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ファッション・ウィークで新境地を開く Chromat

ベッカ・マシャレン氏は、建築にインスパイアされたファッション・デザインに多様性とテクノロジーを取り込み、世界中のファッション・ウィークで新境地を開拓しています。

Vogue 誌をめくり、スマートフォンの画面でランウェイの映像を観て、Instagram でニューヨーク・ファッション・ウィークの写真をフォローする。ファッションに敏感な人々は、かつてないスピードで最新スタイルをチェックしています。しかし、ファッション業界は依然として、デジタルの世界に積極的に飛び込もうとはしていないようです。それはなぜでしょうか。

理由は、ソーシャルメディアの驚異的な視覚効果とウイルスのような伝播性にあります。トップブランドは、新しいデザインを発表したら直ちに商品を用意しなければなりません。商品が店頭に並ぶまで数カ月の猶予があった時代はもう過去の話なのです。

アメリカのファッション・ブランド Chromat の CEO 兼デザイナーのベッカ・マシャレン氏は、こうした変革の数光年先を走っているようです。テクノロジーをいち早く取り込んでバイオミミクリー (生物模倣) や生物発光の要素を衣服に組み込み、ますます幅広い人々の支持を集めています。

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CES 2016 にインテル CEO のブライアン・クルザニッチと登場したベッカ・マシャレン氏。

Chromat は、ファッション・テクノロジーのトレンドセッターです。2000 年以来、マシャレン氏は建築設計に携わってきた経歴、裁縫への情熱、テクノロジーへの揺るぎない関心といった多様な領域を結集した総合的なアプローチにより、セレブ向けの一点物のコーディネートから、大衆向けの既製品までを幅広く展開。

その作品は、ヒップとウエストのサイズだけでなく、ジョイントとシルエットが特徴です。彼女はテクノロジーを使ってデザインするだけでなく、センサーや、形状を変える素材、着用者の動きに合わせて制御できるライトなどを衣服自体に組み込みます。

今年 2 月、インテルとの 2 年連続のコラボレーションとなる 2016 年秋冬ニューヨーク・ファッション・ウィーク・ショーで、彼女は Lumina コレクションを発表。

毒素性ショック症候群で右足を失ったローレン・ワッサーや、アメリカで放送中のオーディション型リアリティー番組「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」出身のトランスジェンダー・モデルであるアイシス・キングなど、さまざまなモデルが Chromat のランウェイに登場しました。

Vogue 誌は次のように紹介しています。
「トランスジェンダーの DJ アーティスト、ジュリアナ・ハクスタブルが、キーホール・カットアウトの青いミニドレスでさっそうとランウェイに登場した。黒いケージをまとったウエスト、肩から流れ落ちるトレードマークのボリューミーな編み込み。Chromat が起用するモデルは、その作品と同じくらい常識を超えたものだった」

ショーが一番の盛り上がりを見せたのは、サビーナ・カールソンが、赤とピンクの光を放つ電子発光のケージドレス (2 種類の生地を二重に重ねたカゴのようなディテールを持つドレス) をまとって登場したときでした。

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モデルたちが手と手首に装着するのは、StretchSense 社の伸縮性に優れた薄いセンサーです。

センサーを装着した手で握りこぶしを作ると、ワイヤレス信号が送信され、服に取り付けられたライトが点灯します。

マシャレン氏は New York Times のインタビューに答えて、「私は光を利用したいと考えていました。バイオミミクリー (生物模倣) や生物発光を通じて自然界の発光現象を表現したかったのです。

コミュニケーションし、接続し、自分の身を保護するために、光がいかに機能するかということに興味がありました」と語っています。

Lumina ショーの前夜、ブルックリンに活動拠点を置くマシャレン氏は、服によって女性に力を与えたいと iQ に語りました。 彼女の美と強さを表現するランウェイモデルたちは、まさにその象徴です。

「服について考えるとき、従来のファッション・アプローチにこだわる理由が分かりません」と、マシャレン氏は当たり前のことを穏やかに話します。

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彼女の服や全体的なデザインプロセスに対する考え方には、建築家として訓練を積んだ経験が大きく影響しています。

「Chromat を立ち上げたとき、私たちは人体を足場として捉えて実験していました。その試みは今も続いています。建築物と同じように、体を建築現場と捉えるのです。こうした建築の構造言語が、あらゆるデザインの基盤になっています」

ファッション界で自分のルールを打ち立てるマシャレン氏のテクノロジー・イノベーションへの興味は、尽きることがありません。 Chromat のデザインは、FacebookTwitterInstagramPinterestTumblr で見ることができますが、マシャレン氏にとって、テクノロジーとはアイデアを具現化し、人々の気分を盛り上げるための強力なツールでもあります。

Karli Cengija and Becca McCharen Adrenaline Dress NYFW2015
インテル® Curie™ テクノロジーを搭載したアドレナリン・ドレスを制作するカーリ・チャンジアとベッカ・マシャレン氏。

マシャレン氏は秋の NYFW 2015 ショーで、インテルのイノベーション・デザイナーであるカーリ・チャンジアをはじめとするスタッフの協力を得て、形状が変化するアドレナリン・ドレスやエアロ・スポーツ・ブラを発表。未来に大きな一歩を踏み出しました。

ボタンサイズのインテル® Curie™ コンピュート・モジュールを組み込んだこれらの作品は、バイオミミクリーとデータ・トラッキング機能を搭載してランウェイにデビュー。いずれの衣服も着用者の環境に反応する仕組みです。

マシャレン氏は、このコンセプトの出発点は建築の研究だったと言います。それは、窓のある場所で働いているオフィスワーカーは、閉鎖された環境で働いているワーカーよりも生産性が高く、快適に仕事をしていることを証明した研究です。

「衣服に体温と体を制御できる仕組みを組み込むことで、同じような効果を実現したいと考えました。

体に合わせて変化する服を作ること。これがあらゆるファッション・インスピレーションで最優先してきたことです。着用者が最高のパフォーマンスを達成することを機械のようにアシストできる服を作りたいのです」とマシャレン氏。

Areo Sports Bra with bimimicry tech by Intel and Chromat
インテル® Curie™ テクノロジーを使ってバイオミミクリーを実現したエアロ・スポーツ・ブラ。

こうしたウェアラブル・テクノロジーはまだまだ試作段階であり、製品化のレベルには達していないと強調する彼女は、

「硬いプラスチック製のノートブック PC や動かないアイテム向けの開発と、柔軟に折り曲げられる柔らかいもの、つまり、形状が変化して身につけられるものの開発にはあまりにも大きなギャップがあります。課題は山積みです。もっとたくさんの試作品を作らなければなりません」と説明します。

人々のパフォーマンスを高める衣服に加え、マシャレン氏は、購入する前に自分で手直しできる衣服を作ることも考えています。

「テクノロジーのおかげで、いつでも、世界中のどこからでも好きなファッションにアクセスできるのは、本当に素敵なことだと思います。私が今とても興味を持っているのは、テクノロジーを活用して自分が選んだ服を自由にカスタマイズできるようにするアイデアです」

ランウェイで発表された作品をファッションに敏感な人々がオンラインで即座に購入できる。そんな日を夢見ているのだと言います。一人ひとりの体のスキャンデータがあれば、デザイナーはそのサイズにぴったりの服を仕立てることができるでしょう。

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こうした環境を実現するには、画期的なテクノロジーを使用するだけでは不十分です。マシャレン氏は、ファッション業界の将来を阻む多様性の問題に直面しています。

個性も体型も異なる女性たちをモデルとして迎える Chromat は、音楽をコンセプチュアル・アートに昇華させるトランスジェンダーの DJ アーティスト、ジュリアナ・ハクスタブルや、女性らしい豊満な体型を活かした曲線美モデルのパイオニアであり、シングルマザーでもあるデニス・ビドなど、注目の人物を起用してきました。

ファッション業界で確固たる地位を確立したひと握りの女性の 1 人として、マシャレン氏は自信と自己表現が可能にする改革の力を肌で感じています。これこそが彼女をファッション業界のリーダーたらしめている要因でもあります。

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マシャレン氏は、「ファッション界の消費者の大半が女性であるという事実も衝撃的ですが、実は、服をデザインしているのも企業を経営しているのも男性なのです」と指摘し、こう続けます。

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「女性が着るものを男性が決めるということに私は抵抗を覚えます。まして自分自身や体に対する気持ちまで男性にとやかく判断されるのはどうかと思いますね。女性には、自分の体を自分でコントロールし、自分にとって有効な機能を判断し、自分が着る服を自分でデザインしてほしいと思うのです」

今年、彼女が注目するニューヨークの新しいクリエイティブな勢力の多くは、テクノロジーの影響を受けています。

「このファッション・ウィークの開催地に、新しいクリエイティブなエネルギーをひしひしと感じます。

ボディー・スキャニング、3D プリント、バーチャル・リアリティー、適応性に優れた衣服など、実にさまざまなテクノロジーを採り入れています。これらすべてが新しいインタラクティブな体験を実現し、たくさんの新しいアイデアに可能性の広がりをもたらしてくれています」とマシャレン氏。

テクノロジーはミューズ (智の女神) であり、最終的な目標ではないと強調する彼女は、新しいアイデアや作品、他の業界のプロとのコラボレーションを通じて、新世代のデザイナーに刺激を与えたいと考えているのです。

マシャレン氏は、「自分自身や自分のような人がランウェイに立ったり、ファッション業界で働いているのを見たことがなければ、自分自身がランウェイに立ったり、ファッション業界で働いている姿は想像しづらいでしょう」と説明。

実存的転換 (価値観や世界観を変えることで課題を克服すること) は、マシャレン氏自身が身を持って体験してきたことであり、Chromat の中核でもあります。マシャレン氏のイノベーションにとって必要不可欠なものは多様性です。ファッション・デザイナーを志す人々は広い心を持ち、他者の意見を取り入れるべきだという彼女。そうすることで、より多くの恩恵が得られるとして、

「活動範囲を広げ、異分野の人々と仕事をすることで、途方もない魔法のような作品が生まれるのです。A 地点から B 地点にしか行けない狭い道を選ばないことです。関心のある分野や、全く異なるフィールドにも目を向けることが大切です」とマシャレン氏。

複数分野に目を向ける新しいデザイナーが未来のファッション界を築きつつある今、ファッション・ウィークと Vogue の写真には、さまざまな個性と背景を持つ人々が自分自身の肌に合う作品を求めているという事実がありありと反映されています。

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