メーカー

ウェアラブル×ファッション:蝶のドレス

Deb Miller Landau iQ Managing Editor

トルコの 2 人のデザイナーが、ファッション界の新たな幕開けを予感させる画期的なドレスを製作。

照明が煌々と輝くイスタンブールのスタジオで、グルーガン (樹脂を溶かして接着する工具) を片手に、2 人の姉妹が山のように積まれた青い羽毛と格闘しています。彼女たちの前には、なめらかなシルバーのドレスをまとった首なしのマネキン。ドレスには羽毛と何十匹もの布製の蝶が装飾されています。はがれ落ちてくる羽毛を丁寧に接着しながら、飛翔に備えて、蝶のはねを慎重に整えていきます。

オートクチュールのデザイナーにはよくある光景ですが、少女だったころの姉妹が、婦人用羽毛えり巻きを解体し、着せ替えごっこをする姿が目に浮かぶようです。しかし、創作途中の混沌とした状態にありながらも、この蝶のドレスには、人々のファッションへのアプローチを変えうるような仕掛けが組み込まれているのです。

「これはインテリジェントなドレスです」と、チューバ・セティン氏。彼女とエツラ・セティン氏の姉妹は、高級デザイナーブランド Ezra+Tuba を手がけています。 ラメ用のメタリックなルレックス繊維 (金属糸) を織り込んだ贅沢なジャガード柄 (生地に立体的な絵柄が織り込まれた模様) に、約 40 匹の蝶を飾り付けたドレス。ドレスには近接センサー (触らなくても対象物が近づいただけで ON/OFF を切り替えられるデバイス) が組み込まれており、蝶が外部からの刺激に反応するようになっています。

「近付いてくる人を検知できるんですよ」と、エツラ・セティン氏。

最初はゆっくりと、その後は人が近付くたびに、蝶はぱたぱたと羽ばたきます。最後には、人が近付くか、モバイルデバイスを使ってワイヤレス・ネットワーク上でドレスと通信すると、蝶がいっせいに飛び立ちます。

この蝶のドレスは、ファッションを機械化するというウェアラブル・テクノロジーの新たなトレンドを利用しているのです。 最近の製品やプロトタイプは、汗から生体情報を読み取りアスリートのパフォーマンスを向上させたり、自然界にヒントを得て、カクテルパーティーで苦手な人を近づけないようにクモで武装したりなど、さまざまな機能を提供しています。

「我々は、布、デザイン、色、動作、美観といったもので遊びを楽しんでいますが、洋服の未来は今まさに変わろうとしています。そこには、テクノロジーが必要なのです」とチューバ氏。

インテル・ラボ・ヨーロッパのイスタンブール・オフィスでソフトウェア開発エンジニアを務めるカグリ・タンリーオーバーは、この 2 人の姉妹とともに、新しいデザインにテクノロジーを統合する方法を模索してきました。エンジニアとファッション・デザイナーの共同作業ということで、当初は両者のやりとりもぎこちなかったものの、ブレインストーミングと試行錯誤を重ねた結果、軌道に乗るのにそれほど時間はかからなかったと言います。

INCOH30996_ButterflyDress_14529
蝶のドレスの技術チェックを行うインテルのカグリ・タンリーオーバー。

「このドレスは、コンピューターでありながらマッチ箱より小さいインテル® Edison コンピュート・モジュールを搭載しています。キーボードや画面などの周辺機器はありません。インテル® Edison モジュールを使ってできることやその応用範囲は無限です。エンジニアでなくても大丈夫。必要なのは、メーカー精神だけです」とタンリーオーバーは説明します。

インテル® Edison コンピュート・モジュールは、ユーザーが定義したタスクを実行するようプログラムでき、ワイヤレス機能に加えて、サーバーやセンサーなどに接続できる入出力ポートも備えています。

butterfly-dress-ET-couch
チューバ・セティン氏 (左) とエツラ・セティン氏 (右)。イスタンブールのスタジオにて。

エツラ氏とチューバ氏のデザインへの愛は、繊維関係の仕事に携わっていた両親の影響を受けています。両親は、新しいアイデアを生み出すことやリスクを冒すこと、我慢することの価値を姉妹に教えてくれたのです。

「2006 年の初コレクションはかなり前衛的で、皆をあっと言わせました」と語るチューバ氏が、ファッションとデザインへの愛を実務に落とし込む一方、絵が得意なエツラ氏は、芸術的センスを発揮。繊維技術と工業デザインを学んだ 2 人は、SF からもインスピレーションを得ています。

「SF はアイデアの宝庫です。ファッションの未来は、絶えず進化し続けています。

スター・ウォーズ、フィフス・エレメント、マトリックス、トロン、イーオン・フラックス、最近のハンガー・ゲーム、エクス・マキナなどの映画は、私たちのインスピレーションを大いに刺激し、どうしたらより多くの機能を衣類に組み込めるかについて、新しい洞察を与えてくれます」とエツラ氏は語ります。

IMG_9959 Vogue Turkey
ファッション・デザイナー・ブランド Ezra+Tuba のセティン姉妹 (チューバ氏とエツラ氏)。撮影:バラン・アクコユンル氏。

パリのファッション・ウィークでコレクションを披露したトルコ初の既製服デザイナーだという姉妹は、ミラノでコレクションを開いた経験もあり、今年後半にはドバイでのショーを予定しています。彼女たちの独特なデザインの構造には、姉妹の文化的背景の影響が色濃く出ているようです。

エツラ氏は祖国である現代トルコの中核地域、ヨーロッパと中東の間を指してこう語ります。「アナトリア地域の文化はクッキングシートのようなものです。

多くの文明が過ぎ去っていきましたが、それらが残した莫大な財産は、私たちの文化、すなわち伝統、芸術、工芸、日常生活のあらゆるものに今もなお継承されています」

ファッションとテクノロジーの融合は、この姉妹の単なる気まぐれではありません。運動エネルギーを採取して、人の動作から電気を集める。色や柄が変化する素材を開発する。3D モデリングや 3D プリンターを使用して、オーダーメイドのファッションを創る。将来的にはそんなプロジェクトも実現しそうです。

「ウェアラブル・テクノロジーの概念を一部に採り入れるのではなく、コレクション全体で活用する世界初の高級デザイナーブランドにしようと考えています」と、エツラ氏は意欲を覗かせます。

さて、冒頭のスタジオに戻ってみましょう。接着剤が乾き、モデルが体をくねらせながらドレスを身につけます。蝶が固定され、飛び立つ瞬間を待っています。肩パッドの下にインテル® Edison コンピュート・モジュールが隠されているなんて、誰も気づかないしょう。モデルが動くと信号が発せられ、蝶たちが羽ばたき始めます。まるでさなぎから蝶に変わるように、見たこともない新しいドレスの誕生です。

編集者より:この驚きの新体験シリーズでは、コンピューター・テクノロジーの活用による素晴らしい体験をご紹介していきます。 コンピューター・テクノロジーが、科学、メーカー・ムーブメント、ファッション、スポーツ、エンターテインメントなどに新たな体験や発見をもたらすストーリーをお楽しみください。 これらのストーリーを支えるテクノロジーは、驚きの新体験で詳しくご覧いただけます。

この記事をシェア

関連トピック

テクノロジー・イノベーション ファッション メーカー

次の記事