仮想現実

リアルな仮想体験を実現する 3 つの VR プロジェクト

Shawn Krest Writer, Movable Media

驚くほどリアルで日常生活にも役立つ VR 体験の実現に向け、研究者や開発者が日々取り組みを進めています。そのいくつかをご紹介しましょう。

Web 黎明期の「仮想現実」(VR:Virtual Reality) は、メインフレーム・コンピューター時代に初めて開発されたコンピューター・シミュレーションがリアルな現実体験を提供していました。このころは、VR をうさん臭く思う人もいましたが、それでもホットな話題でした。

それから 40 年をかけて VR は SF の世界から現実へと進化し、いよいよ市場を席巻しようとしています。

早くも VR に目を付けたのが、エンターテインメント業界です。2016 年のグラミー賞授賞式の生中継では、3D の背景に見立てたレディー・ガガの顔タトゥーの映像を映し出すパフォーマンスが披露されました。

VR への投資は、その可能性がエンターテインメントから製造、観光、不動産の業界へと広がるにつれ、ますます過熱しつつあります。インテルが、スポーツファン向けに 360 度の VR 再生技術を提供する Replay Technologies 社を買収したのも、2025 年までに VR が 800 億ドル市場に成長するという Goldman Sachs Group の予測を象徴する動向の 1 つと言えるでしょう。

STRIVR Labs は、フィールドにいなくても実際の練習を再現できる、アスリート向け VR トレーニング・ソフトウェア。

FacebookGoogle、Samsung などの大手テクノロジー企業も、ユーザーの仮想体験を向上させる最新の研究を支援しています。大学や民間企業の研究者や開発者が、人々の暮らしに役立つ VR 開発に向けて競争を始めた今、新しい VR 体験を切り拓こうとしているいくつかのプロジェクトを覗いてみましょう。

“洞窟”から外の世界を追体験

VR は、多くの科学者の作業方法を変えました。フィールドワークはコストがかかる上に難しく、状況によっては不可能な場合もあります。

ブラウン大学のコンピューター科学部には、もう何年も前から、「CAVE」 (Cave Automatic Virtual Environment の略) と呼ばれる VR ルームがありました。CAVE は 8 フィート (2.4 メートル) の立方体で、壁 3 面と床に映像が投影されています。立体的な奥行を知覚できるディスプレイ・メガネ、位置情報の追跡デバイス、音響機器を使うことで、研究者はかつて体験したこともない世界へと足を踏み入れることができるのです。

ブラウン大学コンピューター科学部教授であり、Visualization Research Lab および新しい仮想環境を提供する YURT (Yurt Ultimate Reality Theater) の所長を務めるデビッド・H・レイドロウ氏は、「3D VR ルームでの体験は、何物にも代えがたい経験です。とにかく『なんだこれ! うわあ! すごいぞ!』と興奮してしまいます」と語っています。

同大学の天文学部は火星表面の探索に CAVE を利用。また、考古学者は過去の発掘を追体験することができました。さらに、脳の神経回路の精査や、本物そっくりな胎児を使った手術の練習などにも対応します。

「冠状動脈を流れる血液など、流体の動きを 3D で調査するために利用する人や、コウモリの翼の周りを流れる空気の調査に利用する研究者もいます」とレイドロウ氏。

本物に近い環境を創り出すのは、CAVE の壁 3 面と床に貼られた VR スクリーンですが、レイドロウ氏はこれだけでは満足できず、仮想体験のさらなる向上に乗り出しました。

主に取り組んできたのは、人間の感覚をできる限り VR 体験の中に取り込むことです。

こうして誕生したのが、新しい仮想環境を提供する空間 YURTです。この部屋の形は、VR 体験を妨げる角や平面のない円錐型をしています。

YURT は 200 万画素のカメラを 69 台使用。部屋全体の解像度は、多数のカメラの画像が重なることを考慮したとしても、優に 1 億ピクセルを超えます。

レイドロウ氏は、「スクリーン解像度や、識別できる明るさ、コントラストは人間の目に匹敵します。言うなれば、網膜ディスプレイです。これ以上は人間が感知できないので必要ありません。私たちは人間の感覚能力を完全に満たすことに成功したのです」と説明しています。

特に動画において、YURT はほとんどのカメラが捉えられる以上の詳細な情報を表示することができますが、人間の目が見えるものに限界があるのと同様に、YURT もハードウェアによる制限があります。

「複数のレンズを持つカメラであっても、球形全体を捉えるときは 1 つの視点からしか捉えられません。しかし VR の場合、3D の世界全体を定義する必要があるのです。

残念ながら、YURT で生のフットボールの試合を観戦しつつ、そのフィールドで選手の間を縫うように歩くといった体験はまだできません。できると最高だなとは思います。VR の世界では選手に触れることはできませんから、選手とぶつかる心配もありません。」(レイドロウ氏)。

振動を通じて何かに触れる感覚を再現

レイドロウ氏が目指すような世界が実現するころには、選手と体当たりする感覚も再現されるかもしれません。ロチェスター大学の学部生 3 人が創業したテクノロジー企業 Nullspace 社では、仮想世界で何かに触れる感覚を再現する触覚スーツを開発しています。

写真は NullSpace VR から。

Nullspace スーツのコンセプトを最初に思い付いたのは、ルシアン・コープランド氏とジョーダン・ブルックス氏が大学 4 年生、モルガン・シンコ氏が大学 3 年生のときでした。

「モルガンの弟が Microsoft Kinect でドッジボール・ゲームをしていたとき、ボールに直接触れることができなくてイライラし出したそうです。モルガンがそれを見てひらめいたのです」とブルックス氏は説明します。

そこで、彼らは仮想世界に触覚を組み込むためのツールを設計。こうして誕生したのが、独立して動作する 32 のバイブレーション・パッドが付いたジャケットとグローブです。利用者は指、手、腕、胸、腹、肩に触覚を感じられます。

120 種類近くの異なる触感を得られるというこのスーツについて、「その感覚は携帯電話の振動に似ていますが、携帯電話の振動より少し強く、服の上からでも感じることができます」とブルックス氏。

今のところは振動のフィードバックをベースとしていますが、最終的には、仮想上の物体に実在感を持たせる機能をはじめ、さまざまな感覚を幅広く再現できることを目指していると言います。

このスーツの反響の高さから、仮想環境下での相互作用に多くの関心が寄せられていることが分かります。

ブルックス氏は、「いくつかのメーカーフェアやコンペに持ち込んだところ、どこでもみなさん大興奮でした。特に Cornell Cup に初出展したときは、スーツを試着しようと、展示会場をぐるりと回るほどの列ができました」と振り返ります。

このスーツが適用できそうな分野は、ゲームに限りません。

「このスーツは体験に没入できるので、健全な形で追体験や時間の経過を整理することができます。NASA で 1 ~ 2 人の方と話したところ、宇宙飛行士の宇宙遊泳の訓練で利用したいと言われました。退役軍人局の方からは、退役軍人の PTSD の治療法である仮想現実暴露療法に利用できないかと相談を持ちかけられました。」と語るブルックス氏は、さらにロボットの遠隔制御に利用できる可能性もあるとして、こう展望します。

「私たちの目標は、VR で誰もが触覚のフィードバックを得られるようにすることです。VR の世界で、あたかも実在しているかのような感覚を誰もが得られるようにしたいと考えています」。

一人きりにはならないために

一方で、VR は人間を孤独に追い込む可能性もあります。ヘッドセットを装着した途端、現実世界や利用者の実生活でのつながりが消え去ってしまうからです。

ニューヨーク大学のコンピューター・サイエンス学部では、VR 技術の進化ではなく、VR の普及による影響について研究しています。端的に言うと、同学部の研究者たちは、複数のユーザーが同じ体験を共有できる世界初の VR ソーシャル・ネットワークを開発したいと考えているのです。

VR ゲーム「Keep Talking and Nobody Explodes」で爆弾処理に挑戦する 2 人のプレーヤー。

VR と SNS とを組み合わせることに取り組む Holojam と呼ばれ。るこのプロジェクトでは、最大 4 人のユーザーが 32 ~ 34 フィート (約 9.7 ~ 10 メートル) の仮想空間を共有します。いわゆるマルチユーザー・システムの要件と同様、ユーザーは有線ではつながっていません。

ニューヨーク大学のコンピューター・サイエンス学部教授であり、同大学の Games for Learning Institute の所長を務めるケン・パーリン氏は、 VR 系の情報を発信するサイト UploadVR で、「私が最も関心を持っているのは、誰もが VR を日常生活で利用できるようになったとき、VR が社会にどのような影響を与えるかということです」と語っています。

この研究の目的は、「次の大きな変革」がきちんと定着できるようにすること。人間の目に匹敵する仮想体験から、完全な触感を再現して仮想世界への没入感を高めるものまで、VR 技術は日々進化しています。体験の精度がますます高まる中で、彼らは VR が人々に受け入れられる前に、共有可能な状態にする必要があると考えているのです。

 

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