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テクノロジーが野球の試合を変える

Shawn Krest Writer, Movable Media

選手やコーチが VR によるピッチング練習を行い、エネルギー増強型スパイクやスマートバットを使うなど、野球はデジタル時代のスポーツへと変わりつつあります。

野球はアウト、セーフなどがインチの差で決まるゲームと考えられてきましたが、専門家によると、今日の野球選手はミリメートルの差で優位に立つことができると言われています。新しいスマート・ベースボール・テクノロジーを取り入れた選手が有利になる理由がここにあります。

映画「マネーボール」の中で描かれているデータの追跡と分析は、すっかり現実の野球界に広まり、コーチも選手も、プレイのパフォーマンスを高めてくれるトレーニング技術を探し回っています。例えば、ヒューストン・アストロズなどのチームは、ボールの回転を測定してパーフェクトなナックルボールを微調整しています。

トップ選手たちは 2016 年のシーズンに向けて準備しているため、ファンは、投球の回転、バットスピード、バーチャル・リアリティー・リプレイなど、より多くの選手データの影響を予想できます。

新しいテクノロジーを利用することで、お気に入りの娯楽がデジタルの未来に大きく飛び込んでいく年になるかもしれません。

バットのための FitBit

ウェアラブル活動量計を装着する位置は、アスリートの手首からスポーツ用具そのものへと変わってきています。Cambridge Consultants 社製の SparTag は、基本的には選手のバットに装着するフィットネス・アプリ FitBit (フィットビット) です。

バットを握るバッターの手の下に取り付けて使うこの小さなデバイスには、3 つの座標軸のスピードを同時に測る加速度計が搭載されています。また、バットの空中での動きを可能な限り多くの方向から捉えるために、磁力計とジャイロスコープも内蔵しています。これらのセンサーから蓄積されたデータを使用して、選手のスイングのパワー、角度、フォロースルーのモーションに関する情報を作り出すのです。

しかし抽出されたデータは、パズルの 1 ピースでしかありません。SparTag はさらに、データから選手のバットの動きのすべてを解明するためのツールも提供します。

「ハードウェアを作るのは難しくない時代です。面白いのは数学の領域です」と、Cambridge Consultants 社の消費者開発部長、ルース・トムソン氏は語ります。

歩数を友人や同僚と比較したり、理想的な日常活動レベルと比較できるウェアラブル活動量計のように、SparTag はバッターのスイングのパワー、フォロースルー、迎え角をそれぞれの理想的な範囲と比較します。さらにスイングの 3 次元マップも示してくれます。

SparTag のプロジェクト・リーダー、マシュー・ヒル氏によると、データ収集には、特に高価なテクノロジーを必要としません。使用しているのは、携帯電話に付いているような低コストのセンサーだそうです。野球だけでなく、ゴルフのスイング、テニスのストローク、ラクロスのショットに関するフィードバックが得られる類似バージョンのデバイスもあります。

よりスマートなバット

かつてバッターのための 3D スイング解析ツールを開発した Zepp Technology 社は、スマートバットも開発しました。このカスタムメイドのモデルにはグリップエンドに空洞があり、トラッキング・デバイスを内部に装着できます。

米国のアマチュア野球の 2 大組織である、Perfect Game USARipken Baseball は、このバットの試合での使用を承認。つまり、バッターは試合中の実際のスイングからフィードバックを得て、打席間で調整できるわけです。

オール・スター・ゲームに 4 回出場し、2014 年のアメリカンリーグ MVP となったマイク・トラウト選手は、Zepp の分析ツールを 2 年間にわたり使用しています。彼が導入しているシグニチャー・モデル (著名人の名前を冠した製品) のスマートバットは、6 月に一般販売される予定です。

スマートフォンで打撃を向上

マイク・トラウト選手が MVP を獲得する 14 年前に同賞を獲得したのは、ジェイソン・ジアンビ選手です。ジアンビ選手が当時プレイしていたオークランド・アスレチックスは、映画および書籍の「マネーボール」ですっかり有名になりました。

ジアンビ選手は、マネーボールのアナリストたちが重視するストライクゾーンへの対処に、最も成功した選手の一人でした。彼は、長打率と出塁率をもとに打者を評価する指標 OPS でリーグトップだったのです。

その後引退したジアンビ選手は、現在、選手たちが自分と同じようにストライクゾーンに対処できるようトレーニングするためのプロジェクト OPSに協力しています。EON スポーツ 社が開発したプロジェクト OPS とは、アニメーションと実写動画を重ねた VR シミュレーターです。バッターは、コンピューターで生成された動画を使って、試合で対戦する本物のピッチャーを相手に練習できます。

VR ヘッドセットが作り出すグラフィックは、ユーザーの携帯電話を使用しています。ゴーグルに携帯電話を接続できるようになっており、iPhone および Android のアプリがスクリーンに現れる画像を作成します。

ジアンビ選手はニュースサイト Tech Times で、「携帯電話をゴーグルにつなぐと、目の前にはピッチャーが立っていて、速球、カーブ、スライダー、チェンジアップを繰り出してきます」と語っています。

このデバイスの価格は 200 ドル (約 21,000 円) 以下ですが、同じことができるムービー・プロジェクターとスクリーンシステムでは 70,000 ドル (約 7,500,000 円) もします。

ジアンビ選手は最近のデモで、オールスター選手であり元チームメイトのトロイ・トゥロウィツキー選手にこのデバイスを試してもらいました。トゥロウィツキー選手は画面上のグラフィックを指さしながら、「そこにボールが着地する前に、俺の脳が、ボールはちょうどそこに向かっていると知らせてくれました。実にリアルです」と感心していました。

すべてが脚にかかっている

強打者や剛速球投手は強い腕力を持っている、とファンは考えていますが、選手たちは、パワーのポイントはベルトから下にあることを知っています。つまり、選手には力強い下半身が必要であり、パワーは脚と腰から生み出されるのです。

そのパワーを助けるために、Athalonz 社が2015 年末の Kickstarter キャンペーンから資金提供を受けて開発したのが G-Force スパイクです。Athalonz 社ではこのシューズを「アスレチック・ポジショニング・テクノロジー」と呼んでいます。このシューズを着用すると、自然と脚を通じて最大のエネルギー伝達を生み出せる体勢になりますが、これは現在の野球スパイクではできないことだと同社は主張しています。

Athalonz 社は研究者チームと協力して、25 人以上の MLB 選手とコーチに試作品をテストしてもらい、足のポジショニングにわずかな調整を加えることで、アスリートのパワーを高めるシューズを考え出したのです。

「運動競技に最適なポジションは、かかとの位置をわずかに上げて、体重を足の内側にかけることです。こうすると、足の指が自然と地面に向かうので、すぐにエネルギーの伝達連鎖が始まります」と、同社の顧問整形外科医、プレストン・ウォリン氏は説明します。

次の段階の追跡システム

トップアスリート、軍、ビジネス分野で、先を見越した健康増進とパフォーマンス強化に重点的に取り組んでいる EXOS のパフォーマンス・イノベーション・チーム副社長、クレイグ・フライドマン氏は、MLB が続けている追跡システムの実験のおかげで、野球の試合はファンにとってもっと魅力的になるだろう、としています。

「データから、選手がカバーしている距離や、彼らがとる経路が送球をするうえでどれだけ効率的かが分かります。

また、バットからボールが飛んでくる様子が選手にどう見えているのか、選手がプレイごとにどのように決断を下しているのかが分かるようにもなりました」 (フライドマン氏)。

最新の野球技術は、必ずしも球場や自宅で見ているファンの目に見えるものではありませんが、選手がトレーニング効果やパフォーマンスを高める上で、かつてないほど大きな役割を果たしています。よりスマートな用具、より多くの数学知識とデータ追跡がひとつになって、野球をインチ単位のゲームからミリメートル単位のゲームへと変えているのです。

 

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