テクノロジー・イノベーション

ハクティビズムは無関心への対抗手段?

日常生活でますます欠かせなくなっているインターネットやソーシャルメディア。今後も、熱心で優秀な若手コンピューター技術者やハッカー集団が、自身の技術的ノウハウを駆使して、政治体制を混乱させたり、世の中の不正を正したり、社会的利益を追求していくことになるでしょう。

ある朝、街中の ATM が停止していたらどうなるでしょうか。銀行のデータがすべて消去され、グローバル市場が混乱。世界的リーダー企業や、国際組織、いわゆるワンパーセンター (1%er:1% しかいない集団のこと) とも呼ばれる超裕福層もパニックに陥るでしょう。その一方で、少なからぬ人々が負債から解放され、すべての人が金銭的に平等になります。

このような世界革命や、その予期せぬ影響は、USA ネットワークのドラマ「Mr. Robot」でリアルかつスタイリッシュに描かれているように、ロビン・フッドのような正義感を持ったハッカーが、その価値観を振りかざす場合に起こる極端な例の 1 つです。

「Mr. Robot」 は完全なフィクションですが、その構想はアノニマスLulzSecRedHack のようなハッカー集団が実際に行ったハクティビズムからヒントを得ています。

ハクティビズムとは、「政治的または社会的な主張を目的として、コンピューター・システムをハッキングまたは破壊する行為」と定義されており、アクティビズム (積極行動主義) に重点を置いています。こうした行為を行うハクティビストは、テクノロジーに精通した個人であるだけでなく、世界を良い方向もしくは悪い方向に変えたいという強い願望を持っているのです。

インテルのサイバーセキュリティー&プライバシー部門でディレクターを務めるブルース・スネルは、次のように説明します。

「ハクティビストは、政府、企業、またはある種の出来事に対する不満を表面化させたいと考えています。その手段がハッキングなのです。例えば、ウクライナとロシアの情勢不安を背景にハクティビストが多くの事件を起こしています。アラブの春 (2010年末頃から北アフリカ・中東諸国で本格化した民主化運動) でも同様でした」

現在、オンライン・バンキング・サービスの利用やソーシャルメディアへの自撮り写真の投稿など、日常生活にインターネットが深く浸透しています。スネルが指摘するように、アクティビズムがオンラインに移行するのも、こうした進化に伴う、ごく自然な流れなのです。彼は、ハクティビズムと、座り込みをしたりプラカードを持って行進する従来の抗議運動との間に類似点を見出しています。

アクティビズムがデジタルへ

スネルは、Facebook や Twitter を始めて以来、記事や投稿、インターネット上で共有される情報を通じて自分の政治的見解を共有する人が増えていることに注目。抗議運動にソーシャルメディアを利用する文化が広がっていると指摘します。

「ソーシャルメディアは、より多くの人が関わり、メッセージを発信するために集まる媒体です。ハクティビストにしてみれば、ソーシャルメディアに集まるグループは、プラカードを持って抗議運動を行うよりも、多くの観衆にアピールできるわけです」とスネル。

アクティビズムがオンラインに移行すれば、ハクティビストが地上での活動をサポートできるようにもなります。

Occupy Wall Street (ウォール街を占拠せよ) 運動を思い出してください。ウォール街で起きたアメリカの経済界、政界に対するこの抗議運動は、オンラインで呼び掛けられたものです」と、インテルのサイバーセキュリティー部門のストラテジスト兼エバンジェリストであるマシュー・ローゼンクイストは説明します。

彼によると、ハクティビストは抗議運動を通して存在感を高めるために、大義に関するニュースをオンラインで流します。また、自身のスキルを駆使して国家機関のサイバー・ファイアウォールを破り、ファイアウォールの外側と情報を共有して、大義に対する注目度を高めようともします。

ニュースをオンラインで確認する人が増え、インターネットはますます重要なプラットフォームになっています。「運動家の活動期間は、デジタル社会が拡大し日常生活に浸透するに伴い、以前よりも長くなっています。ハクティビストは、活動の対価として莫大な利益を得ているのです」とローゼンクイスト。

インターネットはハクティビストにとって格好の標的になり得ますが、その攻撃方法はさまざまです。あるハクティビストは、セレブの Twitter アカウントを乗っ取り、本人の信念に反する見解を投稿しています。また、あるハクティビストは、2014 年に Sony Pictures 社をハッキングしたグループ Guardians of Peace (平和の守護者) のように、損害を与えるような情報や都合の悪い情報を盗み出し、世界に暴露しています。

ローゼンクイストによると、Web サイトの改ざんや乗っ取りに使われるのは一般的な方法です。この種のハッキングには、大量のコンピューターを使って Web サイトやシステムにアクセスし、通信容量をパンクさせて機能を停止させる Distributed Denial of Service (DDoS) 攻撃や、Web サイトのテキストや画像を特定の大義を反映したものに変更する方法など、単純な手口が使われます。

また、URL をリダイレクトして、例えば、大規模小売店のサイトで買い物しようとしていた人に、その店の不正を暴露するページを表示することもあります。

hacktivism-and-protesting-e1471966836370

ローゼンクイストは、ハクティビストは「すべきこと」をせずにはいられない傾向が強く、中には、金銭が目的ではなくても、資産の窃盗や破壊行為を行うハクティビストもいると言います。

「例えば、クジラを保護したいハクティビストは、捕鯨会社を見つけ出し、サプライチェーンを分断するか、捕鯨船のナビゲーション・システムを妨害して、捕鯨できないようにします。そして、その問題に関する社会の意見を変えるため、公共の場をハッキングしてアピールするのです」と説明。

ちなみに、「Mr. Robot」に登場するハッカー集団「fsociety (エフソサイエティー)」の場合は、巨大な多国籍企業「E(vil) Corp」を潰すために、カージャックや、従業員の ID バッジ情報のコピーといった実世界の窃盗に加えて、大火災を引き起こすために Raspberry pi (プログラム可能な小型コンピューター) をサーモスタットに取り付けてオーバーヒートさせたり、TV 向けのちょっとした技を使用していました。

ハクティビズムの進化

ハクティビスト自身の圧倒的な多様性を踏まえれば、攻撃方法が多種多様であるのもうなずけます。

「現在、世界中に数千ものハクティビスト・グループが存在し、考えられるほぼすべての大義を網羅しています」と、ドローシー・デニング氏は「The Rise of Hacktivism (ハクティビズムの台頭)」で述べています。

「特定の国や政府機関などの政治組織に賛同するグループもあれば、そういった忠誠心を全く持たないグループもあります」とデニング氏。また一方で、このようなグループの運営方法も時とともに変化しています。

ローゼンクイストはこう説明します。

「初期のハクティビスト・グループのほとんどは小規模で結束が固いものでしたが、現在は、大規模で結束の緩い団体です。誰かが逮捕されたときに備えて、個々のメンバーが個人的に匿名で活動しているのです」

しかも、ハクティビストには特殊なハイテク知識さえ不要になっています。スネルによると、アノニマスのようなハクティビスト集団は、技術的知識の乏しいメンバー (スクリプトキディーと呼ぶ) に攻撃対象を指示する前に、「High Orbit Ion Cannon」のようなツールを提供しているそうです。

hacktivism-mask-e1471966879517

また、新しいハクティビスト・グループほど、先駆者よりもブランド志向が強い傾向にもあります。

「ロビン・フッドと言ってすぐに浮かぶのは、裕福な者から盗み、貧しい者に与えるというイメージ。厳密に言うと犯罪者なのですが、概ね正義のヒーローとして扱われています。期待感を醸成することで、観客の信頼、共感、支持を得ることができるのです」とローゼンクイストが語るように、一部のハクティビスト・グループは、同様の方法で自らの地位を築く努力をし、名声を確立しています。

最も有名なハクティビスト集団「アノニマス」は、まさしくこのケースに該当します。ガイ・フォークス・マスク頭部がクエスチョン・マークになっている男のイラストを見れば、誰がハッキングしているのかが分かります。人がアノニマスをどう感じるのかによって、サポートする価値のある大義かどうかが決まってしまうのです。

「Mr. Robot」でも、マスクを着用したハッカーが、大衆にメッセージを発表していました。サポーターたちもまた、借金帳消しを掲げるグループへの支持を表明するため、同じようにマスクを着用してマンハッタンを行進しています。

ハクティビズムの「善悪」、「政治的抗議活動」か「犯罪」かについては、意見が分かれるところですが、「さらに広まる一方である」ということだけは確かです。

「いつの時代も、体制に反感を抱く人はいます。日常の活動をオンラインで行う機会がますます増える中、今後数年間はハクティビズムによる事件が増えていくでしょう」とスネル。

ローゼンクイストも、このような背景が今後もハクティビズムの勢いを増幅させる重要な活力源になることに同意しています。特に、メディアが大規模なデータ漏えいに注目している現在は、さらに勢いを増しつつあるとして、「このような活動にデジタル・テクノロジーやメディアが使われれば、ハクティビストにとっては好都合です。世界中がデジタル社会へと移行しているのですから、彼らの活動の場も世界中に広がっていくのは間違いないでしょう」と、ローゼンクイストは語っています。

 

この記事をシェア

関連トピック

テクノロジー・イノベーション

次の記事