楽しんでいたとき、「今ここにあのプラカードがあれば…」と思いついたというウォルコヴィッチ。理由は、彼女が立ち寄った小さな町々で、地元の人たちと交流するのに役立つと思ったからです。そのアイデアは次第に大きく膨らんでいき、

「悪くはないアイデアだけれど、もしあのプラカードを持って何百マイルも旅したらどうなるかしら?」と考え出したのです。

そこでウォルコヴィッチは、300 マイルのギャラクシー・ライド (銀河系旅行) を企画。その内容は、シカゴからセントルイスまでの道のりを自転車で 1 日およそ 50 マイル (約 50 km) ずつ、1 週間で走破するというものです。途中で立ち寄る場所は、それぞれが銀河系のランドマーク的な場所を示すように対数的に計画されています。つまり、「一つひとつの場所が、月や、近隣の星々、銀河系の中心にあるブラックホールなどの位置関係を示しているのです」と、ウォルコヴィッチは説明します。

ある意味これは、巨大な宇宙の距離感を理解させるのに実用的で分かりやすい方法と言えます。

例えば、月は地球から 238,900 マイル (約 384,472 km) 離れたところにあると言われても、人々にはピンときません。せいぜい、なんとなく「地球からかなり遠いんだな」と感じるぐらいしょう。

でももし、シカゴから近くの街まで自転車で移動し、その距離が「地球から月までの距離」に相当すると知った上で旅を続けたとしたら、火星 (地球から 1 億 4,000 万マイル (約 2 億 2,530 万 km)) を示す場所にたどり着く前に、宇宙の距離感を理解し始めるかもしれません。

とは言え、

「私は、宇宙空間の距離を理解してもらいたいわけではありません。宇宙や銀河系の中にある地球について探求するとき、難しく考えず、もっと身近に感じてほしいのです」と、ウォルコヴィッチ。

科学を「自分とはほとんど関係のない難解なもの」と考える人たちをたくさん見てきた彼女ですが、自身の考えは異なります。

「科学は、芸術作品を創り出すのと同じで、人間にとって非常に大切なもの。だからこそ、芸術のように身近に感じてもらう必要があるのです」と語る

ウォルコヴィッチは、科学的発見において想像力が果たす役割にも言及しています。「私たちが何かを予測しようとするときは、すでにある情報をベースにしたり、想像力を使ったりすることが多いのです。

しかし、科学とクリエイティビティーの間にあるこうしたつながりは、意外と見落とされがちです」科学は分析的で具体的なもの、芸術は情熱的で抽象的なものとする考え方は、私たちの中に深く根付いています。

なぜなら、子どものころから、科学と芸術を対極的なものとして教育されてきたからです。

「芸術家であり科学者である人に言わせると、幼少時に自分自身をカテゴライズしてしまうことで、とてつもなく大きなプレッシャーがかかります。私のキャリアの大半は、こうしたプレッシャーとの戦いです。それは学校でも仕事でも変わりません」と、ウォルコヴィッチ。「科学が好きな子」は、成長とともに興味を広げる代わりに、物理学か化学、生物学か数学といったように、さらに範囲を狭めていくのです。

こうしたプレッシャーは、最終的に科学から創造力を切り離してしまい、未来のアーティストや科学者、さらには一般社会にも、計り知れない悪影響を与えます。

銀河系の星図を作成したい! という衝動と、詩を書きたい! という衝動の原点は同じです。芸術は本能的で感覚的なものであると教わったとしても、想像力が宇宙の不思議や神秘の理解に役立つことは、ほとんど知られていません。

これこそが、ウォルコヴィッチが 300 マイルを自転車で旅してみようと思った理由です。教科書に書かれた数値や銀河系の驚異的な広さについて考える以外にも、科学をもっと身近に感じてもらう方法がたくさんあることを伝えたかったのです。

 

「同僚たちでさえ、全員が私の芸術活動の必要性を理解してくれているわけではありません。時間の無駄だと思っている人がいるのも事実です。でも私には、決して無駄ではないと分かっています」(ウォルコヴィッチ)

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