エンターテインメント

センサーでダンスがうまくなる!

Hal Foster iQ Contributor

センサー技術がダンス・パフォーマンスを大きく変えようとしています。センサーを利用することで、ダンサーはステージ上で即座に動きを調整し、息をのむような光と音のショーを創り出すことができます。

菊川 裕也氏が高校時代に情熱を傾けていたことの 1 つ。それは、ロックバンドで大声を張り上げ、ギターを激しくかき鳴らすことでした。一方、日本の多くの若者がそうであるように、テクノロジーにも夢中になっていました。

やがて首都大学東京大学院に入学した菊川氏は、インダストリアルアートを専攻し、アートとエンジニアリングの融合を目指しました。そこから、テクノロジーを使った新しいアートのカタチ、すなわちダンスの動きから音楽を生み出すというアイデアに取り組むようになったのです。

現在 31 歳になった菊川氏が発明した最先端のスマート・フットウェア「Orphe」(オルフェ) は、ダンサーの動きを音に変換するだけでなく、ダンスの動きを魅惑的な光のショーに一変させます。

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モーションセンサーと LED を使って新しい芸術表現を生み出すスマート・フットウェア「Orphe」

50 個のセンサーをコントロールする小型コンピューターが左右それぞれに埋め込まれたシューズ。その仕組みはこうです。センサーがダンスのステップを検知してさまざまな色の光に変換。ダンサーの動きに合わせて光の陰影や彩度が変化します。

さらに、連携するアプリケーション側では、ダンサーのステップを音に変換。短くて力強いステップはドラムのビートのように刻まれ、そのほかのステップはそれぞれ別の楽器の音を鳴らします。元新体操選手でダンサーとして活動する浅沼 圭氏は、自らのパフォーマンスに Orphe を使った感想を、「トレーニング・ツールとしても非常に役立ちます」と語っています。シューズが描く光のパターンを見れば、足裏のアーチを正しく使っているかどうかが分かるからです。

菊川氏のような開発者と、新しいアプローチを探し求めて活動しているダンサーや振付師の活躍のおかげで、ダンスとテクノロジーを融合させる試みにおいて、日本は世界をリードしています。

ダンスの動きをリアルタイムにチェック

西日本の山口情報芸術センター (YCAM) の竹下 暁子氏によると、ダンスとテクノロジーを融合しようという新しい動きが始まったのは 5 年前のことだと言います。竹下氏の「パフォーミングアーツ・アンド・テクノロジー・プロデューサー」という肩書き自体が、そうした新しい動きを物語っています。

「自分のパフォーマンスにテクノロジーを取り込んでいるダンサーや振付師は、現段階ではひと握りです。でも、その状況は変わろうとしています。今後 10 年間で、こうした新しいトレンドが広く受け入れられるようになるでしょう」と竹下氏。

そのトレンドの最先端にいる YCAM が開発した「モーション・キャプチャー・システム」では、ダンサーがリアルタイムに自分の動きを確認できます。

このシステムでは、ダンサーの体に装着した 12~16 個のセンサーがパルスを発信し、それがアニメーションに変換されて、ステージの主要な場所に設置されたスクリーンに表示されます。ダンサーはそれを見て、自分の動きが優美でなめらかなのか、それとも調整が必要なのかをチェックできます。ただし、YCAM で使われているセンサーは、前述の菊川氏が開発した Orphe とは異なり、光は放ちません。

YCAM が開発したテクノロジーと融合した 15 のダンス「ディヴィジュアル・プレイズ」
YCAM が開発したテクノロジーと融合した 15 のダンス「ディヴィジュアル・プレイズ」

センサーの活用でダンス・パフォーマンスがレベルアップ

第一線で活躍する安藤 洋子氏をはじめとするダンサーたちは、「センサーを活用することでパフォーマンスに新たな魅力が加わります」と口を揃えます。

安藤氏は、フランクフルトを拠点に活動する世界的に有名なアメリカ人振付家、ウィリアム・フォーサイス氏のコンテンポラリー・ダンス・グループに 15 年間所属しており、仮想の世界をイメージして体を動かすというフォーサイス氏の舞台を経験してきました。

この体験がきっかけで、2000 年代初めのころ、安藤氏は多くのダンサーに先駆けてテクノロジーの持つ可能性に注目するようになったのです。

YCAM がセンサーを使ったパフォーマンス向上システムを開発しているという話を聞きつけた安藤氏が、「ぜひプロジェクトに参加したい」と申し出たのには、こうした背景があったのです。一方、YCAM のスタッフは、安藤氏のような世界的に有名なパフォーマーが協力を申し出てくれたことに大喜びでした。

「このシステムを使うと、パフォーマンス中のダンサーが目にしている世界に新たな視点が加わり、新しい動きのアイデアがひらめくことがあります。また、ちょっと冒険してみようかなという気持ちにさせてくれる効果もあります」と安藤氏。また、新しい動きのアイデアや冒険はパフォーマンスのレベルアップに欠かせないとして、「人間はつい無難な道を選んでしまいがちです。でもクリエイティビティーを追求するなら、時には危険な橋を渡らなくてはなりません」と語っています。

テクノロジーが目障りに?

今後ますます多くのダンサー、振付師、プロデューサーがセンサーベースのテクノロジーを取り入れていくことになるでしょう。では、見る側にはどのように映っているのでしょうか?

「私のパフォーマンスに合わせて Orphe が光のパターンを織りなす様子を見た瞬間、観客席からどよめきが沸き起こりました。しかも、素晴らしい!素敵!という声が初めから終わりまでずっと聞こえていました」とダンサーの浅沼氏。

しかし一方で、センサーを使ったシステムを評価しない人もいます。

例えば、舞台評論家であり、カーネギーメロン大学の教授でもあるゴラン・レヴィン氏は、YCAM のシステムについて、ダンサーの腕や脚、シューズにセンサーを留めるためのストラップが目障りだと指摘します。

「ダンスで大切なのは観客の目に映るダンサーの体とその輪郭、そして空間の中に描かれるフォームです。ストラップだの電子機器だのとごちゃごちゃとしたものが目に入ると、パフォーマンスに集中できません」とレヴィン氏。

とはいえ、ダンスの世界が今後テクノロジーをどんどん取り入れていくことになるのは間違いありません。ストラップもいずれ不要になる日が来るはずです。

ストラップはさておき、アーティストたちはこの比較的新しいツールにこれまでにない刺激を感じています。その刺激が続く限り、この新しいツールは舞台に新しい言語、表現、ストーリーをもたらすことでしょう。そうした可能性を秘めているということだけでも、ダンサーにとってはこの上なくエキサイティングなことなのです。

 

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