ファッション

NYFW のランウェイに未来のテック・ファッション登場

Ken Kaplan Executive Editor, iQ by Intel

ニューヨーク・ファッション・ウィークに、生体情報に反応するファッションが登場。そこには、未来のウェアラブル・テクノロジーが詰め込まれていました。

この秋、デジタル領域にさっそうと進出してきたのは、ファッション業界です。しかも、これからさらに勢いを増す予感を漂わせています。

2016 年春夏ニューヨーク・ファッション・ウィーク (以下、NYFW) では、有名デザイナーから新進デザイナーまで、さまざまなデザイナーの最新ファッションを身に付けたモデルたちがランウェイを闊歩しました。中でもとりわけ目を引いたのが、コンピューター・テクノロジーを駆使した未来の衣服です。

米ファッション・ブランド Chromat のベッカ・マシャレンが手掛けたアドレナリン・ドレスと「エアロ・スポーツ・ブラ」は、ファッション性と機能性が見事に融合した作品です。どちらも生体情報に反応するもので、衣服の新境地を開いたと言えるでしょう

この 2 つの衣服には、ウェアラブルを動かすボタンサイズのコンピューター・ハードウェア「インテル® Curie™ モジュール」と、アドレナリンの発生を示す体温、発汗、呼吸などの変化を感知するセンサーが搭載されています。

生体情報の変化をキャッチすると、衣服の形状が変わり、着用感や通気性が向上する仕組みです。

アドレナリン・ドレスを動作させるバイオセンシング・テクノロジーとメカニカル・テクノロジーをつなげる Chromat のデザイナー、ベッカ・マシャレンとインテルのイノベーション・エンジニア、カーリー・チャンジア。

以前、「Strange Bedfellows」(奇妙な縁で結ばれた仲間) の記事でも取り上げましたが、ファッション業界とテクノロジー業界はすさまじい勢いで新たな関係を築いています。

9 月に開催された NYFW でも、業界間のコラボレーションによる新しい作品が数多く登場しましたが、アドレナリン・ドレスやスポーツブラほど斬新なものはなかったと言ってよいでしょう。

インテルのニュー・デバイス・グループ担当副社長であるエイス・イルデニスは、ウェアラブルを「インテリジェントな機能によって衣服やアクセサリーの実用性を高め、ファッション業界に活力と刺激を与える新しいテクノロジー」と表現しています。彼女は、Opening Ceremony、Fossil Group、Luxottica Group、TAG Heuer、アメリカ・ファッション協議会 (CFDA) などのファッション・リーダーたちとパートナー関係を築いてきた人物です。

バイオミミクリー・ドレスが Milk Studios、MADE Fashion Week、WMG-IMG などのファッション界のイノベーターとの連携により誕生したように、彼女もまた、ベッカの最新ウェアラブル・テクノロジー・デザインを実現するためのコネクションづくりに貢献してきたのです。
※バイオミミクリーとは、生物の持つ構造や機能を模倣して新しい技術を生み出すこと。

ベッカは、9 月 11 日の Chromat ファッション・ショーでアドレナリン・ドレスとエアロ・スポーツ・ブラを発表した後、Fortune のビデオ・インタビューでこう語っています。「現在可能なこと、未来に可能になるであろうこと、そして私たちの目指したい場所、目指すべき方向性を見つけ出す過程は、素晴らしい旅のようなものです」

これまでにポップスターのビヨンセ、マドンナ、ニッキー・ミナージュのステージ衣装をデザインしてきたベッカは、ソーシャルメディア・サイトの Mashable で自らの考え方に触れ、

「服は、着る人がどのように感じているのかを察知して、それに適応し反応できるものでなければならない」とも述べています。

彼女は「建物の環境を制御できるのだから、衣服だって同じように制御できるものであるべき」という考えに刺激を受けた建築家でもあり、これを実現するのが、新しい素材、感知テクノロジー、コンピューティング・テクノロジーなのです。

アドレナリン・ドレスでは、センサーに接続されたデジタル・ハードウェア、インテル® Curie™ モジュールが、アドレナリンを発生させるような感情に関連する生理学的指標を識別。ドレスが着用者の呼吸、発汗、体温を感知します。

11

アドレナリン・ドレスに使われているインテル® Curie™ モジュールを確認する、Chromat のデザイナー、ベッカとインテルのイノベーション・エンジニア、カーリー・チャンジア。

インテルのイノベーション・エンジニアであるカーリー (カロリナ) ・チャンジアは、バイオミミクリーを次のように説明しています。

「バイオセンシングと形状記憶合金をつなげることで、メカニカルサーボ (位置や方位、姿勢などを自動的に制御する仕組み) を使わずに、自然で静かな動作を可能にする方法が見つかりました。これにより、外観も動きも、着用者と一体化した滑らかなデザインが実現します」

「アドレナリン・ドレスは、自然界に存在する生き物のように自発的に反応して動作するように設計されました」と語るのは、インテルのニュー・デバイス・グループ所属のベテランエンジニアであり、新プロジェクトのディレクターを務めるトッド・ハープルです。

彼は、アドレナリン・ドレスを、1 年ほど前にアヌック・ウィップレヒトがデザインしたインテル® Edison モジュール搭載の「スパイダードレス」の進化形と位置付け、テクノロジー搭載ファッションの実用化がさらに現実味を帯びてきたとしています。

また、きらびやかに点滅するドレスの常識を打ち破る、非常に大きな一歩だと考えています。

「アドレナリンとも呼ばれる人体内の化学物質、エピネフリンを実際に追跡することはできませんが、体温、発汗、呼吸を測定すれば、アドレナリンが上昇する状況下のおおよその数値を把握することは可能です」

これは、ハードウェア・モジュールが、着用者のニーズや心理状態に合わせて衣服を変化させるのに十分なデータです。

シナプスドレスなどに見るアヌック・ウィップレヒトの初期のデザインは、チャンジアをはじめとするインテルのイノベーション・エンジニアとのコラボレーションにより実現したものです。ハープルは、「いつか、コミュニケーションが困難な人々の不安を、さりげない方法で理解できる日がやってくるかもしれませんね」と語るように、生物学的感知機能を持つアドレナリン・ドレスが、人々の生活向上になんらかの影響を与えるだろうと見ています。

アドレナリン・ドレスの 3D デザインを担当したフランシス・ビトーニは、Wired UK で「3D プリントは新しいファッションの創作に欠かせないものになるでしょう」と語っています。ファッション界が革新的であり続けるためには、ツール、素材、製造方法についてじっくり考える必要がありそうです。

バーレスクダンサー (局部を見せないストリップ・ダンサー) のディタ・フォン・ティースのためにボディーコンシャスな 3D プリントドレスを共同デザインしたことで知られるビトーニは、試験的に作られたアドレナリン・ドレスについて、「全く新しいものを創り出すために、少人数のエンジニアが 1 人のデザイナーと協働した結果です」と語っています。

ドレスの背面にある伸縮する装置はカーボンファイバーで作られており、形状記憶合金を斬新な使い方で動かすことができます。

スマート・スポーツ・ブラ

エアロ・スポーツ・ブラも、米ファッション・ブランド Chromat のイベントで発表された作品の 1 つで、ネオプレン (合成ゴム素材)、メッシュ (網の目)、ライクラ (伸縮性を持つ合成繊維) が使われています。

ノエル・シャッカはソーシャルメディア・サイトの Mashable で、「一見、普通のフィットネス・ブラと変わりありませんが、3D プリンターで作った通気孔付きの画期的なフレームにより、汗をかいた体をクールダウンできるようになっています。着用者が汗をかき始め、体温が上がると、ブラに搭載されているテクノロジーが通気孔を開閉して対応する仕組みです」と説明。

アドレナリン・ドレスと同様に、このスマート・スポーツ・ブラにもインテル® Curie™ モジュール、呼吸センサー、形状記憶合金が採用されており、通気孔を静かに開閉することで、オーバーヒートした着用者をクールダウンさせることができます。

ファッション・テクノロジーの今後

ハープルは、アドレナリン・ドレスは未来を予感させる作品であり、一方のエアロ・スポーツ・ブラは、もう少し現実味のある近い未来を表した作品だとしています。

「ベッカは、この 2 つの作品を彼女の既存ラインの延長として発表しましたが、実際にはそれ以上の存在感を放っています。おそらく彼女は、両方の作品を、電子機器を搭載せずに自分のラインの一部としても発売するでしょう。デザインの観点からも、自分らしさや、自分の目指す方向性を世に示したいと考えているようです。私たちが協働することで彼女のビジョンを広げ、テクノロジーなしでは実現し得なかった何かを生み出す手助けができると考えています」(ハープル)

NYFW では、ファッション界が現状を打破できることが実証されただけでなく、ウェアラブル・テクノロジーが新境地を開くための課題も明らかになりました。

Wired で、「テクノロジー搭載ファッションのニーズに対応できるように、現在のツールや機器はさらに改良を重ねる必要があります」と語る 3D デザイナーのビトーニは、さらにこう続けます

「実用化は、私たちにとって最大の課題です。今はまだ、製品化を実現するためのツールがありません。さまざまな素材を使って素晴らしいものを創造できること、それが全く新しい美学をもたらすことは分かっているのですが、それを消費者に届けるとなると、製造面や流通面で問題があるのです」

この 2 つの作品は、ファッション指向のウェアラブル・テクノロジーとして大きな飛躍を遂げていますが、それでもベッカは、自分の作品が物理的な制約を受けていると感じています。

ソーシャルメディア・サイトの Mashable で、「まだまだファッション・テクノロジーにはたくさんの壁があります。

ケーブルもバッテリーも硬くて柔軟性がありません。最優先されるのは着心地です。身体の動きに合わせて伸びたり曲がったりする必要があるのです。ですから、インテルの CEO には、柔軟性に優れたジョイントが今後のマストアイテムだと伝えました」とベッカ。

彼女は Fortune 誌でもこう語っています。「今月、NYFW のランウェイで発表した作品は最初の一歩でしかありません。この半年で考え出したアイデアを示しただけです。今後コラボレーションが拡大するにつれて、このプロジェクトで学んだすべてのことが、私たちを前進させる原動力になるはずです。やらなければならないことが本当にたくさんあるのです」

プレスイベントのステージ上で、モデルのアレック・ウェックにアドレナリン・ドレスを着用した感想を尋ねたところ、「すてきです。20 年間この仕事をしてきましたが、本当に素晴らしいひとときでした」という答えが返ってきました。

「まるで私の体とつながっているみたいでしたよ」と語るとおり、彼女は自分がコンピューター制御されているように感じたそうです。

2016 年春夏 NYFW のパネル・ディスカッションにて。ステージでアドレナリン・ドレスを着たモデルのアレック・ウェック、インテルのニュー・テクノロジー・グループ担当主席副社長兼ジェネラル・マネージャーのジョシュ・ウォールデン (左)、Chromat のデザイナーのベッカ・マシャレン (右)。

編集者より:2016 年春夏ニューヨーク・ファッション・ウィークには、MemoryMirror* も登場していました。テクノロジーの新たなイノベーションによって、近い将来、試着室が大きく変わることは間違いないでしょう。テクノロジーを使って常識を変えるクリエイティブなアイデアを持っている人は、賞金 100 万ドル (約 1 億 2,010 万円) の「America’s Greatest Maker contest」に参加できます。

 

 

この記事をシェア

関連トピック

ファッション

次の記事