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日本のゲームに見る郷愁とは?

Jason Johnson Freelance writer and editor

宮本茂氏が開発した「ゼルダの伝説」シリーズは、彼の故郷である京都の美しい自然を舞台にストーリーが進んでいきます。

任天堂のゲームデザイナーである宮本氏が手がけたマリオ、ゼルダ、ピクミンなどのシリーズでは、彼が幼少期に歩き回った近所の森や川、園部城跡 (園部城は京都府南丹市にあった城郭) などでの想い出が背景となっています。そうした幼少期の遊びの中で、偶然発見した洞窟に魅了された宮本少年は、数日後、再びその洞窟を訪れ、手作りのランタンを手に不安な気持ちと戦いながら、そのミステリアスな深みへと入っていったのだと言います。

そのときの発見と恐怖の感覚を、宮本氏は大人になっても忘れられませんでした。そして、この体験からゲーム媒体を一変させるようなヒントを得たのです。

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「ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D」、任天堂

ロールプレイング・ゲーム (RPG) の「クロノトリガー」から「ペルソナ」シリーズまで、日本の多くのクラシックゲームを特徴づける要素といえば“郷愁”でしょう。「ものの哀れ (あはれ)」という考え方と深く関係している郷愁は、命のはかなさや無常観に対する「しみじみとした情緒や哀愁」を表現するものです。故郷をなつかしく想う感覚は、日本のマンガや文学にも広く浸透しており、古き良き時代への憧憬を呼び起こします。

表現媒体に対する日本の文化的影響は大きく、郷愁を大事にする気持ちは世界のゲーム業界にも浸透。各地で次世代のデザイナーに影響を与えています。例えば、トビー・フォックス氏を中心に制作され、2015 年に発表された PC 向け RPG「Undertale」でも、才能あるゲーム・クリエイターの幼少期の想い出が重要なテーマになっています。

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A Bird Story、Freebird Games

フランスの小さなゲーム会社 Atelier Sentô で「The Coral Cave」の作画を担当したデザイナーたちも、日本の郷愁に傾倒する現代のクリエイターです。

「多くの人たちがそうであるように、私たちも映画や音楽、芸術を通じて日本文化に初めて触れました。日本の文化は西洋の私たちにとって興味深いものです。私たちの感覚とはまるでかけ離れているものの、なぜか親しみやすさも感じるのです」と、背景アーティスト兼プログラマーのオリビエ・ピシャール氏は語っています。

日本の本土から離れた小さな熱帯の島を舞台とする「The Coral Cave」は、芯の強い沖縄の少女の冒険を追うストーリーで、幸せな幼少期の記憶の中にある温かな光に包まれています。

「The Coral Cave」予告動画、Atelier Sentô 社

水彩絵の具で描かれたサンゴ礁の砂浜と優しく引いていく波が、プレーヤーにその感触を思い起こさせます。デザイナーたちは、日本の漫画家である五十嵐大介氏に深い共感を覚え、特に海辺の子供たちの美しい線や描写に魅了されたのだと言います。

ゲームの主人公がサンゴで橋を作る場面で、江戸時代から飛び出したお化けのような女性の姿が、波間にちらりと見える瞬間があります。このシーンは、スタジオジブリの古き良きアニメ映画を彷彿させると同時に、日本の郷愁がゲーム界に普遍的な影響を与えていることを感じさせます。

「The Coral Cave」全体から、こうした太平洋の島々に対する純粋な憧れが、はっきりと感じ取れるのです。このゲームのデザイナーたちが交換留学生として日本に住んでいた 2010 年、彼らは島々の古風な趣に魅了されたそうです。

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「The Coral Cave」、Atelier Sentô 社

ピシャール氏と、ゲームのキャラクター・アーティスト兼アニメーターのセシル・ブラン氏は、日本での滞在中に、できるだけ多くの伝統的な祭りに参加し、その雰囲気に浸ったと説明しています。沖縄では、手書きの地図をもらい自分たちだけで行動。なかでも、水納島 (みんなしま) への小旅行が彼らの心を捉えました。水納島は一方の海岸から反対側の海岸まで数分で歩けるほどの小さな島です。

「島には道が 1 本しかなかったので、同じ子供たちのグループといつも鉢合わせていました。海の真ん中にぽつんとあるこんなちっぽけな島で、子供たちはどんな冒険をしているのだろう?と考え始めたのです。それが、このプロジェクトが生まれたきっかけでした」とブラン氏は振り返ります。

フランスに帰国したブラン氏とピシャール氏は、自分たちが島々の想い出に心地よく浸っていることに気づきました。そして、これこそが“郷愁”と呼ばれる日本独自の感覚なのだと実感したのです。

湿気ですぐに古びてしまう木造家屋から、子守唄が流れていた信号機まで、あらゆるものが懐かしくなりました。新潟にいたときの、骨まで凍るようなシベリアからの風ですら、後から思い返すとそれほど悪くないと思えたと言います。

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The Coral Cave、Atelier Sentô

「日本の人々は、命と時間を全く異なる方法で捉え、事物のはかない性質を深く感じ取っていることに気づいたのです」とピシャール氏。だからこそ、夢のように美しい想い出を作ることができたと感じた彼らは、その感覚をアーティストとして表現しようとを決意。この夢を現実にすることを心に誓いました。

「ゲーム制作では、別のゲームを土台にすることがあまりにも多く、個人的な経験をテーマとして扱うことはほとんどありません。ゲームを感情抜きで作り上げるのは難しいでしょう。自分にとって本当に大切なものをテーマにゲームを作ることが重要なのです」とブラン氏は語ります。

奥深い経験を再現しようとする姿勢こそが、日本をゲーム界の一大勢力にしている要因だと言えるでしょう。特に 80 年代から 90 年代の日本のクリエイターたちは、子供時代の記憶の中にあるひたむきさを作品に注ぎ込んでいます。

郷愁という強い感覚を持つ国に生まれた宮本氏のような伝説的デザイナーは、ハイラル王国 (「ゼルダの伝説」シリーズの舞台となっている王国) をプレーヤーが何度も訪れたいと感じるような想い出深いお気に入りの場所にする必要性を、本質的に理解していたのでしょう。

 

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